第30話 初クエスト:調査

 翌日、クレイにもトキシィを紹介すると、グイグイいくトキシィとウマが合ったらしく、他のメンバー同様にすんなりとトキシィを受け入れてくれた。


 一応ちゃんと毒魔法使いであるということは伝えたのだが、クレイは特に気にした風もなかった。


 俺は前世の記憶がない状態では割と毒魔法には嫌悪感があったから、それを基準にして見ると、クレイの寛容っぷりのほどが気になった。それで気になって聞いてみると、


「僕も以前はそういう偏見もあったよ。けど、ノロマ魔法と侮っていたウェイド君が、余りに鮮烈だったからね」


 僕の色眼鏡を外したのは君だよ、と言われれば、俺も悪い気はしない。そんな訳で、俺たちは四人で以前断念したクエスト、森に潜む盗賊狩りに乗り込んでいた。


「ここが、その森か……」


 街を出て一時間も歩くと、その森はあった。特に名前があるという話は聞かないが、弓の冒険者は納品のためにもっぱらここに入り浸るという。


「奥の奥に行くと山になってて、その山はオリンポス山に連なるって言われてるよ。神の山だから、よほどのことがない限りは侵入せず手前で活動するって感じかな」


 ソロで半年活動していたらしい弓の銅の冒険者であるトキシィは、そのように語った。オリンポスってどこかで聞いたことあるな……。まぁいいか。


「盗賊たちが奥まで進んで山にいる可能性は?」


「絶対ないとは言わないけど、無視して良いくらいには低いかな。盗賊にだって信仰心はあるよ。無ければ、盗賊なんて生易しい敵ではいてくれないから」


 答えたのはトキシィではなくクレイだった。俺は「信仰……」と首をひねる。


「と、ともかく、盗賊は森の中で探せばいいってことだよ、ね。それでも、探し出すのは難しそう、だけど」


 アイスの言葉に、「そうだなぁ」と腕を組んで考える。風魔法使いなんかが居れば広範囲に索敵してくれるのだが、俺たちにそんな事は出来ない。


「ごめんね。土魔法がもう少し増えていれば、そう言う魔法もあるらしいんだけど」


「気にするな、クレイ。できるようになったら教えてくれ」


「もちろんだよ、ウェイド君」


 少し申し訳なさそうなクレイをフォローしつつ、俺は弓の冒険者であるトキシィに問いかける。


「トキシィ、この手の調査とかって、どうやるんだ?」


「んー……普通に進んでいって、痕跡っぽいのがあればそれを辿る、とかかな。動物相手の狩りならそれでいけるよ」


「というと?」


「足跡とかは定石だよね。あとは、人間だし草木が不自然に断面を晒してる、とかね。『ああ、ナイフで強引に切り開いて進んだな』とか分かるし」


 俺はそれを聞いて、ああ、狩人の言葉だ、とちょっと感動する。流石半年ソロで生計を立てられるくらいには、経験豊富らしい。


 ただ、それはそれとして、俺には一つ策があった。


「少し試したいことがあるんだ。まずはそれを試させてもらっていいか?」


「え、うん。いいけど」


 トキシィの首肯に、俺は「アイス」と呼ぶ。


「前に出してたあの雪だるま、確か視覚情報をアイスに集められるんだよな? 考えたんだが、その雪だるまを重力魔法で浮かせて周囲を一気に確認できればと思ってな」


「う、うん……っ。で、でも、それだと時間がかかりすぎる、かも……」


「?」


 俺はアイスの困惑に首をひねる。


「その雪だるま、一体だけしか作れないのか?」


「え」


 言われて、アイスは一体の雪だるまを作った。それからもう一体、追加する。


「……作れるの、知らなかった」


 ポカンとするアイスだ。俺はくくっと笑ってから、「じゃあ出せるだけ出してもらえるか?」と頼んだ。


 結局、アイスは新魔法で10体まで雪だるまを作ることが出来るようだった。これ以上は、「無理だって、直感的に分かっちゃった、かな……」ということだった。


 だがまぁ、10体も居ればそれでいいだろう。


 俺はその雪だるま部隊全部に、【軽減】を掛けた。すると、ふわ……っと雪だるまが浮いていく。


「どうだ? 見えるか?」


「う、うん。見える、よ。わたしたちを、10対の目で見下ろしてる……」


「な、なるほど……。こう言う真似が出来るのか。アイスさんの新魔法は、中々に使い勝手がよさそうだね」


 冷や汗を垂らして、クレイは言う。このすさまじさが分かる辺り、やっぱこいつ頭いいよな、なんてことを思う。


 それから俺も飛び上がって、雪だるまを一つ一つ弾くと、周囲一帯へと雪だるまが飛んで行った。着地しつつ尋ねる。


「どうだ?」


「うん……。広い範囲で、見えるよ……! あ、でも、これ以上浮かせないで欲しい、かな。ちょっと遠くて見づらくなってきて、て」


「分かった」


 雪だるまに掛けている【軽減】を小さくする。空気の重さと釣り合うようにすれば、後はそのままの高度を保つはずだ。


 そうして雪だるまの斥候を放ってから5分。立ちっぱなしでいるのも何だから、と歩いていると、アイスが「見つけた、かも」と言った。


「すっご……! こんな短い時間で、盗賊見つかるの? 普通この手のクエストって、風魔法使い抜きなら数日かかるのに」


 確かに数人がかりで数日分、というくらいの報酬だったなぁと思う。そのほとんどが捜索時間なのだろう。となれば、今回はかなり黒字かもしれない。


「どっちだ?」


「あっち、かな」


 目を瞑って、アイスは指をさす。俺たちは示し合わせて、その先に進んでいった。

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