第63話 ワイバーン討伐計画立案本部:分析フェーズ
サンドラを連れてパーティハウスに戻ると、上機嫌のアイスとトキシィが話していた。
「ふふ……っ。これで、ウェイドくんが怪我しても治してあげれるね……!」
「うんうん! それに、私のルーンもかなり効果あったし! まさかあんな遠距離をバンバン当てられるとは……あ、ウェイド!」
俺は微笑ましさを感じながら、手を挙げる。
「ただいま。たまたま見つけたから、サンドラも連れてきた」
「どもー。今日から住み込みが決まったサンドラ、ここに推参」
「あ、サンドラさんも住む……んだね」
「十個の個室なんて絶対埋まらないと思ってたけど、もう過半数だよ。びっくり」
俺はちょっと不満げなアイスの頭を撫でてそっとご機嫌を取りつつ、二人に「クレイは?」と問いかける。
「クレイくんは、まだ帰ってきてない、よ?」
「そういえば早々に私たちからも離れてっちゃったよね。本当に何してるんだろ」
そんなことを言い合っていると、クレイが帰ってきた。
「ふぅ、疲れた。おや、みんな勢ぞろいだね」
「うお、クレイお前土まみれじゃん」
「土魔法だからね」
肩を竦めるクレイに、「そういうことじゃねぇよ」とどつく。
クレイは、土砂崩れから生還してきたのか、と言いたいくらい、服を土まみれにしていた。一体何をやったらこんなことになるのか。
「クレイ、一旦全身水浴びしてこいよ。そのまま上がったら間違いなく家が汚れる」
「もちろんそのつもりだよ。ここには、これを置きに来ただけさ」
手渡される。何かと思って見下ろすと、それは金色に輝く金属らしきものだった。
「……何だこれ」
「多分金。金鉱脈見つけちゃったみたいでね」
「マジでお前何やったの?」
「水浴びしてくるよ」
にこやかに笑ってまた外に出てしまうクレイに、俺たちは顔を見合わせ、肩を竦めるのだった。
「ということで、みんな色々あるとは思うが、ワイバーンをどう倒すか、という話をしていきたいと思う」
「「「「了解」」」」
俺たちは頷き合い、スムーズに進行した。
「で、現状どうするかについてだが……ひとまず、昨日の調査で色々と分かったことがあると思う。それを、それぞれ発表していってからどう倒すか、という話をしよう」
まずクレイから、と俺は目を向ける。
「では、最初の発表を務めさせてもらおうかな。今回調査したのは、『食性』『警戒心』『毒耐性』『感電耐性』『防御力』の5つだ。その内、僕は『食性』について話すよ」
クレイは、ピンと人差し指を立てる。
「ワイバーンは、現地と図書館で調べた通り、肉食のモンスターらしい。特に、人間よりも一回り、二回り大きいモンスターを狙うようだね。さらに追加の情報として、人工物に興味を示さない」
つまり、だ。とクレイは続ける。
「僕が何となく構想していた、餌で釣る、という作戦は十分有効であるという事が判明している。僕からは以上だよ」
「ありがとう、クレイ」
流石貴族なだけあって、俺が門前払いされた図書館をちゃんと活用して調べてきているらしい。
「じゃあ次、アイス」
「う、うん……っ。えっと、『警戒心』についてだけど、食べ物を食べてるときは夢中で、周りに関心を払わない……のは、みんな知ってるよ、ね」
それで、とアイス続ける。
「でも、番いがいるから、それも当てにならない、のが、今分かってる、こと。ここまで、再確認」
アイスは深呼吸して、俺を見る。
「ここから、わたしが気付いた、こと……。わたしたちを見つけた、ワイバーン。多分メスなんだと思う。……お腹が、膨らんでた」
「卵を抱えてるってことか」
俺に言葉に、アイスは頷く。
「う、ん……。それで、多分あの飛び回ってる方のワイバーンは、それでピリピリしてるんじゃないかなって……」
「驚いた。氷ちゃん、びくびくしてる割に、よく見てる」
サンドラに言われて、アイスは「えへ、へ」と曖昧に笑う。
逆に、クレイとトキシィは苦笑した。
「一番肝が据わってるのがアイスさんだとは夢にも思ってないんだろうね」
「まぁ新入りだから……」
二人が何か言ってる。
「次、トキシィ」
「はーい。まぁ私からの報告は昨日ちょっと済ませちゃったところあるし、ササっと行くね。『毒耐性』だけど、ま、問題ないよってのが結論かな。あの程度でふらつくなら、十分仕留められる」
「あ、僕から質問いいかい?」
手を挙げたクレイに、「何?」とトキシィは返す。
「ワイバーンを始めとして、ドラゴンは『捨てる場所無し』と言われるくらい価値がある。可能なら肉も食べられる状態で倒したいんだ。二匹分だから、ざっくり金貨5枚の価値はある」
アレクの授業料ペイできるじゃん。
「あー……おっけ。そっか。なるほど……とすると、仕留めるまでは難しいかな。痺れさせて、数分動けなくさせるのはいけるはず。それだと毒はちゃんと抜けるよ」
「ありがとう。僕からは以上だ」
俺はみんなを見渡す。他に質問がある人は居なさそうだ。
「じゃあサンドラ」
「『感電耐性』は、毒に比べたらかなり高かった。鱗に鉄の要素があって、電気を受け流してしまうみたい。あたしが活躍できるとしたら、ワイバーンに傷を負わせてからになる」
言いながら、サンドラは俺から抜いたと思しき鱗を、指でぴらぴら動かしている。
「そうだったな……。飛んでたワイバーンに落雷当てたのに、ワイバーン飛び続けてたもんな」
アレはビビった。そんな仕組みがあったとは。驚きだ。
「鉄の鱗を帯びた重い体で飛翔するとは……。何か魔術で飛んでるのか? 流石はドラゴンというべきか」
考え込んでしまうクレイを置いて、俺は最後の発表に移る。
「最後に俺だな。『防御力』だが、問題ない。俺なら砕ける」
「剣も使わずに砕いた本人が言うならもうそれでいいよね」
トキシィの言葉にみんなが頷く。俺も頷く。
「突っ込むの俺だしな!」
「このイノシシ一生治んないんだろうなぁ……」
トキシィが嘆息する。俺は無視して言った。
「じゃあ次は、どうワイバーンをぶちのめすかをみんなで考える、楽しい時間に入ろうか。みんな、あの空飛ぶトカゲ、どう叩きのめしたい?」
俺は、獰猛に笑う。
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