銀等級編

第50話 転居先をお探しです

 その日は、クレイと二人で街を歩いていた。


「お、このトリ串ウマくね?」


「ハハ、そうなんだよ。僕のお気に入りでね」


 その辺の出店で買ったトリ串をパクつきながら、俺たちは中世ヨーロッパな街並みの、メイン通りから少しそれた通りを進む。


 何故なら、俺たちの今日の目的は、『パーティハウスの下見』であるからだ。


「いやぁ、しかしまさか、こんなすぐにパーティハウスの確保に向けて動くことになるとはな」


 俺が言うと、クレイは肩を竦めた。


「仕方ないよ。ウェイド君のあの特大剣は、宿屋を借りるときからかなり嫌そうな顔をされてたし」


 そうなのだ。お金が入ったからボチボチ様子を見るか、と思っていたら、いきなり宿屋の女将さんに怒鳴られたのだ。


『こんな大きな武器はもう抱えていられないよ! 武器庫の壁が壊れる重さっていったい何だい!』


 聞けば、取り立ての時にずっと武器庫に保管しっぱなしだったのが悪かったようで、あの尋常じゃない重さの鉄塊剣が倒れて、宿屋の武器庫の壁に穴をあけたらしい。


 ということで、ピーキーに過ぎる武器を持った俺の宿命という事で、早々にパーティハウスの確保に向けて動き出したのだ。


 ちなみにパーティハウスとは、その名の通りパーティを組むメンバーとのシェアハウスのようなもので、金周りの良い冒険者は大抵用意するものなのだとか。


「ま、ちょうどいいタイミングだったな。ある意味じゃこれ以上ないくらいだ」


「そうだね。お金がある今で良かった」


 俺たち食い盛りは早々に串を食べ終え、その辺のゴミ箱に捨てる。


 そう言うことが出来るのも、ここが高級住宅地に類する場所であるが故だろう。


「けど、何つーか気後れするな。こんないい立地の道を歩いたの、あんまり経験がなくてさ」


「ウェイド君が儲け話を見つけて、もぎ取ってきたおかげだね」


「トキシィのそれこれを儲け話と呼ぶのは気が引けるけどな」


 苦笑しながら、俺たちは地図を見つつキョロキョロと。


 そうしていると、お目当ての不動産屋を発見することに成功した。


「ここか」


「そうみたいだね。早速入ろう」


 俺、クレイの順番で入る。すると、奥でおっさんが不愛想に俺たちを見てきた。


「おい、ここはこの辺の高級住宅地専門の不動産だ。お前らみたいなガキはお呼びじゃねぇぞ」


「店主、予算はこれで」


 クレイがピンっ、と大金貨を指ではじいた。流石腐っても商人と言うべきか、おっさんは大金貨を掴むなり、目を瞠った。


「……怪しい金じゃねぇだろうな」


「飛び切りクリーンなお金さ」


「……なるほどな。ゴホン」


 おっさんは一つ咳払いをして、居住まいを正した。


「ようこそ、お客様。お客様の生活の味方となる屋敷なら、私にお任せください」


 ……商人の手の平返しの早さは、見ていてちょっと面白い。


 ひとまず、と俺たちは客間のソファに通され、並んで座ることになった。


 俺は要望を伝える。


「パーティハウスを探してるんです」


「パーティハウス、ですね。となると、冒険者の方々ですか。失礼ですが、パーティ名を聞いても?」


「ウェイドパーティですよ、店主」とクレイが言う。


「ああ、噂には聞いております。ノロ……失礼しました。重力魔法という足かせを物ともせず存在感を放つ、異様な新米パーティであると」


 俺のノロマ魔法どこでも聞くじゃん。


 あとどうでもいいけど、いい加減新しいパーティ名考えたい。


「でしたら、6人までの個室と共同リビングやキッチン、武器庫などが一通りそろった物件がおススメでしょう。新居というのはいいものですよ」


「良い感じのように、僕には見えるよ」


「俺もだ。となると、武器庫だけこだわらせてもらうか」


「武器に何か特殊なものを?」


「かなり大きな剣を使ってるんです。それに耐えられる武器庫が欲しくて」


「どのような大きさですか」


 こんなです、と俺は席を立って移動しながら説明する。店主はかなり難しい顔をする。


「その条件ですと、そうですね……。少々町はずれに一軒ありますが。いくつか他の問題が……」


「どんな問題ですか」


 俺が尋ねると、店主は神妙な顔で説明を始めた。


「非常にいい物件なんです。部屋も個室も10、共同リビング、キッチンも非常に大きい。倉庫も大きなものが付いていて、畑とプールも備え付けです。街はずれですが距離的に遠いかと言うとそうではありません。ですが」


 店主は一呼吸置いて続けた。


「よく、死人が出るんです。先日は大金貨2枚で買った商人がなくなりました。そう言った評判もあって、本来なら大金貨7枚は下らないようないい物件なのに、買い手が付かない」


 俺とクレイは顔を見合わせる。


「今まで冒険者は?」


「いいえ。冒険者はあんな大きな倉庫要りませんから。ですが、お話の大きな剣を保管する必要があるというなら、新築で作るかその物件しかありません」


「ちなみに新築だと」


「倉庫は建築費こそ低いですが、確保するための土地代が掛かります。倉庫だけ特注で、という条件でも大金貨3枚はしますね」


「なるほど……」


 相場は大金貨3枚な訳だ。


「値段は」


「勉強させていただきまして、今回はちょうど、大金貨一枚でお譲りしますよ」


 俺は腕を組み、クレイに持ちかける。


「大金貨二枚浮くと考えるなら、かなり手ごろだとは思うが」


「そうだね。住人がなくなるという話は懸念点としてあるけれど、僕たちは冒険者だ。不思議な屋敷の制圧で大金貨二枚の儲けと考えるなら、得が大きい」


「だな」


 俺たちは頷き合って、店主を見た。


「分かりました。軽く内見して、良さそうなら買います」


「分かりました。では、ご案内します」


 店主は立ち上がり、「おい、店番しておいてくれ!」と奥の従業員に指示をした。

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