第47話 祝勝会:アイスの秘密
「クレイくん、ズルい……! わたしも、ウェイドくんと話す、の……!」
「了解、アイスさん。二人水入らずで話してくれ」
クレイは両手を上げて降参のポーズのまま、反対側の席に回った。そのままスムーズにトキシィに話しかける。器用な奴だ。
「ウェイドくんも、こっち、見て……!」
そして拗ね気味のアイスである。酔うとちょっとワガママになる感じが、何ともいえず憎めないのだ。
「ごめんごめん。アイスとも話したいなと思ってたんだ。ほら、乾杯」
「カンパーイ……!」
カツーンと木樽ジョッキをぶつけ合う。ゴクリゴクリとお互いに飲む。アイスとの飲みはハイペースになりがちだ。
「今回は、ウェイドくんが楽しそうで、良かった……!」
一対一が構築されて、アイスは一気に機嫌を直してニコニコだ。可愛い奴め。
「ああ、楽しかったな、今回は。銀等級ってのはちょっと尋常じゃなかったぞ。仲間の助けがなかったら負けてたな」
「でも、勝ったのはウェイドくんだった、よ? しかも、圧勝……!」
「みんなのお蔭だよ。アイスには最後の一幕でずいぶん助けられた。地面の凍結と、あとカドラスの剣もな。鉄って凍ると脆くなるなんて知らなかった」
「ふふ……っ。わたしも、こっそり実験してる、から。基本的に、凍ったものは脆くなる、んだよ……!」
「ああ。今後も助けられそうだ。それにあの雪だるまも強いな。あれに凍結魔法を託せるって言うのがデカい。雪だるまってどこまで操れるんだ?」
「え? ……そっか。距離次第では出来ないこともある、のかな」
アイスクリエイト、とアイスは雪だるまを創造し、そのまま歩き出させた。俺が首を傾げていると「えへへ……」とはにかんで笑う。
「あの子、出来る限り遠くまで歩かせてみる、ね。あの子を操れなくなったら、それが限界ってこと、だから」
「ハハハ。それ面白いな。また操れなくなったり、また飲みとかのときにどこまで進めたか教えてくれ」
「うん……っ。でも、結構遠くまで行っちゃう、かも。そんなにね、遠いから操れない、みたいな感じはない、から」
「そうか。……もしかしたら世界の端まで行っちゃったりしてな」
「そしたら、とっても面白い、ね」
「だな」
雪だるまの新しい旅路を祈って、乾杯。と俺はアイスと乾杯する。
「でも、すごかったなぁ……! 銀等級の二人を相手に、ウェイドくん、一歩も引かないんだもん。今日も、格好良かった、よ……っ」
「よせよ、照れるな。あんなのは、二人が格下と侮ってくれただけだ。容赦なく来てたら、もっと厳しかった。特にカドラスは、俺のことを試すように戦ってたしな」
強敵だった。結果的には勝てたが、もう一度、今度は一人で勝負しろと言われて、勝てるとは言えなかった。
彼らはまさしく格上だった。今回の戦いは、胸を借りたと言う感じだ。トキシィの毒、アイスの凍結、そしてそれを指揮したクレイが居なければ、俺は負けていただろう。
ついでに、この三人を守ったらしいフレインも、か。
「パーティって、確か最大六人だったよな」
「うん。……また増やす、の?」
「それも悪くないなってさ。今回はフレインを臨時で誘ってて正解だったって、振り返って思ったんだ。フレインが居なければ正規メンバーはどこかで倒れた。そうすれば、今の勝ちもなかったかもしれない」
「……」
俺の言葉に、アイスは口をつぐむ。
「今回の戦いで分かったんだ。人数は力になる。策のハマり具合では、人数以上の効果を発揮する。キメラ戦は俺に伸びしろが残ってたからその場で何とかなった。けど、毎回俺が急成長するほど都合よくはない」
「……ウェイドくんって、不思議、だね」
「え?」
考え込んでいた俺は、アイスの感想に目を丸くする。
「とっても熱い面と、とっても冷静な面が、あるんだ……。勝っても、次勝つか分からないって、真剣に考え込むん、だね。なのに、戦いの場面ではあんなに大胆になるし、それで上手くいく」
