第5話 ウェイドの噂

 フレインの一件を境に、俺への視線の質が変わったように思う。


 以前の俺は「ノロマ魔法使い」で、侮りと憐憫を向けられる対象だった。「最優秀成績者まで行ってこれか」「魔法って大事なんだな」「カモにしてやろうぜ」と。


 対して、今の俺に対する噂はこうだ。


「あいつか……ノロマ魔法なのに炎魔法使いをのした奴は」


「今期の最優秀成績者だろ……? ノロマ魔法ですら使いこなせば強いってか」


「フレイン、意識不明の重体だってよ。どんな風にノロマ魔法を使えばそんなことできるんだよ……」


 そんな奴らに俺から一言。


「ウッッッッッッッッゼェ……!」


 ほっといてくれオーラとイライラをビンビンに醸しながら、俺は訓練所の廊下を歩いていた。アレから一週間程度。まだまだ噂が落ち着く気配はない。


 だが、それでも実害はない以上、困ったことはないと思っていた。何と言っても俺たちは冒険者の卵でしかない。訓練所を出ればほぼ無関係。なら気にすることはないと。


 だから、教官から次の実地訓練を発表されたとき、俺は凍り付いた。


「次の実地訓練は、パーティで浅層までダンジョンに潜ってもらう。パーティは最大六人、最低でも二人以上で組め。組み分けは各自自由とする」


 早々に解散となった訓練で、周囲は何となく俺を避けながら、仲のいい面々で組み始める。そんな中で、ポツンと残される俺一人。


 右を見る。俺の視線に気付いて、大人しい訓練生たちがサッと顔を背ける。


 左を見る。俺の視線に反応して、ガラの悪い訓練生たちが睨み返してくる。


 正面を見る。教官が立っている。


「ウェイド。お前は優秀だし、前回のフレインの件もフレインに過失があった事故だったのは分かるし、口下手なのも知ってる……が、お前の命に係わる。誰かとパーティを組め」


「……了解です」


 ということで、俺は二人組を作る、というボッチには厳しすぎる試練を前に嘆息した。






 さて、パーティを組むという事だったが、俺は侮っていた。


 何と言っても、今の俺は前世の記憶を取り戻した転生者だ。前世の社畜時代は、少なかったにしろ友達がいなかったわけではない。


 だから、ガチれば何とかなる……という風に、うん。侮っていたのだ。


「ごめん、ウェイドくんを怖がってるメンバーがいて……」


「テメェ、フレインをあんなふうにしておいてパーティに入れるわけねぇだろうが!」


「単純に戦力になってくれるとは思う。ただ人数がもういっぱいでな。すまないが」


 俺は中庭でこうも全滅するのか、と椅子に腰かけて黄昏ていた。そっかぁ、俺こんなにコミュ力ないのかぁ……。


「はぁあ……」


 がっくり項垂れて、どうしたものか考える。


 正直こだわりとかもないので「教官、組んでもらえませんか?」と聞いてみたが、公平性に欠けると断られた。この世界にはどうやら「仕方ないから先生と組むか」はないらしい。


 ちなみにパーティを組めない場合はどうなるか、と質問したら、成績に響くとのことだった。それだけなら、と納得しかけたところで、教官は言った。


「ちなみに、お前は最優秀成績者だからだいぶ余裕があるが、これで成績があまりに下がった場合、放校されたケースもあるからな」


 そして今後はこう言った実地訓練も増えていくのだそう。「じゃあ詰みなのでは?」と問うと「パーティくらいさっさと組め」と流された。無慈悲だ。


「……」


 必死になってパーティを組んでくれる相手を探すべきなのだろう。だが、こう言うのにはモチベーションが上がらないのだ。


 所詮他人じゃん、という気持ちがどこかにある。あるいは、そういう気持ちを見抜かれているから断られるのか。


「探すしかないか」


 俺は不貞腐れていてもどうにもならないので、仕方なく立ち上がった。そうして中庭を出ようとしたところで、大声を聞く。


「だから! 氷魔法使いなら、大人しく私と組めばいいでしょ!」


「で、でも……!」


 何だ? と目を細めながら近づくと、二人の女子がもみ合っていた。


 片方は知っている。ドロップ。水魔法使いで、訓練所での次席優秀者だ。美形でかなり強気なのもあり、同期の中では女王様といった風な存在になっている。


 一方手を掴まれているのは、知らない女子だった。全体的に真っ白な長髪で、特に前髪は瞳を隠すほど。話を聞く限り、氷魔法の使い手らしい。


「……氷魔法か」


 氷魔法も、重力魔法に続いて不人気の魔法の一つだ。人呼んで「半人前魔法」「水魔法使いの金魚の糞」。


 何故かと言えば、冷やすための水がないとろくに魔法が使えないらしく、水魔法使いの手を大きく煩わせるためなのだとか。その癖威力はファイアボールと同程度とも。


 俺は俺以外にも難儀な奴はいるんだなぁ、と思いながら見ていると、同期の女王ドロップに見返されていることに気が付いた。


「ひっ、うぇ、ウェイド……!」


 ここでも恐れられてるのかよ面倒だな。


「何やってるんだ?」


 あんまり興味がなかったが、むしろ話しかけない方が不自然な流れだったので、俺は近寄っていく。するとドロップは怯んだ様子で睨んできた。


「なっ、何よ! ノロマ魔法の癖に、余計な口を挟まないでよ!」


 まだ何も挟んでないが。


「大体アンタ生意気なのよ! スラム出身の貧民の癖に、大商家の生まれのアタシよりもいい成績を取って! フレインを倒したからっていい気にならないでくれる!?」


 フレインの件はむしろ後悔してるくらいなのだが、言っても無駄だろう。怖がられてパーティを組めないとか、どの面引っ提げて言えばいいのか。


「質問に答えろ。何をやってる?」


「ッ……!」


 関係ないことをワーワー言われても困るので、俺はとりあえず話題を戻しておいた。……戻しておいただけなんだけど、何でドロップこんな青い顔してるんだろうか。


「たっ、ただの勧誘よ! アンタには関係ないわ! すっこんでなさい!」


 そっぽを向いて怒鳴るドロップ。俺は「そうなのか?」と目隠れの子に聞くと「あ、えと」と戸惑ってしまう。


 正直まだ実情は分からないが、ここでの返答で俺の関わる関わらないは決まってくる。さて、と待つと、目隠れの子は叫ぶようにこう言った。


「あっ、あのっ! うぇ、ウェイド、さん。わたし、と、パーティを組んでいただけません、か?」


 それに大笑いしたのはドロップだ。


「ぷっ、アハハハハハ! そんな、アンタみたいな氷魔法使い、水魔法使い以外の人間が欲しがると思う? バッカじゃないの!?」


「いいぞ」


「えっ」「えっ」


 ドロップも言い出した張本人である目隠れの子も、俺の返答にポカンとした。俺は「じゃあそういう事だから」と目隠れの子の手を取って、運動場に向かった。









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