第155話 親睦会:再自己紹介

 夜、指定の店に少しいい服でトキシィと訪れると、「ウェイド様ですね、お待ちしておりました」とウェイターさんに案内を受けた。


 案内された部屋は奥の奥に位置する個室で、すでにフレインたちが並んでいた。


 フレイン、カドラス、そしてシルヴィア。


 他の三人は今回も除け者らしい。可哀そう。


「何を考えてんのかは知らねぇが、アイツらは今日も仕事がある。ま、その分割り増しして分配してやるさ」


 フレインが言うと「こういうとこはしっかりしてるよな、クソガキ」とカドラスはからかった。


「ほら、座りなさいな。あなたたちが座らないと、コースが来ないでしょう?」


 そして親睦会という主旨よりも明らかに食事を楽しみにしているシルヴィアだ。マジで全員マイペースだなこのパーティ。


 ということで、俺とトキシィはフレインパーティの向かいに座った。食事が来るまでの流れ、ということで、俺は咳払いをする。


「じゃあ、そうだな。領主邸の自己紹介はかなり雑に流したし、自己紹介から始めるか? そっちの情報、フレインが罵倒してたイメージしかないし」


「あー……そうだな。そういえばバカとしか言われてねぇ」


 カドラスが苦笑している。あれから見ない内に、随分苦労人ポジションが似合うようになったものだ。


「じゃ、オレから行く」


 フレインは居直り、自己紹介を始めた。目元の大やけどに触れながら話す。


「オレはフレイン。ウェイドとは訓練所で絡んでボコられた時からの仲だ。ちなみに、オレの大やけどはウェイドのカウンターによるもんだ。この恨みは忘れねぇ」


「アレはお前が、勝負がついた後に不意打ちしてきたから仕方なくやったんだろうが!」


 俺が慌てて言い返すと、俺とフレイン以外の全員が驚いた顔になる。


「クソガキ、そうなのか!? お前のその火傷、そんなダッセェ経緯でついたのか!?」


「フレインだっさ。マジでダサイわよ。キモ」


「お前らには今後キツイクエストを集中的に回す」


「クソガキがよ」


「最低リーダー」


 俺とトキシィは苦笑するしかない。もうこの罵倒合戦はフレインパーティの風物詩的なやり取りなのだろう。


 俺はそこで、パーティごとに自己紹介するのも分断されている感じで良くないか、と口を開いた。


「じゃあ、次は俺が自己紹介とさせてもらうかな。俺はウェイド。フレインと少し仲良くなったのは、訓練所時代にたまたま遭遇したキメラを一緒に倒した時からだ」


「ウェイド訓練所時代にキメラ倒したの!? マジで!?」とトキシィ。


「うぉぉ、流石少年。訓練所かよ……。倒したのはどこかで聞いたが」とカドラス。


「流石最強のノロマ魔法……。訓練所時代から規格外」とシルヴィア。


 何か想定してた反応と違う。『苦労を乗り越えて仲良くなったんだね』的な反応を狙ってたのだが。


 そう思っていると、フレインは首を振った。


「ちげぇぞ、ウェイド。―――オレとお前は、仲良くない」


「じゃあこの親睦会何だよ! せめて『仲良くなろう』くらいの気概は見せろよ!」


 マズいぞこの親睦会。思ったよりカオスだぞ。


 俺は不満を隠せないまま口を閉ざす。すると「次は俺だな」とカドラスがキメ顔を作った。


「俺はカドラス! クソガキ、あと少年とそこの少女とはナイトファーザーの金融部門で敵として出会った! そして死闘の末、俺たちは和解したんだ」


「お前をぶちのめしたのはウェイドだろ。そんで詰め腹切らされそうだったところで逃げ惑ってたオレと遭遇して一緒に逃げて、成り行きでパーティになったんだろ。美化すんな」


「クソガキお前、本当に人の良い話聞くの嫌いな!? 何だよその自分を下げてでも相手をこき下ろす根性!」


 渋い顔のフレインに、カドラスはギャーギャーと物申す。フレインはうるさそうにしながら何も言わない。


 トキシィは言う。


「とりあえず、仲良いのは分かったよね」


「フレインパーティはまぁ見るからに仲いいしな」


 突っ込まれるのも面倒なので、俺たちは小声で意見を交わす。フレインパーティは、そんな俺たちを揃って怪しそうな目で見ている。そういうとこだぞ。


 そして、トキシィが咳払いをする。


「じゃあ、次は私かな? 私はトキシィ。まぁその、魔法属性のことでちょっと有名で、ソロでしか冒険者出来なかったところを、ウェイドに拾ってもらった、みたいな感じかな」


 俺は高らかに宣言する。


「俺の嫁です」


「あ、あはは……。恥ずかしいけど、そう言う感じです」


 おぉ、という顔をするフレインパーティ。そこで恥ずかしさが高まったトキシィは、要らんことを言い始めた。


「あ、あのあの、えっと、そう! 私はその、ウェイドのお嫁さんになる予定だけど! わ、私だけじゃないからね! 他にも二人お嫁さんいるから!」


 目をぐるぐるさせて言うトキシィ。俺を『マジ?』という目で見るフレインパーティ。


 俺は言った。


「子供はとりあえず30人目指す」


「ウェイドっ!? えっ、30!? え、た、単純に人数で割っても、1人10人……!?」


「少年。―――御見それしました」


「カドラス待て。屈服するな。オレも流石に動揺してるが、敗北を認めるのが早い」


「これが、ダンジョン狂いを除いた、カルディツァ最高の冒険者……」


 顔を真っ赤にして混乱するトキシィ。降参したカドラス。脅威の目で俺を見るフレイン。そして圧倒されるばかりのシルヴィア。


 危ない危ない。流れで軽蔑されるところだった。勝ったな。危なかった。


 そして最後、自然と全員の視線がシルヴィアに集まる。


 シルヴィアはとっても嫌そうな顔をして言った。


「……前に濃すぎるメンツが自己紹介しまくったから、したくない」


「だ、大丈夫だよ! ウェイドが濃すぎるだけだから!」


「それは、そうかもしれない」


 トキシィのフォローでやる気を取り戻すシルヴィアだ。俺、そうか。濃すぎるか、俺……。


 シルヴィアは一呼吸おいて自己紹介をする。


「アタシはシルヴィア。鉄魔法。違法奴隷扱いで傀儡子に傀儡にされる寸前で逃げだして、フレインとカドラスに助けられたの」


「お前空気読めよ」


「お嬢。今ってわいわいがやがやしながら程よくパンチの効いたこと言うタイミングだから。マジで重いこと言っちゃダメだぞ」


 一瞬凍り付きかけた空気が、フレインとカドラスの容赦ないディスで一瞬にして瓦解したのが今回のハイライトだった。

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