第140話 詳細
「ナイトファーザーの支部は随分潰した。まず真っ先に薬物部門、違法奴隷、違法武器。この三本柱を失って、ナイトファーザーは今かつてないほどに弱ってる」
フレインの説明に、俺は「ふぅん?」と相槌を打って聞き返した。
「いくつか質問がある。まず、お前狙われなかったのか? まぁそれでいったら金貸し部門を潰した俺は狙われてないって話だが」
「ウェイドのそれは、直後にオレが薬物部門を潰したから矛先がオレに向いたんだよ。フラウドスを生贄にしてある程度は噂も抑えられてたが、知ってる奴は知ってた。良かったなぁウェイド。感謝の気持ちに何か貰ってやってもいいぜ?」
「じゃあ結晶剣やるよ」
「どこから取り出したお前」
俺が左手の甲を手甲越しに叩いて、結晶剣を出現させた。一本贈呈する。フレインは、かなり胡乱な目つきで結晶剣を手に取った。
「うわ、何だこりゃあ……。えげつない切れ味だ。だが、脆いな。一回二回使ったらすぐへし折れそうだ」
「大事に使ってくれよ」
「マジでくれんのか……? じゃあまぁ、ありがたく頂くが」
受け取ってくれるらしい。意外にフレインもノリがいい。
「ま、そういうことで、ナイトファーザーからはしっかり狙われてた。一時期はダンジョンで寝泊まりしてたくらいだ。だが、ダンジョンだけは安住の地に選んじゃならないって分かったぜ」
「……」
「黙るな。オレはもうこの事を飲み込んでる。―――ハァー。残酷なんだか甘ちゃんなんだか」
フレインの仲間の死。だが、フレインは飲み込んだと言う。ならば、俺が無用に悼むものではない。フレインが、誰よりも悼んだことだろうから。
「そこで、同じく裏切り者として追われてたカドラスとかと手を組むようになって、ナイトファーザー憎しでさらにメンツを集めた。武力が集まったから反撃を入れて、違法奴隷部門も違法武器部門も潰したって訳だ」
「フレインはフレインで随分色々あったみたいだな……」
「まぁな。お前ほどじゃないだろうが」
「金等級になった時の話は多分想像を絶する」
「言わんでいい。興味がないわけじゃないが、今はナイトファーザーの話だ」
「そうだな」
仕切り直すフレインに、俺は尋ねる。
「違法奴隷に違法武器ってのは?」
「奴隷は基本的に領主によって認定、管理され、人道性の下に管理される。召使か用心棒を務める高級なペットみたいなもんだ。無用に虐げれば罪にもなる。……違法奴隷ってのは、そうじゃねぇってことだ」
「管理されてもなければ、無用に虐げても許される」
「許されるっつーか認識されない。通常の奴隷は問題なく運用されてるか定期的に確認されるからな。だからこそ、違法奴隷には変態やイカレが大枚をはたく。反吐が出るぜ」
だから潰してやった。とフレインは意地悪く笑う。こいつ根本的には善人だよな。悪ぶってるだけで。
「違法武器は?」
「武器もまぁ似たようなもんだ。管理されてない、普通街に入ってこない武器を扱う。……要するに、呪われた武器ってことだ。強いが、持ち主を狂わせる」
「例えば?」
「呪われた勝利の十三振り」
その禍々しい名前に、俺は口を閉ざす。
「この世で最も忌まわしい呪いの武器シリーズ。その内の一振りが、カルディツァに入ってきたって話だ。部門は潰したが発見は出来なかった。恐らく、まだ幹部連中の方で持ってる奴がいる。それだけが今の心残りだな」
何ともゾクゾクする話で、俺はちょっと笑みを堪えきれなくなってくる。
「ウェイド、お前本当に趣味が悪いな」
「うるせぇな。敵が強そうだとワクワクするだろ」
「面倒くさくて反吐が出るだろ」
感性が完全に真逆だったので、俺たちはお互いに奇妙な顔をしてそのまま話を先に進める。
