第7話 新魔法


 さてお楽しみの新魔法についてだ。


 俺は夕暮れ時、閑古鳥のなく運動場で、ひとりワックワクで立っていた。何せ新魔法。新魔法である。これがワクワクしないわけがない。


 ということで新しい魔法を、魔法印より読み上げた。


「……軽減」


 俺は読み上げた瞬間に強烈にガッツポーズだ!


「来た! 軽減来た! これでだいぶ楽になる! いや! かなり! 超! 楽になる!」


 うおおおおおお! と俺はもろ手を上げた。感動しきりだ。こんなすぐに使える魔法が来るなんて。しばらくは加重の重量の枷が外れていくだけとか、何にも変化のない奴とすら思っていたのに。


 ということで、加重の真反対の効果を持つ重力魔法【軽減】が、新しく俺の手元に加わった。効果は体重を軽くする、というものだ。とても分かりやすい。


「これがあるだけでかなり違うよな」


 俺はホクホクで呟く。それから、早速試してみることにした。


「ウェイトダウン!」


 体重が一気に軽くなる。まるで水の中にいるようだった。しかし進むにあたっての抵抗感はなく、「やっぱり慣れが必要か」と呟く。


 だがそれはそれとして、出来ることの幅に笑みを隠しきれない。


 ひとまず、俺は渾身の力でジャンプした。


 するとどうだろうか。今までずっと【加重】で生活していたのが筋肉増強によかったのか、一気に十メートルも飛び上がってしまう。


 そしてゆっくりと落ちてきて、小さな衝撃と共に着地。俺は感動に打ち震える。


「これは……いいぞ。これはいい。癖はあるけど、やれないほどじゃない」


 【加重】は素でやれないのをどうにかやれるようにしただけなので、全く別物だ。俺はうんうんと頷いて、考え始める。


「ひとまず、これで機動力の増強はかなり大きく図れるな。うまくやれば、かなり素早くどこまでも移動できる。攻撃のタイミングで【加重】を掛けるのは今までと同じか」


 ひとまずの方針としては、【加重】を常にかける常駐筋トレは継続。運動場では、【軽減】のふわつくのを上手く制御できるように訓練、という形で行こう。


「ワクワクしてきた。ひとまず、少しやってみたいことをやってみるか」


 俺は【軽減】をフル出力する。すると空気よりも軽かったのか、足が地面から浮いてしまったので、もう少し弱める。


 それで少し慣らしながら壁沿いまで歩いていき、壁に足を掛けた。


 足を前に出す。正確には上に。壁を、前へ前へと登っていく。


「うぉおおお~~~~~!」


 楽しい。とても楽しい。少しでも強く蹴ってしまうと壁から離れてしまうが、そこに気をつければ壁も足場として使えそうだ。


「これまでの重力魔法使いは、ここにたどり着く前に諦めてしまったんだろうな」


 この楽しさを知って、重力魔法をノロマ魔法だとは言えまい。俺は浮遊感の中で遊びながら、壁を横方向に走ってみる。


「おっおっおっ! 難しいが、出来なくはないな。これも訓練あるのみか」


 一通り大ジャンプしたり、プカプカ空中を浮いたりして遊んでから、「さて」と仕切り直しにかかった。


 夕暮れは終わり、夜になってくる。好都合だ。ダンジョンに潜るのなら夜目に慣れる必要があるし、今後俺の切り札となる攻撃方法を、表立って見られずに済む。


 俺は一旦魔法をすべて解除してから、思い切り前に跳躍した。


「ウェイトダウン」


 普通なら重力に従って地面につくはずの足が、いつまで経っても地につかないまま俺は空中を駆ける。向かうのは訓練台。バネ仕掛けの案山子に向かって接近し、切り替える。


「解除、ウェイトアップ」


 タイムラグを終え、俺の足は地面に急激引き寄せられる。その勢いのままに、俺は模造刀を練習台に叩き付ける。


 その威力は、すさまじいものだった。


 練習台の案山子は、普段ならどれほどの攻撃でも受け流して戻ってくる。一種のサンドバックのようなもので、殴りたい放題斬り放題だ。ファイアボールですら耐える。


 そんな練習台が、俺の一撃でへし折れた。


 俺が斬りつけたところを起点に、真っ二つになる。中心から支えていた丸太がミシミシと音を立てて折れ曲がり、そして練習台の胸から上が地面に落ちた。


「……マジか」


 俺はちょっと戦慄する。これほどの威力が出るとは。


 練習台の根元のバネが、僅かに揺れている。バネにまで衝撃が行く前に、練習台の支柱が限界を迎えたという事らしい。


 俺は思う。


「これは、人間相手に向けて良い技じゃなさそうだな」


 だが、人間以外と戦うことも多い冒険者でもある。使い道には困らないだろう。ひとまず、剣の冒険者になることはなさそうだ。剣の冒険者。つまりは傭兵という事なのだが。


「弓か松明だろうが、……どちらにしようか」


 俺はその場から少し距離を取り直しながら考える。


 おさらいになるが、剣の冒険者とは、傭兵職を指す称号だ。あらゆる争闘の場に召喚され、人間を殺すことが主になる冒険者である。


 そして弓の冒険者とは、狩人職を指す称号だ。魔物を始めとして、知恵と武力を用いて獲物を狩る。一方松明の冒険者とは、ダンジョンに潜り秘宝を探す探索者のことだ。


 俺たち卵の冒険者―――つまり訓練生は、いずれこの三つの中から進路を選ぶことになる。


 つまり傭兵として人間を殺す道か、狩人として魔物を狩る道か、探索者としてダンジョンに潜る道、ということだ。


 俺はどんな進路を行くのだろうな、と考えながら、先ほど練習台をへし折った急接近攻撃の開始地点にたどり着く。その時、不意に俺の脳裏に妙案が浮かんだ。


「……魔法って、同時に二つ使えたりしないのか?」


 できない、と言われたことはない。ならば試してみる価値はあるだろう。俺は相反する性質ゆえに気づくのに時間がかかった【加重】と【軽減】の魔法同時掛けをやってみる。


「ウェイトアップ、ウェイトダウン」


 果たして、その実験は成功した。同時に魔法が掛かっている感覚はあるが、俺の体感重量に変化はない。


「それで、それぞれの効果をイメージ調節すると」


 俺は【加重】を弱めて【軽減】を強めるイメージをする。すると驚くほどスムーズに体重が軽くなった。


「……これは、いけるぞ」


 タイムラグを気にしなくていい、と言うのはデカい。必死の戦闘ではそこまで気を払えない可能性はある。それを、一度の詠唱だけで、後はイメージ調節で行けるとは。


 重力魔法、かなり使い勝手がいいぞ。何だこれ。









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