第31話 初クエスト:作戦&戦闘
アイスの示した方向にまっすぐに進むと、妙な掘っ立て小屋を見つけた。その周囲で、あくびをしながら荒くれ者が立っている。
「あいつか……」
「アイスちゃん、何人いるか、確かめることってできる?」
「う、うん。……じゃあ、行ってらっしゃい、雪ちゃんたち」
雪ちゃんと名付けられたらしい雪だるまたち三体は、とてとてと草木の下をぬって進んだ。俺たちは少し距離を取り直して、依頼を確認し合う。
「夜盗に盗まれたものを取り返す、だったよな。夜盗ってか、盗賊だけど」
「うん。取り返せばクエストはひとまず達成だよ。ついでに捕縛できれば、ギルド側からも上乗せで報酬が出る」とクレイ。
「殺したら?」
「上乗せされるけど、捕縛よりも少ない、かな。その方が早いとは思う、けど」とアイス。
「……」そして無言で引いているトキシィ。
「え、あの、さ。もしかして君たちって、平然と人殺しできる、感じ?」
「「「……」」」
俺、アイス、クレイは三人で視線を交わしてから、こう答えた。
「「「殺したことはない(よ)」」」
「えー……。このパーティこわーい……」
ドン引きトキシィだ。でもなぁ。こう見えて人間みたいな魔物を何匹殺してきたかなって感じだし。今更魔物と人間で敵の中に区別を作る心づもりがないというか。
だが、今回は実益につながるし、ひとまず殺さないでおこうか。俺はそう思い、「じゃあ作戦方針を宣言する」と三人に呼びかける。
「基本的には捕縛の方向性でやろう。ただし、優先度はさして高くない。自分に危険が及んだら、迷わず即殺せ。俺たちの魔法は、人を殺さずにいるには威力が高すぎる」
「「了解」」
「わぁ統率取れてる……」
「で、だ。捕縛するには、まず殺す前に無力化を図る必要がある。全員、自分が持つ非殺傷攻撃を教えてくれるか?」
まず俺から、と俺は切り出す。
「俺の攻撃は手加減が難しいが、ひとまず殴る分には殺さずに済むはずだ」
「え、殴るの?」
「トキシィ、ちゃん。ウェイドくんはね、拳でコボルトくらいなら、一発、だよ」
「え、ウェイドそんなステゴロな感じなの? もっとスマートな感じじゃないの?」
「俺のどこにスマートな要素がある」
「ウェイド君は我がパーティにおけるリーダー兼イノシシだからね」
イノシシ、と言われて俺は口を閉ざす。でも確かに切り込み隊長というよりイノシシというのが近いかもしれない。ダンジョンでは敵を見つけたらすぐに飛び込んで数匹殺すし。
「……そっかぁ! 分かった!」
そして理解を放棄するトキシィだ。俺は渋い顔でアイスを手で指す。
「あ、え、えっと、ね。わたしは、アイスブロウを地面に向ければ、相手がくっついて足止めになるかな、って」
「ほーっ。そうか、確かにそう言う使い方も出来るな」
覚えておこう。今回は特に使えそうだ。
「次、クレイ」
「魔法を使わなければ、効果はありつつも殺すほどではない威力の攻撃になると思うよ」
「確かに、クレイは魔法抜きでも全然戦えるもんな」
今の俺は、ステゴロか鉄塊剣のみというピーキーな武器構成なので、魔法抜きじゃあ厳しいが、クレイは問題なくやれそうだ。
「最後、トキシィ」
「私は調整次第で魔法は全部、非殺傷で扱えるよ。弓矢も急所を狙わなきゃいいだけだしね」
「そうか……。となると、早速トキシィには活躍してもらうのがいいかもな」
だんだん見えてきた。俺は作戦概要を見据えながら、一人一人質問していく。
「アイス。雪だるまでそろそろ情報が得られたころじゃないか? 敵の様子はどうだ」
「うん……。盗賊は全員で5人。外の2人と、小屋の中の3人、かな」
「分かった。次に、雪だるまにアイスブロウを打たせられるか? 人ではなくモノに向けてやって欲しい」
「うん……っ。できる、よ」
やる気に満ちた表情で、うんうんと頷くアイス。俺はポンとその頭を撫でた。
「ありがとな。じゃあ次トキシィ。教えてもらったポイズンミストだが、弓矢に仕込んで着弾の地点で拡散、みたいなことは出来るか?」
「あー、うん。そうだね、出来る。厳密にはポイズンソリッドっていう固定の状態で矢につけて、途中でミストに切り替えてって感じになると思うけど」
「よし。じゃあそれで、毒はマヒするような奴にしてくれ。即効性が高いのがいいな」
「りょ、了解。任せて」
反対にトキシィは、まだ少し緊張があるようだった。俺は一つ頷いて、励ましておく
