第6話 目隠れアイス
運動場で、俺たちは改めて向かい合っていた。
「改めて、ウェイドです。まずは俺とパーティを組んでくれてありがとう。勢いでOKしたけど、本当に俺で良かったのか?」
「あ、わ、……思ったより丁寧……。あ、えっと! ……アイス、です。その、こちらこそパーティを組んでもらえてありがとうございます。嬉しい、です」
何とも静かな子である。少し話し方がたどたどしいが、とりあえず俺とのパーティで問題ない様子だ。
さて、となると、ちゃんとパーティで動けるように訓練すべきだが。俺はどうしようか考えながらアイスを見ていると、彼女は俯いてしまう。
「ご、ごめんなさい……。やっぱり迷惑、だよね。わたし、半人前魔法だし……」
「? そんなことはない。それで言ったら俺はノロマ魔法だ。お互い不人気魔法だけど、頑張ろう」
「―――ッ! う、うんっ!」
感動の面持ちでアイスは俺のことを見上げてくる。余程魔法のことでいろいろ言われてきたのだろう。マジックハラスメントだ。略してマジハラ。
ということで、俺は早々にアイスのことをマジハラ仲間として心を許しつつある。とはいえ、すべきことはせねばなるまい。俺は彼女に持ちかける。
「それで、ひとまずパーティを組むし、一度一緒に訓練をして、お互いの魔法を見ておきたいんだが……」
「は、はい! よ、よろしくお願いします……」
ぺこり、と高くお辞儀をするアイスだ。育ちの良さを感じる。少なくとも俺みたいにスラムの出ではなさそう。
「じゃあ、まずは俺の魔法から見せよう。俺の魔法は重力魔法。今のところ使える魔法は、【加重】だ」
「カジュウ……?」
「自分と自分が一秒以上触っている者の重さを、何倍にもできる。使い方が難しい魔法でな。それでノロマ魔法だのと言われてるんだろうさ」
試しに「ウェイトアップ」と実演して、適当な小石を渡してみると、アイスは受け取るなり体勢を大きく崩した。
「えっ、お、重い……! あ、すぐに軽くなった……」
「とまぁ、こんな感じだ。他には魔法は……」
使えない、と言おうとしながら右手の魔法印をなぞると、他の魔法が追加されていることに気が付いた。えっマジかよ。後で実験しなきゃ。やった。
「あるが、まだ掴みきれてない奴になる。分かったら教えるよ」
「は、はい……。じゃ、じゃあ、わたしの番、だよね」
もじもじと恥ずかしげな様子で、アイスは言った。それから「ちょっと待っててください!」と運動場の端っこまで駆けていって、井戸から鉄製のバケツに水を汲んで戻ってくる。
「では、その、少しずつ上から地面に水をかけてもらえませんか……?」
「分かった」
「ありがとう……っ」
場所は案山子の練習台の前。俺はちょろちょろと水を地面に零していると、アイスが垂れ落ちる水に向かって手を伸ばす。
「あ、アイスブロウ!」
その垂れ落ちる水は瞬時に凍り付き、折れて氷柱になって練習台に突き刺さった。氷の針のむしろのようになった練習台を見て、俺は「おぉー」と声を漏らす。
「なるほど。水があれば十分戦えるわけだな。じゃあ次は、水のない状態を見せてくれ」
「えっ。……あ、えと。それは、ちょっと、許してもらえない……?」
「いや、そうは言っても俺は水魔法使いじゃないからな。水がない状態で戦うことの方を基本として動くのがいい」
「……分かっ、た」
意気消沈した様子で、アイスは練習台に向かう。そして、もう一度「アイスブロウ!」と唱えた。
するとアイスの手から、強烈に冷たい突風が発射された。俺の方までひんやりとする。俺は感心しながら経過を見守っていると。
「……えっと、その、これだけです」
これだけだった。俺は「なるほど……」ともっともらしく頷く。
「他の魔法は」
「ま、まだ、覚えられてない、です。ごめんなさい……」
「いいや、謝ることじゃない。そうか、大体わかった」
確かに少しピーキーだが、重力魔法ほどではない。重力魔法は自分で言うのも何だが、非常に使いづらい魔法だ。何であんな細かくオンオフしなきゃならんのだ。
「そ、そのっ、に、荷物運びでも何でもやるから、あの……!」
「ああ、いや。どんな風に活用するのがいいか考えてただけだ。荷物だのなんだの、と言う話は今後詰めていこう」
「う、うん……ごめんなさい」
俺は腕を組む。どうにも自信がないようだ。こちらが気にしてないのにそうされると、少々やりづらい。
「アイス。俺は君を魔法そのもののことで責めたりしない。少なくとも、今の重力魔法よりもいいものだ。自信を持っていい」
「えっ……、で、でも」
「重力魔法はひどいぞ。筋トレ以外に活用するのにはほとほと苦労した。回数ではなく時間で魔力消費が決まるのはありがたいが、そうでなければ本当に詰みだった」
「……そう、なの?」
「ああ。本当に、ただ自分を重くするだけの魔法なんだ。それに比べれば、アイスの魔法は随分使い勝手がいい」
例えば、と俺は案を出す。
「アイス、今の魔法を、練習台に手を当ててやってみるとどうだ?」
「……! う、うん。やってみる……!」
アイスは練習台に触れるか触れないか、というくらい手を近づけて「アイスブロウ!」と唱えた。するとそれだけで練習台は大きくのけぞり、そして返ってこなかった。
「……あれ? こ、壊しちゃったかな……」
「いや、この様子だと」
俺は練習台に触れる。そして、「やっぱりだ」と笑った。
「アイス。練習台、凍ってるぞ」
「えっ! ……ほ、本当だ……!」
アイスは練習台に触れ、びっくりしたようにパチパチと目をしばたかせた。俺はそれに、予想通り、とニンマリ笑う。
アイスの魔法は、水がなくともゼロ距離なら十分に効果を発揮する。水が必要とされていたのは、凍らせてかつ飛ばしやすいものとして、水魔法使いが用意しやすかった以上の理由ではないだろう。
氷魔法、とは言うが、本質的には凍結魔法なのだ。
「と、いう訳だ。確かに遠距離なら水が必要だが、至近距離にもぐりこめば必殺技に近い威力を出せる。それに、凍らせる対象を色々と考えれば、他にも手があるかもしれない」
「う、うんっ……! す、すごいね、ウェイドくん!」
長い前髪の奥で、目をキラキラさせて言うアイスだ。その様子が微笑ましくて、「すごいのはアイス、お前だよ」と笑い返す。
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