金等級編
第102話 久しぶりのギルド
モルルとリージュが、ボードゲームで遊んでいた。
「ですから、ここはこうですわ。そうそう……。そうすると、こうして、こうですの」
「取られちゃった?」
「そうですわ」
「じゃあこれで取り返す」
「あっ!」
俺は、そんな微笑ましいやり取りを、ぼんやりと眺めていた。
夕方、今日の軽いクエストや家事など諸々を済ませた、自由時間のことだった。モルル、リージュ問わず、全員がのんびりとしている。
「最初はどうなることかと思った、けど、リージュ、すっかり馴染んだ、ね……っ」
俺の右隣でくつろぎながら、アイスは言った。
「ねー。すっかり子供二人、仲良くなっちゃって」
俺の左隣で俺に寄り掛かりながら、トキシィも賛同する。
「問題は、ウィンディ。特に何もないと、ずっとそこで突っ立ってる」
ソファ越しに俺に背後から抱き着きながら、俺の肩に頭を置いてサンドラは問題提起する。
俺は言った。
「みんな距離近くないか?」
「そんなことない」「そんなことないって」「そんなことない、よ……っ?」
「そっかぁ」
ないらしい。いやあるだろ、と思うが、この状況でそんなことを言えるわけもなく。
きっかけは、数日前のことだ。
俺はアイスと結ばれた。で、その翌日に早々にそのことをパーティに発表した。
愕然としたのはトキシィとサンドラだ。二人とも半泣きで表情を失っているのを見て、慌てて「アイス一人に決めたという事ではない」と弁解したのだ。
―――アイスのことをきっかけに、二人とも向き合う。二人のことも憎からず思っているし、機を見て、二人とも結ばれたいと思う。
ただ、その中で、アイスが俺の覚悟を決めさせたのだ、という説明をして、やっと二人からひとまずの納得を得たのだった。
それが先日の顛末。で、ここからがそれ以後の変化の話だ。
アイスはもう色々あったのもあって、とても距離感が近い状態に落ち着いている。だが同時、対抗するようにトキシィ、サンドラの二人もかなり引っ付いてくるようになったのだ。
もちろん嫌な訳ではない。自分に好意を抱いてくれている可愛い女の子に好かれてくっつかれるのが嬉しいことは否定しない。
……が、どうしてもこう、照れ臭い。
ということで、俺は口元をもにょつかせつつ、机の反対側で一人そろばんを使って、資金繰りに羽ペンを動かしているクレイに視線をやる。助け船の要請だ。
流石クレイは察知能力が高く、俺の救助要請の目にすぐに気づいた。
俺は期待に目を見開く。クレイはパチパチと目をしばたかせて、俺は細かく首を縦に振った。
クレイは僅かに動き出す。さぁ、どうだ。どう助けてくれるんだ―――
と思っていたら、奴は満面の笑みでサムズアップし、再び作業に戻りやがった。
「……」
クレイこいつ……!
俺は失意の下に目を瞑る。前以外からアイス、トキシィ、サンドラがより俺にくっついてくる。
「ぱぱー、リージュと遊ぶの飽きたー」
「ちょっ」
そして幾分か言葉が流暢になったモルルが、さらりとリージュをディスりつつ俺の膝に納まった。
これで四方を女性陣に完全に包囲されたことになる。
しかしこれで終わりではない。
「……し、失礼しますわっ」
しばらく戸惑ったようにモルルを見ていたリージュが、ちょこんと俺の膝に腰かけ、モルルの傍に寄るように、同時に俺にそれとなく流し目をしつつ座る。
「か、勘違いしないでくださいませ。ワタクシは、モルルの隣に座りたかっただけですわっ」
「お、おう。そうか……」
俺はもう両手に花と言うか四面楚花というか、あらゆる方向を包囲されてしまい固まるしかない。
「……ぷっ」
それにクレイがこっそり吹き出していた。
「仲睦まじいことはいいことですね」
そしてウィンディが分かったようなことを言った。
俺は目を瞑り、少し考え、そして口を開いた。
「そういや今日の夕飯ってどうなってる? 特に出来てるとかじゃなければ、久しぶりにギルドで食わないか?」
賛成の声がちらほら上がる。それをいいことに、俺はモルルとリージュをどかして立ち上がった。
そこで、アイスがこそっと耳打ちしてくる。
「ウェイドくん、実は恥ずかしがり、だもん、ね」
クスクスと笑い半分で言われ、俺は渋い顔でガードのジェスチャーだ。
「あんまりからかってくれるなよ」
「だって、こういうときのウェイドくん、可愛いん、だもん」
アイスには敵わないな、と思いながら、俺はキビキビと準備する。
「いやぁ、何と言うか久しぶりだね。最近はみんな揃ってクエストと言うのも少なかったから」
クレイが言うのに、俺は「そうだな。個人で来て肩慣らしに受けてる面々もいるが」とサンドラを見る。
「月に銅貨十枚のお小遣いじゃ足りない。抗議活動」
「だってサンドラ全部お菓子に使っちゃうじゃん。お菓子なら銅貨十枚でいいでしょ」
「一日で使い切る」
「お菓子食べ過ぎ」
ぺしっとトキシィがサンドラにチョップする。サンドラはトキシィには弱いようで、「クゥーン」と鳴いた。
一方、初めて来るのか目をキラキラとさせている者もいる。
「うおおー。ギルド、……人いっぱい!」
「なるほど、ここが冒険者ギルドですのね……! 危険だからと連れてきてもらえませんでしたので、初めて来ましたわ!」
モルルとリージュが興奮気味に飛び跳ねている。それをアイスが「あんまりはしゃぐと、怖いお兄さんたちに怒られちゃうから、大人しく、ね……!」と制止している。
子供二人はウィンディに預けておこうかと思ったのだが、そこでリージュが「行きたいですわ!」とわがままを言ったのだ。そしてそこにモルルが「モルルも!」と便乗する始末。
まぁ高い金を貰っているし、ということで、ウィンディもお世話係に任命しつつ、俺たちなら何とかなるだろう、という考えで連れてきたのだが。
「おい……。ありゃ、ウェイドパーティか? ほとんど銅のメンバーでドラゴンを狩ったあの……」
「領主とひと悶着あったって話だったが、本当らしいな。ウィンディなんてギルドで見るの何年ぶりだ……?」
「子供連れかよ、舐めやがって。何が最強の銅等級パーティだ。ちょっと行ってくる」
「バカ! ヤメロ! 噂じゃナイトファーザーの一部門を潰した噂まであるヤベー奴らだぞ! 関わり合いになるな!」
「っていうか待てよ。子供の一人、アレ領主様のとこのお嬢様の一人じゃねぇのか……? 身なりも場違いに良い」
「は……? おい待てよ。つーことは、ウェイドパーティ公権力まで味方につけたってか……?」
「おい、もう近づくのはやめておこうぜ。ありゃ火薬庫だ。迂闊に触ればボンッ、だぜ」
「おっかねぇ……」
遠くでこそこそとならず者たちが言い合っているのが聞こえてきて、俺は何ともいえずげんなりする。
ひとまず、やりたいことはやってしまおう。俺はそう考え、みんなに指示を出した。
「ウィンディ、適当なところに席を確保して子供見守っててくれ。女性陣も同じ場所で待機。好きに飯でも頼んでてくれ。クレイ、いくらか情報収集したいから付き合ってくれよ」
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