「任せたぜ。その実力のほど、楽しみにしてる。最後にクレイ。俺たちは弱った盗賊をボコって縛るだけだ。もちろんできるな?」
「ウェイド君。それはね、愚問というんだよ」
皮肉っぽく口端を持ち上げて見せるクレイに、俺は笑ってしまった。
「ハハッ。よし、じゃあ作戦を発表する。サクッと潰して、今日は豪勢な夕食にありつこうぜ」
俺とクレイは掘っ立て小屋の近くに息をひそめて近づき、木の陰に隠れた。今の俺たちがすべきは、待機だ。
今は、アイスの仕込みの段階だった。俺たちよりも離れた場所から、アイスは草むらに隠れて雪だるまに指示を出している。
そうして、アイスは草むらの中で、大きく腕で○を作った。下準備が完了したという事だ。
キリ……とかすかな音が響く。それは、知っている俺たちしか気づかないような音。トキシィが、弓を引き絞るそれ。
そして、矢は放たれる。掘っ立て小屋の窓を通り抜けて、固体の毒が瞬時に気化する。
「うわっ、何だこの煙は!」「敵襲! 敵襲!」
「テメェ矢の軌道が丸見えなんだよ!」「舐めてんじゃねぇぞオラァ!」
見張りの二人が勢い勇んで足を踏み出そうとするが、すでに彼らの足元はアイスの雪だるまによって凍らされている。奴らは足を取られて転び、そして地面に手をついて不自由になった。
「ッ!? なっ、何だ!?」「くっ、くそ! 手が、離れねぇ!」
「クレイ」
「ああ」
言葉少なく示し合わせて飛び出すのが俺とクレイだった。俺は拳を覆うガントレットで、クレイは大槌で、二人の盗賊を奇襲する。
「なっ!」「がぁ!?」
一撃。俺の振り下ろす拳は盗賊の後頭部を打ち抜き、一発で昏倒させた。クレイの横ぶりはまっすぐ盗賊の胴体に吸い込まれ、衝撃に悶絶させる。
「二人倒した」
「次は待ち構える、だね」
「ああ」
俺とクレイは、そのまま掘っ立て小屋の窓で待機に移行する。俺たちの足元から、アイスの氷が消えていく。
「ぐっ! 何でドアが開かねぇ!」「おい! クソ! 出しやがれこの野郎!」
建物の中の盗賊たちは、ドアをどんどんと叩いて出られないことを訴えていた。アイスがドアを凍らせたのだ。敵の足止めにも使えるが、こう言う使い方も出来ると気づいた。
破れかぶれに一人が窓から飛び出してくるが、そんなものは俺たちに「どうぞ殴ってください」というようなもの。
「ほっ」「シッ」
「うがっ」
クレイの大槌が胴体に当たり、次に俺の【加重】ストレートが盗賊の顎を貫く。いとも容易く、盗賊は失神した。
「クソ! クソォ! 出せ! 出せぇええええ!」「ぐ、う、か、体、が、うご、かなく」
怒号、か細い悲鳴。窓から出た仲間が一瞬で倒れたのを受けて、残る二人は窓からの脱出を諦めたらしかった。ドアに固執し、そして静かになる。
トキシィに目をやる。首が横に振られる。つまり、盗賊が毒にやられるほど時間はまだ経っておらず、やられた振りをしているという事だ。
それからまた少しして、「う、くそ……」とか細い悲鳴が上がった。今度こそトキシィはこっちにサムズアップして見せる。
俺とクレイは二人と合流して、掘っ立て小屋の扉を開けた。
そこには、横になってぴくぴく震える盗賊が居た。これで、敵は全滅か。
―――この作戦は要するに、小屋の中に敵を閉じ込めて毒の霧を充満させて倒そう、という作戦だった。
だからアイスの凍結で扉を封じ、小屋の中で毒霧を発生させた。すると窓が唯一の出口となったから、監視を潰した後、出てくればすぐに倒せる状態を構築し、ここも事実上封じた。
結果、すんなりと敵は倒れた、という訳だ。イレギュラーの発生もなく、かなりすんなりと成功した。
「……ねぇ、ウェイド」
「ん? 何だ?」
トキシィが、ちょっと強張った顔で言う。
「自分で言うのも何だけど、ちょっと鮮やかすぎない?」
「そりゃ、俺たちがその分強いってだけのことだ」
俺は手を上げる。トキシィは今度こそ強張った表情を解いて、もにょもにょと嬉しさをこらえられない、という顔になった。
「お疲れ、トキシィ」
「―――うんっ! お疲れ、ウェイド!」
パンッ、とハイタッチを交わす。それから、アイス、クレイにも。
ひとまず、俺たちの初めてのクエストは、大成功に終わったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます