第46話 祝勝会:クレイとの計画

 俺たち四人は、ギルドの食堂でエールを掲げていた。


「では、今回の成果を祝しまして―――乾杯!」


「「「カンパーイ!」」」


 わー、と木樽ジョッキをぶつけ合う。そして各々一口ずつ飲んでから、俺は両手をテーブルにつけた。


「そして、重ね重ね、身勝手に飛び出してしまい申し訳ございませんでした……!」


「このイノシシ」


 トキシィの辛らつな言葉が刺さる。うん。何も言い返せない。イノシシだったもん俺。


「びっくりしたよ。何『二人とももらう』って。格好つけならまだよかったよ。本気なんだもん。しかもなまじっかそれで相手にできちゃうんだもん。どこから突っ込めばいいかもう分かんないよね」


「誠に、誠に申し訳なく……!」


「ま、まぁまぁ……! トキシィちゃん……その、ウェイドくんも悪気があったわけじゃない、から」


「というより、これは割と持病みたいな性分だと思うし、元よりそう言うものと考えて動く方がよさそうではあるけどね」


 アイスのフォローはありがたいとして、クレイの扱いである。だんだん分かってきたが、クレイは結構毒があるタイプらしい。


「そこで相談なんだけど、ウェイド君。君は好きに暴れて良い。その代わり、援護の指揮は今後、僕に任せてくれないか?」


「今回みたいにか?」


「うん。君はどうせ強敵を前にすると楽しくなって突っ込んでしまうだろう? 君が指示系統を握ってると、そこで僕らは僅かなりとも麻痺してしまうんだ」


「それは、そうだな」


 俺は考える。今回のクレイの援護は、かなり的確だった。無闇に俺と銀の二人の戦闘に割り込むことなく、しかし俺がちゃんと有利になるように指揮を執っていた。


 それは、元々考えていた俺の作戦よりも高度な判断だ。俺は元々、銀の二人の片方をクレイとフレインに任せるつもりだった。しかし、それでは戦闘はもっと泥沼化していたはずだ。


 俺は吟味の上で、頷いた。


「分かった、任せる。というか、何なら俺よりも適任まであると思う」


「了解、承ったよ。とはいえ、それでもこのパーティのリーダーは君だ。作戦立案や連携の構築では、ウェイド君もちゃんと頭が回る。そういうときは、ちゃんと君が決めてくれよ?」


「ハハ、もちろんだ」


 俺とクレイは拳をぶつけ合って、男の友情を再確認だ。


 他方アイスは「ウェイドくんがそれでいいなら……」と様子見な雰囲気で成り行きを見つめ、トキシィは「あ、もうウェイドのイノシシは治さない方針なんだ」と遠い目をした。


 ……あんまり女性陣からは評判良くないみたいだ。仕方ないね。イノシシだもん。


「と、ともかく、俺たちは十分な戦果を得た! トキシィの借金は消えたし、俺たちも莫大な金銭的余裕が出来た!」


「せっかくの祝勝会なのに、フレインは分け前受け取ったすぐに居なくなっちゃったね。ぶっきらぼうだなぁとは思ってたけどさ」


 トキシィのボヤキに、俺は肩を竦める。まぁアイツはそう言う奴だ。基本的に慣れ合うタイプじゃないというだけだろう。


 でも、とトキシィは言った。


「それでも、本当に、本当にありがとうね。ウェイド。それにみんなも。……お父様の仇が討てた。それだけで、もう、私は胸がいっぱいで……!」


「……うん。良かったね……」


 涙ぐむトキシィを、アイスが慰める。俺とクレイはひっそりジョッキをぶつけ合って、二度目の乾杯だ。


 ゴクリゴクリとエールを飲む。ああ、ウマイな。勝利の美酒でもあるし、仲間のトラウマの雪解け水でもある。酔いの所為か、何だか俺も泣けてくる。


「今日はとにかく飲もう! トキシィに乾杯!」


「「「カンパーイ!」」」


 俺たちは感情を誤魔化すようにして、またも乾杯を繰り返す。前回は程々に抑えていたクレイも、早々に二杯目に突入している。


「今日は飲む気分なのか?」


「うん。めでたい日だからね。それに、これだけの資金を得られたなら、またもう少し大きなことが出来る」


「大きな事、か。具体的にはどんな?」


 俺がワクワクして聞き返すと、「そういう好奇心旺盛なところは、君の美徳だよ」とクレイは肩を竦める。


「ひとまず、これだけのお金があるなら拠点が買えるよね。拠点があれば設備も整う。それに高級品の武器一式もだ。そうすれば僕らの戦力も増すし、狙える領域も増えてくる」


「おお、拡大再生産って奴だ。いいな。パーティの拠点に、設備、武器。夢が広がる」


「大金貨三枚は、そういう金額だからね。……もう少し欲張ってもよかった気がするけれど」


「まぁそう言うなよ。身の丈を越えた金は、身を滅ぼす。今回は大義名分があったからこうしただけだ。あれ以上取れば、俺たちはただの強盗になる」


「……そうだね。その辺りのバランス感覚は、君の方が優れているみたいだ。不思議だよ。ウェイド君は戦場でアレだけ猪突猛進なのに、普段は何だか、ずっと年上と話しているように感じる」


「はは……」


 転生したからな、という言葉は飲み込んでおく。言っても仕方のないことだ。代わりに、俺はぐびりとエールを一飲み。


 そうしていると、少し不機嫌そうなアイスが、強引に俺とクレイの間に割り込んで座ってきた。酔っているときのアイス特有の行動だ。クレイは苦笑して、席から立ち上がる。

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