第51話 素晴らしき新居

「それで、ここが?」


 トキシィが感心した様子で屋敷を見た。


「ああ、ここだ。クレイと内見して、確かにこれはその価値があると認めて買い取った」


「すごい、ね……っ。こんな豪勢な家、初めて見た……!」


 アイスは目をキラキラさせて、屋敷に目を向けている。


 そう。今回購入したのは、まさに屋敷と言うべき家だった。


 住宅街からちょっと外れた、さらに静かな立地。少し歩けば森やダンジョンの入り口があるのに、メイン通りからはそう遠くないという冒険者には嬉しい場所。


 そこに、ドドンと構えられた、真っ白な二階建ての屋敷。そこが俺たちの新居だった。


「ひゃー……横に長いよ横に」


 トキシィが感心したように、家の端から端まで歩いている。武器庫まで含めるとかなりの長さだ。


「塀が高い、というのもいいね。もし何かあった時の安心感がある」


「何かって何だよ」


「そりゃあ襲撃とかさ。僕らはそう言うことをされる覚えがあるだろう?」


「……まぁ、確かに」


 物騒なことを言うクレイだが、概ね上機嫌と言ったところか。


 アイスは俺に駆け寄ってきて、ふんすふんすと鼻息荒く話しかけてくる。


「こんないい立地の家を大金貨一枚で買ってくるなんて、ウェイドくんはすごいよ……っ。普通買えない、よ? 静かで住みやすくて、どこにでも行きやすい、こんな大きな家……!」


「商人の娘なだけあって、価値の判断は確かみたいだな」


「それで、どんな欠陥があるの……?」


「あ、そこまで見抜かれてんだな」


 純粋な目で首を傾げるアイスに、俺は苦笑だ。


 ひとまず全員を集め直して、俺は説明した。


「よし、じゃあ一旦共有な。クレイはもう知ってるし、みんな何となく勘づいてるとは思うが、ここは訳あり物件だ。死人が良く出る家らしくてな。それで格安で譲ってもらったんだ」


「えぇ……? 何それ、幽霊が出るってこと?」


「分からん。とにかく死人が出るらしい。前の持ち主の商人は友人に刺されて、前の前の持ち主は盗賊に、さらに前は未知の病でぽっくり。一貫性はないが、とにかく死ぬんだと」


「ひぇえ……、何でそんなの買っちゃったの?」


 トキシィの質問に、俺とクレイが答えた。


「「破格の値段だったから」」


「うわーそうだった! このパーティって常識が欠如してたんだった忘れてた!」


 トキシィは頭を抱える。アイスがよしよしと頭を撫でている。


「ちなみに内見はしたけど、中身がボロいとかそう言うことはなかった。多少埃は積もってたけど、一日掃除すれば問題なく使える想定だ」


「大きな家……だもんね。広いと、お掃除大変……っ」


 言いながらも、アイスはやる気満々だ。両手を握って、ふんすとやる気に満ちている。


「ということで、今日はみんなで大掃除だ。その途中で気に入った部屋があれば適当に荷物を運びこんで予約してくれ。早い者勝ちだ」


「ちなみに僕はすでに日当たりのいい角部屋を予約してるのでよろしく」


「クレイお前いつの間に」


 にこやか~に頷くクレイだ。こいつも随分ちゃっかりしている。


「と言う感じだな。自室にできる部屋は10もあるから、適当に決めてくれ」


「了解……っ」


「まぁ、おっけ分かったよ。訳アリ部分がちょー怖いけど。ひとまずは何とか住んでみよっか」


 みんなの承諾を得て、俺は玄関の鍵を開けた。






 家の中は、元値大金貨七枚―――日本円換算二億一千万円相当の物件なだけあって、かなり豪華なものだった。


 石造りの清潔感のある真っ白なデザインは、家の外も中も同じのようで、床は温かみのある木目のフローリング。


 面白いのが、階段がきっちりしていないということだ。石造りでちょっとガタガタしているのが、何とも味があっていい。


 しかも庭付きで、話に聞いていたプールを目の当たりにしてぽっかり口が開いてしまった。


「これもうホテルだろ」


「ふふ……っ。良い家、買っちゃったね」


 掃除しながら、アイスが笑っていたものだ。


 さて肝心の訳アリ部分についてだが、その日は、そう妙なことは起こらなかった。


 掃除も一日で十分に片付いて、懸念点だったおれの鉄塊剣も、ちゃんと倉庫に納まった。


「これだけ広い倉庫なら、商人ギルドに貸していくらか儲けてもいいかもしれないね」


 クレイがそんなことを言っていたの覚えている。


 ともあれ、俺たちは宿屋から色々と荷運びして、食材や薪などもちゃんと一式用意して、これで転居完了だな、というところまで、その日中に完了させたのだ。


 問題は、翌日に起こった。


「来てー! 皆来てー!」


 朝。新しいベッドで気持ちよく寝ていたところ、トキシィの悲鳴を聞いて、俺は飛び起きた。


 声の発生源を聞くに、これはトキシィの部屋ではなく、リビングの方か。


 駆け付けてみると、トキシィが青い顔でリビングの壁に寄り掛かっていた。


「トキシィ、どうした。何があった?」


「あ、あれ……っ」


 トキシィが指さす方向を見る。


 そこには、傷だらけになって地面に転がる、妙な男が倒れていた。


「よ、よぉ……。あんたらの家、いい家だなぁ……。ゲホッ。……まさか、ちょいと忘れ物取りに戻ったら、防犯システムにこんなボコボコにされるたぁ……」


 ガクリ、とその男は、言うだけ言って気絶した。


 俺は、何度かまばたきをしてから呟く。


「……誰?」


 知らない奴だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る