第40話 敵の情報1

 トキシィが泣き止んだ頃、アイスとクレイが現れた。


「あ、ウェイド、くん……! よかった。無事、済んだみたいで」


「心配してくれてありがとな、アイス。クレイ、どのくらい分かった?」


「主力の二人、サブの四人を特定したよ。鉄等級の面々までは押さえられなかったかな」


「十分だ。じゃあ作戦会議と行こう」


 俺は四人を集めて、それぞれが思い思いに座る中立ち上がった。


「じゃあ、敵をどう詰めるかを流れに沿って決めていく。敵の戦力がどの程度で、それをどう対処するか、という話は、クレイの話を聞きながら決めていこう」


「よろしく」


 クレイの挙手に、俺も挙手を合わせておく。


「さて、じゃあ現状考えてる段取りを発表するが、そう複雑じゃない。そこでぐるぐる巻きにされてるフラウドスに『大金貨五枚を借りたいです』と高利貸しの、……あー」


「ユージャリーさん、かな……?」


「それそれ、サンキュアイス。高利貸しのユージャリーに言わせる。背後に立つのは俺でいい。恐らく拒否されるし、流れで用心棒が数人出てくることだろう。そこで俺が合図を出すから、突入してくれ」


「かなりシンプルだね、ウェイド」


「シンプルならいいってもんじゃねぇぞ。確かに敵が出てきたところでオレたちが突っ込めばその時点では奇襲になるが、それ以上の効果はねぇ」


 トキシィとフレインから入った苦言に、「よりいい意見があれば歓迎するぞ」と返す。最初に応えたのは、トキシィだった。


「私の毒、使う? あらかじめ予防薬飲んでおけば、味方には無害っていう風にも出来るよ」


「あ? お前毒魔法かよ」


「……なに。悪い?」


 フレインのツッコミに、見るからに機嫌の悪くなるトキシィだ。だが、フレインはそれ以上突っかからなかった。


「―――いいや、ノロマ魔法がリーダーのパーティだったのを失念してた。忘れろ」


 言ってそっぽを向くフレイン。それから「ほら、取りまとめろよリーダー」と俺に促してくる。


「あ、ああ。……そうだな。予防薬は全員飲んだ上で、俺のタイミングで毒を霧に変える方法ってあるか?」


「うーん……。液体の毒を蒸発させられれば、気化して敵がみんな吸い込む、みたいに持っていけると思うけど」


「なら、オレの炎魔法はどうだ。小さいファイアーボールをスクロールに保存すれば、ウェイド一人でも使えるだろ」


 スクロール。魔法を保存できる巻物だ。訓練所で学んだ知識の一つ。スクロールに納まるサイズの魔法を放つことで、魔法を一回に限り保存でき、もう一度開くことで開放する。


「それで良さそうだな。じゃあ奇襲は毒で全員弱らせてからだ」


 さて、と俺はクレイに視線をやる。「どうやら僕の出番らしいね」とクレイは立ち上がった。


「さてみんな。僕らが確認してきた敵は、ざっくり『要注意すべき銀等級冒険者』が二人、『適切に対応すれば勝てると思われる銅等級の冒険者』が五人、『取るに足らない鉄等級の冒険者』が十人以上二十人以下居る」


 俺の横に立って説明を始めるクレイに、俺はそっと端に避ける。


「故に、僕らが考えるべきことは三つだ。一に、鉄等級を素早く一掃するにはどうすればいいか。二に、銅等級にはそれぞれどのような組み合わせで当たるか。三に、銀等級をどう倒すか、だ」


「鉄はさっきの毒の作戦で問題ないんじゃないか?」


「流石ウェイド君だね。僕もそう思っていた。じゃあ次に、銅等級をどう相手取るかについて考えよう」


 まず、銅等級がどんな相手かを述べよう。クレイの言葉に、アイスが立ちあがる。


「あ、あの、ね。銅の五人と、銀の二人、ここに来るまでで、似顔絵、書いてきた、よ……?」


「アイス流石過ぎる。有能」


「うぇ、ウェイドくん、あんまり褒めないで……恥ずかしい、よ」


 言いながらも、「えへへ」と照れ照れな様子のアイスだ。褒め甲斐がある奴め。


 クレイはアイスによって並べられる似顔絵を見ながら、こちらに語り掛けてくる。


「敵は顔と属性だけ覚えていればいいと思うので、似顔絵一人一人をピックアップする形で説明するよ。という事で―――左から、金属、闇、風、風、水、だね。金属は恐らく鉄」


「あ……じゃあ、わたし、水にしよう、かな」


 いの一番に手を上げたのは、アイスだった。


「そうだね。アイスさんは氷魔法だし、水魔法の攻撃は凍らせてしまえば支配下に置ける。かなり優位が取れるだろうね。ウェイド君、それでいいかい」


「ああ。アイス、それで頼む」


「うん……っ。頑張るね、ウェイドくん……!」


 アイスは手を握ってやる気アピールだ。実際アイスも中々強いし、遅れは取るまい。


「なら、闇は俺が取る」


 次に手を上げたのが、フレインだ。


「闇は敵の視界を潰す魔法を使う。それ以外は人間並みだ。そしてその闇は、光、炎魔法で振り払える」


「なら、それで頼む。フレインに関しては正直心配してないな」


「は、言ってろ」


 少し得意げに鼻を鳴らして、フレインはニヤリ笑った。さて、残るは風が二人、そして金属だが。


「風の二人は僕一人でいいかもしれない」


 言ったのはクレイだった。


「分かった。クレイに任せる」


「あ? おい、ウェイド。お前実はさっきから適当言ってねぇか?」


 そこで、フレインが突っかかってくる。

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