「え、ああ。……確かに、今回は結果だけ見ればそうだったな。当初の計画だったらもっと厳しかったとは思う。アイスかトキシィのどっちかは怪我をしていた可能性がある」
衝動的に飛び出しただけだったが、結果的にはそれでよかった。そして、それを前提に今パーティは再編された。俺はリーダーでもあるが、戦場においてはエースとして動くと。
「わたしは、ね。ウェイドくん」
アイスは言う。
「ウェイドくんが、自分の意志で何かするのであれば、それでいいと思う、よ……っ。きっとそれで上手くいく、し、そうじゃなくても、わたしが手を尽くす、から」
「ハハハ、そりゃ頼もしいな」
「むぅ……! 本当、だよ?」
ちょっといじけるように言ったアイスの頭をぽんぽんと叩いて、「俺だって本当だ。頼りにしてるよ」と言う。
「疑わしい……」
「本当だって。ちなみに、アイスは今回、何をしてくれたんだ?」
「あ、うん。えっとね……」
アイスは、唇に人差し指を当てる。
ユージャリーは、屈辱の中で震えていた。
「クソ……クソクソクソクソ!」
誰も彼もが倒れ伏した客間で、ユージャリーは倒れる用心棒の一人を蹴り飛ばした。
「この、この私が、あんな小僧どもにいいようにされるとは……! しかも、アイツら布石を打って来やがった!」
フラウドスを踏みつける。このバカは痛がるばかりで、何も言い返してこなかった。
それをいいことに、ユージャリーは何度も執拗にフラウドスを踏みつけにする。
「あの小僧どもがしたのは、分かるかフラウドス、お前の代わりに武力交渉を行っただけだ! 強盗行為じゃねぇ! お前との借用書も交わした! どこまでも正当な要求だ!」
痛い、痛い、とフラウドスは身を固めて地面にうずくまる。ユージャリーは息を切らして、燃え尽きていないソファへと腰を下ろした。
「これじゃあ、ナイトファーザーへの敵対行為とはみなせない。本部の人間は動かないだろう。―――うまくやられた。ボスが手練れを向かわせることもあり得ねぇ!」
疲れ切ってもなお、ユージャリーの怒りは収まらない。
「クソが、あの、クソガキどもがァ! ……報復だ。ああ、いいとも。ふはは、報復だッ! ボスが人員を割かなくても、私の私兵を使えばいい!」
ユージャリーは、興奮のあまり立ち上がる。
「幸い、まだ使える金は残ってる! 新しく銀の冒険者を十人程度集めて襲わせれば、あんなクソガキども一夜にして全滅だ! ついでに、逃げやがったサンドラもふん捕まえて、ひひ、全員、死んだ方がマシという地獄に叩き込んでやる……ひひ、ヒヒヒヒ!」
そこで、不意に首筋に冷たさが走った。何かと思って手を当てると、赤い結晶がついている。
「……何だ、こりゃ。血、か? 血が、凍った……」
「キピッ」
ハッとして目をやると、そこには妙な手のひらサイズに雪だるまがいた。「なっ?」とユージャリーから声が漏れた瞬間に、雪だるまは溶けて消える。
「な、何だったんだ、今の、は―――――ッ?」
その時、ユージャリーは激しい心臓の痛みを覚えた。まるで、心臓に棘でも刺さったかのような痛み。ついで、激しい頭痛に襲われる。
ユージャリーは、たまらずその場に倒れ込んだ。血の気が強烈に失せていく。
「う、なん、からだが、いうこと、を……」
激痛と苦しみの中で、ユージャリーの身体は力を失っていく。そのまま、意識が遠のいていった。
アイスは、口に当てた人差し指を唇の真ん中に持っていき、静かに「シー……」と言う。
「……えっと?」
俺が首を傾げると、「だからね、つまり」とアイスは悪戯っぽく続けた。
「秘密だよ、って、こと……っ」
朗らかに笑うアイスに、俺はそれ以上の追及は出来なかった。苦笑して「そっか。じゃあ仕方ないな」と肩を竦める。
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