「で? ナイトファーザーを完全に潰すのに噛むってのは分かったが、具体的にはどうすんだよ」
「基本的には土壇場で暴れてくれりゃあいいが、状況によっては何か頼むかもしれん。その辺りは領主と話して伝える」
「は? 領主様噛んでんの?」
「噛んでるに決まってんだろアホかお前。戦争が始まりそうなタイミングで反社組織のさばらせてたら、何が起こるか分かったもんじゃねぇ。だから、そこに合わせて潰そうって魂胆なんだよ」
話を受けるなら、次の会合は領主邸だからな、とフレインは言う。
領主も手広くやっているものだ。もしかしたら、俺がフレインに勧誘を受けてるのも領主の勧めかもしれない。……いや、違うな。フレインのテンション的に、金融部門潰しの時に巻き込まれた意趣返しっぽい気がする。
まぁ、楽しそうだから恐らく受けるだろうが。あんまり軽く見られるのも良くないので、話を聞き終わってから判断しよう。
「なるほどねぇ……。ナイトファーザーを成り行きで弱らせたから、大舞台で一気に詰められる戦力を探して、ってとこか」
「そうなる。―――こんなことは口が裂けても言いたくなかったが、剣の冒険者の領域で暴れてくれる、カルディツァで一番強いパーティはお前のところだ、ウェイド」
フレインは、俺を見つめてくる。
「ナイトファーザーは極悪非道のクソ外道だ。潰せるときに潰しておきたい。オレのパーティでも大半の雑兵はどうにかなるが、ボスの懐刀たちはオレたちだけじゃあリスクがある」
そう言うワードに弱い俺は、口端がニヤッと上がってしまう。まだだ……。まだ耐えろ……。
「懐刀って?」
「三人いる、ナイトファーザーの武闘派幹部メンバーってとこか。こいつら以外はオレらが倒したが、懐刀の一人を相手に一度敗走させられた」
「……銀パーティをたった一人で、となるとほとんど金等級だな」
俺が言うと、「ご推察の通りだ」とフレインは思いっきり渋面で、ダブルピースを曲げ伸ばしする皮肉のポーズで言った。
「違法奴隷に何か仕込んで異様な兵士にし操る『傀儡子』、新しくボスに雇われた飛び入り用心棒『燕』、そして数々の脈絡ない噂を持つ謎に包まれた『変幻自在』」
フレインは列挙する。
「この三人は、全員金等級だ。こいつらが居たから、今でもボスを倒せてねぇ」
「金等級を三人囲うとは。相当稼いでたらしいな」
「ナイトファーザーのボスは裏商売の天才なんだよ。公にしちゃならない需要を掴むのに長けてる。……そうやって、クソ外道の城は立ったんだ」
何か含みのある物言いで、フレインは言った。
「ともかく、だ。最終目標はこいつらを排除して、ボスを捕縛し衛兵につきだすこと。お前らにはそういうことを頼みたい」
「なるほどねぇ。ま、持ち帰って考えてみるわ」
「フン、もったいぶるじゃねぇか。どうせ受けるんだろ? ……強者との戦闘は、ウェイド、お前の大好物だろうが」
「……ノーコメントで」
俺は追及を躱して立ち上がった。十中八九受けるが、独断というわけにもいかない。我を忘れて飛び出していいのは戦闘時だけだ。……何で許されてるんだろうとも思うが。
机から離れると、音消しの魔法をくぐったのが分かった。途端、喧騒に包まれる。
俺は出口に向かいつつ、ふとクエストボードの周りにいる冒険者たちが、妙に俺を見ていることに気が付いて、近づいた。
「何で俺のこと見てたんだ?」
「い、いや! 悪気があったわけじゃねぇよ。ただ……」
冒険者が指さす先を見て、俺は盛大に顔をしかめた。
それは依頼だった。
『人探し依頼:冒険者になった息子を探して欲しい。名前は「ウェイド」』
俺は、口の中で呟く。
―――今更、何のつもりだ、クソ親父。
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