Epi116 危険なバスルームだった

「直輝さんと初めて接触した時。なんだか温かさを感じました」


 写真では溢れた、実物を見て温もりがあった。ついでに危うく洪水になる所だったとか。いやそれ、倉岡と一緒。マジで漏れてたし。


「平静を装っていましたけど、もう大変だったんですよ」

「えっと、そうは見えなかった」

「隠してましたから。溢れてたらメイドとして失態ですからね」


 今も溢れそうだとか言ってるし。


「それって、コントロールできるの?」

「できます。でも、我慢も限度があるので」

「まさか」

「今は大丈夫ですよ。部屋に戻ると床まで濡れちゃいます」


 気が緩んだ瞬間、溢れ返るそうだ。なんか、そこまで愛されてるのかと思うと。って言うか、俺って女性にとってどんな存在なんだよ。やっぱりあれか、媚薬効果があるのか。

 妙なフェロモン垂れ流してるのか。特定の女性だけが反応するとか。

 まあでも、愛されてるんだろうなあ。そうなると。


「やっぱり、花奈さんと。ただ、葉月をどうするか。葉月も本気だから」

「そうでしょうね。でも、直輝さんを欲する気持ちは、お嬢さまに負けてないと自負してます」


 葉月の卒業も近い。本気でどうするか考えないと。


 屋敷が近付くと葉月が目覚めたみたいで、隣に居ないことから文句垂れてるし。


「直輝。なんで中条の隣に?」

「寝てたから花奈さんの話相手してただけだ」

「じゃあ起きたからこっち」


 已む無く、一旦車を止めてもらい葉月の隣に座る。

 こっちを見て「直輝はあたしと結婚するんだからね」だそうだ。その気は無いぞ。今はどうケリをつけるか考え中だ。

 花奈さんの家族のことも知った。気持ちもよくわかった。やっぱり相手は葉月じゃない。


 屋敷に到着し家族を起こし部屋に入ってもらう。


「つい寝ちゃった」

「いやあ、さすがに疲れたな」

「ついいろいろ買っちゃって、何から何までお世話になって」


 葉月と旦那様の厚意だから、素直に受け取っておけと言っておく。

 花奈さんはここで勤務終了となり、諸岡さんがその後を引く継ぐ。


「お疲れのようですので、まずは入浴を済ませるとよろしいでしょう」


 だそうだ。

 風呂もすでに用意してあるそうで、すぐでも入れるとか。


「じゃあ、先に入っちゃうか。直輝、付き合わないか?」

「要らん」

「相変わらず素っ気ないな」

「じゃあ、直輝はママさんと一緒とか?」


 あり得ない。三歳児じゃあるまいし、親と一緒なんてないんだよ。


「じゃあ、妹は?」

「ねえぞ」

「たまにはスキンシップもいいと思うんだけど」

「この年齢でスキンシップは無い」


 じゃあ、と言うことで妹と親睦を深めるってことで、葉月が一緒に入るそうだ。


「いいのか?」

「いいけど、兄ちゃんは入って来ないでね」

「入って堪るか!」

「入ればいいじゃん。遠慮しなくていいのに」


 葉月だけならそれでもいい。って言うかいつもそうだし。けどな、妹と一緒は未来永劫無い。どこの世界に一緒に入る兄妹が居るってんだ。アホなことばっか抜かしやがって。

 さて、暫くすることが無い。いや、ベッドメイクとか、と思ってベッドを見るときれいになってるし。これ、諸岡さんが済ませてたんだ。仕事が早い。部屋の掃除とかもすでに済んでるんだろう。


 やることが無くなった。

 暫しぼーっと過ごすと親父が戻ってきた。一緒に母ちゃんもだけど。その年で一緒に風呂入ったのか? まあ夫婦だから好きにすりゃいいけど。


「直輝は風呂に入らないのか?」

「俺は後で」

「いつもお嬢様と一緒なんでしょ? 入って来ればいいのに」

「今行くと美沙樹も居るぞ」


 それはあれだとか言ってるが。


「三人で親睦深めればいいのに」

「別に美沙樹を意識するわけじゃないんだろ?」

「して堪るか」

「だったら入って来ればいい」


 入らん。葉月が居る状態じゃ親睦じゃなくて、食われる様を見せつける羽目に陥る。さすがに妹の前で痴態は晒せないからな。ついでに妹の体も見たくないし。

 とか思ってるとスマホ鳴ってるし。しかも屋敷用。


「なんだ? は? ボディソープ? そんなの諸岡さんに持ってきて。え? 手が空いてない?」


 くそ。ボディソープくらい補充してるだろうに。諸岡さんがそんな些細なミスをするとは思えん。

 とりあえず諸岡さんに確認してみるか。

 キッチンに行くと忙しそうに作業する諸岡さんが居る。


「あの、葉月がボディーソープが無いとかで」


 ねえ、聞こえてるよね? マジで忙しそうだけど。


「リネン庫に予備がありますから、それをお嬢様にお渡しください」


 えーっと。補充してない?


「企みはわかっておりますよ。どうせ中身を捨ててしまったのでしょう」

「マジ?」

「お嬢様ですからね。口実を作ったのですよ」


 なるほど。そういうことか。とは言え所望されている以上は、持って行く必要があるわけで。無けりゃ体も洗えないし。

 仕方ない。リネン庫に行き予備のボディソープを持ち、バスルームに向かい脱衣所で声を掛ける。


「葉月。持ってきたからな。ここに……」


 勢い浴室のドアが全開になり、葉月が飛び出して来て、だから抱き着くなっての!


「葉月! ボデ」

「入るんだよ」

「入らねえ」

「入るの」


 こいつ。でだ、浴室には見たくないものが、堂々と立ってこっちを見てる。

 ずいぶん成長したなあ。胸は葉月ほどじゃないが、程よく育ってるし。腰回りもしっかりしてるし。じゃねえ。


「美沙樹さんも一緒に入っていいって」

「いいわけねえだろ」

「いいんだってば。今だって丸出しじゃん」


 だから服を強制排除しようとするな。こいつ、マジでアホだ。

 おい、美沙樹。なに出てきてる?


「お前ら!」


 ふたり掛かりで剥かれた。

 結果、葉月はともかく妹と一緒の入浴。


「意外と大きいよね」


 とか言って揉んでんじゃねえ。なんか悶えてるし。妹のそんな姿見たくなかったぞ。

 ついでに俺のも見られたけど。無反応だったから事なきを得た、そう思いたい。


「あのね、兄ちゃん」

「なんだ?」

「ここでは裸が普通とか言われた」

「アホなこと、真に受けてんじゃねえ」


 葉月の悪巧みによって、まさか妹の股間まで見る羽目に陥るとは。


「処女だよ」

「いいから見せるな」

「入れればいいのに」

「近親相姦だっての」


 バカ過ぎて話しにならん。葉月の変態もここに極まったな。


「気にならないのか?」

「兄ちゃん。今さらだよ」

「直輝は堅い。だから柔軟性が必要」

「シモ方面の柔軟性は要らん」


 葉月に家族が毒されて行く。猛毒だなこれ。

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