Epi117 家族旅行は終わった
妹の裸を見たが何も感じなかった。当たり前だが。あれを見て何か感じ入るようなら、俺の精神に異常を来してることになる。
それにしても美沙樹も隠すことなく、堂々としやがって。普通は嫌がるだろうに。
夜になり、いつも通り葉月と一緒のベッドだ。
「美沙樹さんって可愛いよね」
「どこが?」
「性格とか体も」
「いや、性格はともかく、体ってなんだ?」
先っぽが感じやすくて、下の方も案外感度がいいとか。アホか。
その解説は聞きたくなかった。なんか気まずいんだよ。
まあ、風呂場で痴態を晒してたし、葉月の猛攻に喘ぐ妹だったし。あげく俺に迫る葉月とそれを見て目を背ける妹。しっかり反応したものを見られた。
「漏れ漏れだったよ」
「なにがだ?」
「美沙樹さん。直輝の見て意識しちゃったんだね」
あり得ねえ。それだとブラコンじゃねえか。しかも極度の。
「良かったね。美沙樹さんにも愛されてるよ」
「兄妹愛以上のものは無いだろ。葉月のせいでなったんじゃねえのか?」
「違うよ。いじる前から漏れ漏れ」
あり得ん。妹までが弩級の変態だとは思いたくない。変態であって欲しくない。
少しすると握りながら寝息を立てる葉月だ。さすがに疲れたんだろう。風呂場でバカを仕出かすから。
なあ、股間。これ、花奈さんに処理してもらいたい。
そして明けて今日は家族が帰る日だ。
三泊四日ってのは案外短いものだな。
朝食を別館で家族と一緒に済ませるが、なあ、なんか気になるのか?
「兄ちゃん。あとで少し」
どこかで見たことのある目。とろんとして、物欲しそうな。あれだ倉岡の目。あれにそっくりだし。
朝食後の食休み中、少し庭を歩きたいと妹に言われ、葉月もかと思ったら。
「ふたりで話してくるといいよ」
と、なぜか背中を押されて妹と庭の散歩になった。
そう言えば、ここに来て庭をじっくり散策したことも無かった。広いだけじゃない。季節の花が常に咲き誇る。桜が咲いてるんだよな。二月だぜ。なんでと思ったら河津桜とか言う品種らしい。主に早春、二月頃に咲くとかで、今、この庭に数本植えてある桜も絶賛開花中ってわけだ。
その桜の木の下で。
「兄ちゃん」
「なんだ? 用件があるんだろ」
「あのね」
なんかはっきりしない奴だ。
「今まで、意識したこと無かったんだけど」
「なにを?」
「兄ちゃん」
「当り前だろ」
ヤバいな。これ、倉岡と同じ感じだ。
「あのね、その……なんか、溢れてきた」
絶句以外無い。曲がりなりにも妹で、血の繋がった存在だ。それがこともあろうか兄に欲情しただと? あっちゃいけないだろ。
まさか、俺から漏れ出るフェロモンは、妹すら女にするってのか? ねえだろ。そもそも、そんな媚薬みたいなフェロモンなんて出てないはず。そう思いたい。
「兄ちゃん。昨日、お風呂で」
「言うな」
「でも」
「兄と妹、血の繋がった兄妹だ。それ以上でもそれ以下でもない」
ここに新たな変態が創造された。葉月のせいだ。
「兄ちゃん」
「なんだ?」
「一回だけ」
「あり得ん」
妹を相手にするなら葉月を相手にするのがまともだ。葉月は他人だからな。俺さえその気になれば遠慮は要らない。だが妹は別だ。
身内同士で繋がるなんてあり得ないっての。
「だよね」
まあ、頭では理解してるのか。あり得ないことくらいは。
「でも、兄ちゃん見てこんな気持ちになるなんて」
「気の迷いだ。北海道に帰れば忘れるだろ」
「そうだといいね。でも、そうじゃなかったら、一回だけ」
頭が猛烈に痛い。割れそうだ。美沙樹を見ると、その物欲しそうな表情をやめろ。マジで近親相姦は無い。無いと思いたい。
俺まで変態の仲間入りはごめん被るぞ。
「兄ちゃん。次来た時も同じだったら、ほんとに一回だけでいいから」
懇願されて、はいそうですね、とは口が裂けても言えない。そもそも妹相手に役立つのか、って話しだ。昨日見た限りでは妹じゃ反応しない。つまりだ、繋がりようがない。
「ってことだ」
「うん。わかった。でも今も溢れてる」
マジか。
「あとで下着穿き替えないと」
これ、やっぱこの家に来ない方が良かったんじゃ?
実家暮らしの時には無かったんだし。この屋敷に何かあるのかもしれん。過去に葉月を上回る弩級の変態が居て、その怨念が今も残ってるとか。歴史のある旧家だし、なんかありそうだよな。
部屋に戻ると今日はのんびり過ごすことになった。
散々出歩いて草臥れたのもあるようだ。
「帰る時間まで少しのんびり過ごすのもいいな」
「やっと部屋にも慣れたから」
だそうだ。
と言うことでティーセットを用意し、寛いでもらうことに。
椅子は三脚しか無かったが、追加で二脚用立てして、葉月と俺も一緒に居る。
「本物の紅茶って、繊細で上品な味がするんだね」
「偽物の紅茶とかあるのか?」
「缶入りとかペットボトルの紅茶って、なんか不自然な味してた」
美沙樹に味の違いがわかるのかよ。俺にはさっぱりなのに。徹底的に貧乏舌の俺と、違いのわかる妹の舌。ここでも差が出てるってか? なんかマジで凹むわ。
「きっと高いんだよね」
「葉月。これってどの程度の茶葉なんだ?」
「知らない。いつもの味だし」
あかん、葉月はこれが当たり前なんだ。意識することも無い。となれば、諸岡さんか花奈さんに聞くしか無いのか。
「あ、そう言えばメーカーはハロッズと、フォートナムメイソンとか言ってた」
「知らん」
「直輝も知っておいた方がいいよ」
「まあ、追々勉強しておく」
淹れ方もついでに学んでおいて、と言われた。ただ熱湯を注ぐだけじゃ、この味は出ないんだとかで。
それはあれだ、花奈さんか諸岡さんに教えてもらおう。今日は諸岡さんが担当してるらしいから、同じ味を目指すなら諸岡さんが適任かも。
のんびり寛ぐと帰る時間になる。
荷物を纏め出発の準備をすると、花奈さんが来て「お車の用意ができてます」と。
「あっという間だったな」
「もっとゆっくりしたいけど、そうも言ってられないし」
「また日常に戻るんだ」
家族にとっての非日常。俺にとっての日常だ。すっかりここの生活に馴染んじまった。
もう元の生活には戻れないんだろうな。戻りたくも無いけど。
荷物を車に載せて来た時と同様、三列目に並んで座ってもらい、出発した。
空港まで送り届け別れを告げる。
「兄ちゃん。また来るから」
「まあ仕方ない。採用されたし」
「あとあれの件も」
「ねえぞ」
期待してやがる。
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