Epi113 すべてを暴露するお嬢
飲み物をキッチンまで取りに行き、花奈さんと少し会話する。
「なんか悪い」
「なぜです? これも仕事ですよ」
「でも、きちんと紹介するって言ったのに、結局うやむやだし」
「仕方ありませんよ。お嬢様がご一緒してますし」
二号とか抜かしやがって。二号は葉月だ。あ、いやあれか、曽我部の娘が二号なんて、醜聞以外の何ものでも無いな。さすがにそれは無理だな。だからと言って花奈さんを二号に据える気は無い。本妻は花奈さん以外無いのだ。葉月には悪いけど。
「お茶請けですが何か好みはありますか?」
「なんでもいい。高級なものはどっちみち口に合わないし」
「銀座の老舗、元祖いちご大福がありますから、それをお出しましょう」
そんな贅沢なもん食っても味なんてわからんぞ。俺もわからんし。
お茶と大福をワゴンに載せてごろごろ。
部屋まで持って行くと家族が全員俺を凝視してる。なんだ?
「兄ちゃん……。毎日って」
「タフだなあ」
「なんか、もう、息子の情事って」
理解できた。呆れる妹、羨ましそうな親父、情けない表情の母ちゃん。
洗いざらいぶちまけやがったな。
「葉月」
「いろいろ聞かれただけ」
「で」
「毎晩チ〇コ吸ってるって」
頭が猛烈に割れそうだ。恥ずかしいなんてもんじゃないぞ。家族に情事を洗いざらいってのは。
葉月に羞恥心は無いかもしれんが、俺にはきっちりあるんだよ。変態には理解できんだろうけどな。最早怒る気力も無い。こいつにはなにを言っても無駄だ。隠し事ができないタイプなんだと思うしかない。
「葉月」
「なに?」
「今日からひとりで寝ろ」
「やだ」
速攻拒否。あげく「直輝が居ないと寂しくて死んじゃう」じゃねえっての。どこのウサギさんだよ。本当に死ぬか試すぞ、と言ったら「直輝の精子で生きてるから」って……バカ過ぎだ!
親父も母ちゃんも妹も言葉も出ないようだ。呆気に取られてる。
とりあえずお茶とお茶請けを出し、まずはひと息吐いて戯言を忘れてくれと。
「あのね、妹さん。美沙樹さんだっけ?」
「妹がどうした?」
「まだ処女」
「は?」
そんなことまで聞き出したのか?
「直輝がまだ処女の責任取って貫くとか」
「アホか! 妹とするわけねえだろ。どこの変態野郎だっての」
「このままだと永久に処女」
「いや、それは、ここに居れば御曹司とかチャンスあるだろ」
腐れ御曹司に大切な妹を与えるのか、じゃねえ。確かに腐れ御曹司は要らんが、多数居るなら少しはまともな奴も居るだろ。
今後、そんな出会いやチャンスが無いとも限らん。貰い手が居るかは知らんが。
「兄ちゃん」
「なんだ? 葉月の言うことを真に受ける必要は無いぞ」
「御曹司って。みんなお金持ちばっかなの?」
「財界の連中だからな」
まさか金に釣られてないだろうな? 貧乏暮らしからの一発逆転人生、無くは無いけど、あいつらだと都合のいい家政婦扱いにされるぞ。
人を大切にするなんて微塵も無いだろうからな。大切にできるなら従業員を使い捨てなんてしないだろ。稀に曽我部みたいな人も居るかもしれんが。
「チャンスあるかな?」
「あってもなあ」
「だったら、あたしが紹介してあげる」
「は?」
葉月が厳選して紹介するとか言い出した。
「変態をか?」
「違うってば。ちゃんと大切にしてくれる人。居ないわけじゃ無いし」
「まあ、ちょっとは居るだろうけど」
「だったらいいでしょ?」
葉月としては趣味じゃないから不要でも、妹なら遠慮なく間を取り持っていいと。
「多少人が良くても好みもあるんじゃないのか?」
「大丈夫。美沙樹さん、可愛らしいから」
「え?」
「直輝。美沙樹さんの魅力に気付けないんだ」
いや、マジで、これのどこが?
平凡な顔立ち、体は知らんが性格は少々きつい。主に俺に対してだけど。
「あるのかどうか知らんが、世の中には物好きも居るんだろう」
「じゃなくて、可愛らしいでしょ」
「どこが?」
「直輝はもう少し女性を見る目を養った方がいい」
なんだそれ。花奈さんなら魅力がたっぷり詰まってる。葉月も変態じゃ無ければ文句無し。香央梨とか美桜ちゃんも別に悪くない。みんなそれぞれの魅力はあると思う。
けどさあ、妹にそれがあるのかと言われたら、ねえぞ、としか言いようがない。
「身内だからかな。気付けないんだ」
「妹の魅力とか、そんなの気にする兄は居ねえ」
「そうかもだけど。直輝は、あたしだけ見てくれればいい」
「ねえぞ」
俺と葉月のやり取りを見ていた家族だけど。
「仲いいなあ」
「なんか、すごくいい感じ」
「夫婦みたい」
どこがだよ。
アホな話もそこそこに、飲み終わったお茶や皿を片付け、キッチンに持って行く。
「お茶だけど、もう少し出した方がいいかな」
「もうすぐ晩餐の時間ですから、今は不要でしょう」
「じゃあ、食後に」
「用意しておきますね」
キッチンの作業台に準備される多数の皿。
「コース料理?」
「簡易ですけど、前菜、魚料理、肉料理、サラダ、スープ、デザートまで」
それとアペリティフに好みはと。
「親父はなあ。ワインなんて飲んだこと無いだろうし。安い日本酒か焼酎、あとは発泡酒とか」
「でしたら発泡日本酒をお出ししますね」
日本酒を飲み慣れていなくても、飲み易く口当たりもいいとか。
「妹さんは成人してますか?」
「一応」
「では問題無いでしょう。ディジェスティフにはカルヴァドスを」
まあ、飲めりゃなんでもいいだろ。
「それとですね、晩餐のあとに旦那様と奥様が、ごあいさつに伺いますから」
「マジ? 緊張して酔っぱらうこともできんな」
「少しくらい酔っていても問題ありませんよ」
「でも貧乏人だから素性が粗悪だし」
そんなことは無いとか言ってる。それに旦那様はそんなこと気にしないと。奥様も気さくに話しをしたいそうだ。
なんかやだな。貧乏人がトップレベルの経営者とだぞ。恐縮しまくる姿が見える。まあ、その方がいいか。酔っぱらって醜態晒すよりは。
その後、夕食になりダイニングへ案内する。
緊張してるけど店じゃないし、マナーを気にする必要は無いと言っておいた。
「お箸をご用意いたしますか?」
花奈さんナイス。気が利くなあ。
結果、箸で食べる家族だ。ナイフとフォークを巧みに、なんて無理だからな。
「旦那様がお見えです」
この言葉に一気に緊張感が走る家族が居る。親父なんて飲もうとしてた酒を置いてるし。母ちゃんも背筋が伸びてる。妹も緊張して表情が硬いぞ。
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