第56話 案内

 テンションぶちあがった俺は、もうその日に一度ワイバーンの様子を見に行くことになった。


 あくまで偵察なので、詳細を知るサンドラと俺が居れば十分な想定だったが、メンバー的にはそうでもないらしい。


「ウェイドくんの傍に、ずっといるから、ね……っ」とアイス。


「行くならぜひこの目で情報を精査しておきたいし、今回は同席するよ」とクレイ。


「山歩きは得意だし、そもそも弓の冒険者だからね、私」とトキシィ。


 結局俺たちは、5人全員でワイバーンの偵察に赴くことになった。


「というか、何なら一番休んでるべきなのがウェイドだよね」


「返す言葉もない」


 俺は魔力をお菓子摂取で回復しはしたものの、あくまで全体としては微量だった。


 アレだけ全力で魔法を多数の対象に行使して、しかも数時間耐えたのだ。ちょっとやそっとじゃあ回復しきれないのも無理はない。


 そのお陰で新しい魔法を覚えたものだったが、残念ながら早くとも明日までは使えないだろう、というのが推測だった。


「でも、偵察でテンションが上がりすぎて、ろくな準備も出来ていないのにウェイド君が飛び出していってしまう、という事態は避けられそうだね」


 クレイのからかいに「降参だ。あんまりいじめないでくれ」と俺はもろ手を挙げた。


「よしよし……っ」


 そしてアイスは無限に俺の頭を撫でている。


「仲良しパーティだね」


 そんな様子を見て、サンドラは言った。


 森。


 ワイバーンが住み着くようになったという、山へとつながる道の途中のことだった。


「あたしも色んなパーティ経てきたけど、こんなに仲のいいパーティも久しぶり」


「そうなのか? 大抵のパーティって、仲間を想い合ってるようなイメージがあったんだが」


 俺のところもそうだが、フレインのパーティという別の例もある。フレイン以外が怪我で動けない、となった時、フレインは躍起になって稼ごうとしていた。


 それは、他のメンバーを食わせてやるためだろう。ああ見えて仲間想いな奴なのだ。


 だが、サンドラは首を横に振る。


「そうでもない。卒業生からの継続パーティは割と仲がいいことも多いけど、大抵すぐに離散する。実力、性格、やりたいこと。全部が揃うのは難しい」


「そう言うもんか」


「そう。だから実力で釣り合って、その時点でやりたいことが一致するパーティに入るのが一般的。性格はどうでもいい。お互いがちゃんと仕事していれば、無理に交流しようとしなければ、不一致でもやっていける」


 その意味で、とサンドラは続けた。


「最初は、何ならこのパーティからウェイドを引き抜いて、他にもメンツを揃える予定だった。けど、他のメンバーも意外にデキるって分かったし、まだ何か隠してそうだから、継続でいいと思った」


「え、密かに離散させられそうになってたのか俺たち」


「実力で釣り合わないパーティは、あたしがどうこうするまでもなくそうなる。アタシが手を入れれば早まるだけ」


 淡々と言うサンドラだが、彼女に向ける他メンバーの視線は厳しい。


「……なら、これから実力が釣り合わなくなったら、わたしたちをバラバラにする……って、こと……?」


「それはそう。実力が釣り合わないパーティは不幸の種。死ぬ前に解散させた方がずっといい」


「僕らは、そんな事は頼んでいないよ」


「あたしも親切でやるんじゃない。ウェイドが欲しいからするだけ」


「……ねぇ、仮にも新しくパーティに入るって言うんだから、もっと仲良くしようとか、努力するつもりはないの?」


 トキシィの質問に、サンドラは答えた。


「あたしはあたしが好きだと思った人間にしか好意は示さない。あたしは冒険者だから、振る舞いに対しても自然体であることに誠実でいる。結果として嫌われるなら本望。嫌いな奴が居ても、仕事しなきゃ死ぬのが冒険者稼業だから」


「なるほど、筋金入りだ。若くして銀等級を持つだけはある」


 クレイの皮肉に、サンドラは「ありがとう」と前を向いた。


「……ちなみに、サンドラは何で俺を好きになってくれたんだ?」


 このまま空気が悪いのも嫌だな、と思って、せめてものとっかかりを作るべく、俺はサンドラに尋ねる。


 サンドラはこう答えた。


「狂気」


「は?」


「最初は顔だった。何かピンときた。けど、銅の癖に銀等級二人を相手取ろうとしたその狂気に惚れ込んだ。最高。あたし、そういう無謀で挑戦心に溢れたお馬鹿さん、大好きだから」


「……なるほど」


 となると、俺以外のメンバーと上手くやるのは難しいかもなぁ、と思っていた時、アイスがボソッと言った。


「……なんだ。それなら、すぐに馴染める、よ」


 ……。え、何で?


 と、そんなやり取りをしていると、「しっ」とサンドラが俺たちに目配せした。


「隠れる。茂み」


「「「「了解」」」」


 俺たちは近くの茂みに一斉に隠れる。すると、道の向こうから、巨大な影が現れた。


「(地竜)」


 隣に隠れるサンドラが、小声で言う。


「(ワイバーンが居なければ、もっと奥の方にいる、ここら辺一帯の主。ワイバーンの所為で住処を移動させられてる。連鎖的に他のモンスターも移動して、生態系がメチャクチャ)」


「(ワイバーンに地竜が脅かされてるのか?)」


 ちょっとイメージと違う。


「(そう。力では劣るから、ワイバーンは餌場確保の為に、空から一方的に嫌がらせをする。地竜は力強いけど、頭が悪いから仕返しできずに逃げる)」


 ワイバーンの方が総合的には上なのか。まぁ異世界だ。そういうこともあるか。


「(なるほど、それで狩る必要があるんだな)」


 その巨躯に、俺はうずうずするが、今回は我慢だ。強敵とは全力でぶつかりたい。俺が俺に言い訳できる状態なんて、クソ食らえだ。


 そうして息をひそめていると、地竜は俺たちの横を通り過ぎていった。


 俺たちは、続々と茂みから抜け出してくる。


「なるほど、これは早急に狩る必要がありそうだね」


「そう。で、地竜がいたとなると、ワイバーンはすぐ近く。多分山のふもと辺りで遊んでるはず」


「案内助かる、サンドラ。そう言うことだから、みんな少しペースを速めて移動しよう。とその前に、疲れてる奴は?」


 俺の呼びかけに、頷くものはいない。


「いいね。じゃあ、行こうか。サンドラ、引き続きよろしく」


「了解。……ウェイド、本当にリーダーだったんだ。リーダーとは名ばかりのエース枠だと思ってた」


「戦闘中はクレイに引き継ぐことになってる。今日はやり合わないから、ちゃんとリーダーの仕事をしてるんだ」


 俺が肩を竦めると、トキシィが「いつもこうだったら、もーっと頼もしいんだけどね」なんて悪戯っぽく笑う。

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