第41話 敵の情報2

 突っかかってきたフレインの言葉に、俺は目を丸くした。それから、問い返す。


「適当に聞こえたか?」


「ああ、聞こえたね。お前は多少特別だろうが、他のメンバーは等身大の銅等級だろうが。土と風なら優位は取れるとしても、それでも二人を相手にするのは実力差が必要だ」


 なるほど、クレイの実力を疑問視しての提案だったか、と俺は肩の力を抜く。


「なら、問題ない。クレイは強いぞ。というか隙がない。……まぁその場になってみればわかる」


「信頼されているようで嬉しいね」


 俺とクレイの軽いやり取りに、フレインはしかめっ面だ。


「いざというときに痛い目を見るのはお前らだとは言っておくぞ、ウェイド」


「ああ、分かってる」


 さて残る一人だが、と考えた時に、トキシィが手を上げた。


「金属は私が相性いいと思う。毒魔法で酸を生み出せば、鉄でも溶かせるから」


「分かった、トキシィに任せる。頼んだぞ」


 笑いかけると、強い表情で「うん」とトキシィは頷いた。恐らくだが、心配はないだろう。彼女のメンタルともども。


「となると、俺の手が空くな。ううむ……状況によってその都度判断して動こうか」


「そうだね。ひとまず任せては貰ったけれど、誰かしら崩れることはあると思う。そのときは、ウェイド君がバックアップに居ると考えればかなり安定しそうだ」


「お前とかな、デブ」


「みんな僕のことをデブだのとバカにするけど、これは全部筋肉だよ」


 フレインのからかいに軽やかに言い返すクレイだ。一回水浴びで同席したことがあるがマジである。俺も常に【加重】で鍛えてるが、クレイはマジのガチで筋肉達磨だ。


「銅の冒険者の組み合わせは決まったね。では肝心の、銀の冒険者をどう倒すか、という話をしよう」


 新しくアイスが似顔絵を貼り付ける。そこには飄々とした男と、金髪サイドテールの女の子が描かれていた。クレイが説明を始める。


「双剣のカドラスと、迅雷のサンドラ。男がカドラスで、女がサンドラだね。それぞれ、カドラスが剣の銀の冒険者で、サンドラが弓と松明の銀の冒険者となる」


「男の方は相当強いのは風の噂で聞いたことがある。双剣のカドラスだろ。平気な顔でいくつもの戦場を切り抜けてきたって話は有名だ」


 フレインの補足に、なるほど手練れらしいと思考を巡らせる。


「もう一人については? 知ってる奴いるか?」


 俺の問いかけに、答える者はなかった。一拍おいて、クレイが続ける。


「とまぁ、この通りかな。二つ名と名前、顔までは分かった……というか頑張って盗み見てきたんだけど、それ以上の情報は掴みきれてない。しいて言えば、サンドラは恐らく雷魔法なんだろう、という推測くらいだね」


「ありがとう、十分だクレイ」


 クレイが肩を竦めて、また近くに腰を下ろした。


 拘束しているフラウドスがいびきをかき始める。フレインが黙って一発蹴りを入れる。フラウドスが悲鳴を上げた。


「んー! んー!」


「となると、俺たちが今考えられることは少ないな……。連携の構築だけするか」


 俺は少し考え、アイス、トキシィと呼ぶ。


「二人は戦況構築で動いてくれ。アイスは地面を凍らせて敵の動きの鈍化を目標に。トキシィは毒霧の散布による敵の弱体化を目標に動いて欲しい」


「了解、ウェイドくん……っ」


「分かった、ウェイド」


 次に、俺はクレイとフレインを見る。


「クレイとフレインは二人でこのどちらかに当たってくれ。二対一で掛かるイメージだ。俺は一人でもう片方と立ちまわる。何か問題があれば都度報告で行こう」


「分かったよウェイド君。ということで、よろしく、フレイン君」


「……オレがこのデブと組むのは分かった。が、ウェイド。お前一人で銀と戦えるってのは慢心じゃねぇか?」


「そう思うなら、早いところそっちを片付けて俺の方に参戦を頼む」


「チッ……これだからよ。おい女二人! このバカリーダーがヤバかったら気を配ってやれよ」


 言って、フレインは不機嫌そうにそっぽを向いた。段々分かってきたけど、こいつただのツンデレ男なだけかもしれない。


「も、もちろん、ウェイドくんのピンチには、絶対に、駆け付けるから、ね……!」


「う、うん! それはもう、言うまでもないよ!」


 そしてやる気満々な女子二人だ。俺は「頼もしいな」と笑う。そして、まとめに入った。


「と、いうことで、これで一旦話をまとめよう。俺がそこの詐欺師を連れて訪問と交渉、そして交渉破局からの宣戦布告と鉄等級全滅までやる。そこで合図を出すから、全員乗り込んでくれ」


『了解』


「あとはそれぞれの担当を潰しつつ、いつ銀等級が出てきてもいいようにコンビは崩さないように。銀の相手は今言った通り、アイス&トキシィペアが戦況づくり、クレイ&フレインペアと俺が銀等級を相手取る」


『了解』


「これひょっとしなくても、ウェイド負担重くない……?」


 トキシィの指摘を黙殺して、俺は宣言だ。


 獰猛に、笑う。


「と、いうことで、みんな。裏社会世直し冒険譚、第一章の幕開けだ。まずは盛大に一勝を飾りに行こう」


 俺の鼓舞に呼応して、それぞれの瞳の色が変わる。


 アイスの目はキラキラと憧憬に輝く。クレイの目は硬い意志を宿す。トキシィの目は深みのある真剣さをのぞかせる。フレインの目は静かに燃え上がる。


 そして、俺の口端が盛大に吊り上がるのだ。


「さぁ、戦争だ。楽しみに行こうぜ」


 その一言が、火蓋を。切った

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