Epi110 執事の家族が来訪する

 合格祝いはささやかに、と思ったんだけど。


「なあ、なんだこれ?」

「合格祝いだって」


 ベッドの上にこれ見よがしに置かれた下着?

 手に取って感心する葉月が居るし。誰だよ、こんなもん置いたの。


「ねえ、オープンビスチェとTバックのオープンショーツだよ」

「意味あんのか、その下着。丸出しじゃねえか」

「こっちはベビードールだよ。すっけすけ」

「だから、下着として意味ねえだろ。全部見えてるじゃねえか」


 俺に見せつけながら「夜に励めってことでママが買ったんだ」とか言ってるし。


「今すぐしてもいいよってことだよね」

「やらねーぞ」

「やっていいから買ったんでしょ」


 くそ。マジで本気で繋がっていいってのかよ。


「ねえ、こっちはオープンテディになってる」

「だから見せなくていい」

「ランジェリー嫌いなの? やっぱまっぱがいいの?」

「そうじゃねえ」


 頭おかしい。ここまであからさまに、やれ、と言わんばかりの下着類。なのに避妊具が用意されてない。つまりだ、さっさと子づくりに励めと、そう言うことか?

 だが、俺の腹はまだ括られていない。

 なあ、だから着なくていんだけど。

 いや、その格好、まっぱよりなんか妙に刺激が。


「腰くねらせるな」


 科作って腕絡めるな。

 やばい。これ、いつもの葉月がさらに愛らしく見える。


「直輝。夜が楽しみだね」

「無いからな」

「念願の入れ放題、出し放題」

「放題は無いんだっての」


 こいつ、色気出しまくりじゃねえか。もとより体だけは妖艶すぎるんだよ。そこにエロい下着姿とか。男を食らうためだけに存在してんじゃないのか?

 そう思うしかないほどにエロい。


 結局、夜を待たずに繋がりそうになった。辛うじて最後の一線を越えずに済んだが。いつもより萌えたのは言うまでもない。もう時間の問題かもしれん。


 朝、ダイニングに葉月を連れて行くと、にやにやする奥様が居る。

 まあ、わかった。葉月の言う通り奥様が仕込んだのだと。この親にしてこの子ありって奴だ。


「葉月、合格祝いのプレゼントは楽しめたの?」

「萌えた。けど入れ放題は無かった」

「あれだけ仕込んでも駄目なの?」

「直輝が堅すぎて。チ〇コもすごく硬いけど」


 変態の会話は聞くに堪えん。

 旦那様は額に汗を浮かべて、苦笑いするしかないみたいだ。大旦那様も頭抱えて項垂れてるし。

 大奥様に至っては正攻法が駄目なら、寝てる隙に既成事実化してしまえとか。アホだ。モラルが崩壊した女性陣と、俺が抗うことで安堵する男性陣だな。


 主たちの食後に使用人の食事となるが、青沼さんや倉岡が詰め寄ってきた。


「向後さん。祝いのプレゼントって」

「萌えたんですか? 私も萌えたいです」


 そうなると花奈さんがね。


「直輝さん。激しい一夜、愉しめたのですか? 私は愉しめてないのですが」


 だから、そこで嫉妬されても、あれは奥様に仕込まれただけで無実だ。

 他の人はへらへら笑ってるし。最近接点の多い田部さんまで「少し積極的になっても悪くなさそうですね」とか言ってるし。

 朝からエロトークとか、なんなんだ、この屋敷は。

 諸岡さん、なんとかしてください、と思って視線を向けると。


「向後さん。どうせですから全員お相手しては如何ですか? その際は私が技術を伝授いたしますので」


 じゃねえっての。

 そうなると、わいわい、メイド長直伝の秘技炸裂を期待したいとか。さっさとメイド長に教えてもらい、熟達した技でいかせて欲しいとか。

 ここも変態しか居ねえ。


 逃げるように食堂をあとにし、今日は、と思い出す。


「迎えに行かないと」


 家族が来る日だった。

 朝からエロネタで盛り上がって、忘れるところだったし。盛り上がったのは俺じゃない。曽我部とその使用人たちだからな。

 普段着に着替えてガレージに行き、車を物色しようとしたら。


「直輝さん。私が運転手をしますから」

「え?」


 花奈さんだ。なんか嬉しい。


「四日間、直輝さんとご家族のお世話係になりました」

「マジ?」

「嬉しそうですね。私もです。ごあいさつもしたいですし」


 思わず嬉しくなって抱き着きたくなるが、その気分をぶち壊す邪魔が入った。


「直輝! あたしも一緒だからね」

「あ」

「お嬢様……も、でしたね」

「も、じゃない! あたしが婚約者だ」


 あかん。忘れてた。

 一緒に行動するのは葉月だったんだ。なんてこった。これ、やっぱ無理やりでも断ればよかった。でもなあ、旦那様のあの無言の圧には抵抗しようが無かったし。

 ちなみに車はベンツVクラス、ミニバンタイプだな。GLSより後席にゆとりがある。ふたり掛けシートと三人掛けシートの三列仕様だ。


「直輝、後ろの席に座るんだよ」

「ナビシートでもよろしいかと」

「駄目。あたしと並んで座るの」


 俺としては花奈さんの隣がいい。だが無駄だった。葉月に後席に座らされ「家族と対面で話もしやすいでしょ」だそうだ。一見正当な理由でもって後席に、並んで座ることに。とはいえ、アームレストがあるから距離は取れる。

 家族を乗せるまでは二列目のシートは前向き。家族を乗せたらシートを後ろ向きにするそうだ。

 車を出すと「中条からぶつぶつ声が聞こえる」とか言ってるし。


「直輝さん。まだ決めるのは無理かと思いますが、期待して待っていますので」

「期待なんてしない方がいい。あたしがもらうんだから。中条は二号さんとして許す」

「二号……」

「あのさ、まだ決めてないって言うか、俺としては」


 横からパンチが飛んできた。痛いっての。


「直輝はあたしと結婚するの。そのために大学も受けたんだから」


 動機が不純すぎる。

 だが、今後は経営者としての力量を身に着け、将来の曽我部を背負うと。代わりに俺が葉月を陰に日向に支える、と力説してやがる。

 まあ、気合入れて頑張るのは悪くない。旦那様にしても奥様にしても、葉月のやる気は認めているんだろうし。


 でもなあ。


「花奈さんと」

「妾で充分でしょ」

「いや、それだと」

「子どもができても、ひとりなら許す」


 そういう問題じゃねえ。気持ちの上では花奈さんが七割、葉月が三割程度しかない。葉月が上回ればともかく現状無理だ。

 あの下着姿で迫るのはいいんだけどなあ。


 ああ、俺が優柔不断なのと踏ん切り付かないからか。

 車が羽田に着くと待ち合わせ場所まで出向く。


「どこで待ち合わせしてるの?」

「北ウィング。JAL便で十二時到着予定だ」

「お昼ですけど、どうします?」

「空港内とか?」

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