Epi108 試験終了と家族の来訪予定
大学入試も終わり高校へ通う日も減る。登校日以外は部屋に居て、俺の勉強の邪魔をしてくるんだからな。
「おいこら。絡むと集中できん」
べったり甘えて両肩に腕を乗せて、胸を押し付けぐりぐり。しかも毎度のことながらまっぱだし。頭を挟むな。感触が良過ぎて集中力を一気に削がれる。
これ、田部さんが居ても同じことするんだよな。同性の目だから気にしないんだろうけど。邪魔だからうっちゃって欲しい。
微笑ましい目付きで見てる、と思うと田部さんも出すし! 三十路の柔いブツふたつ。ぶるぶるしてるし。
「あの、俺、勉強」
「集中力を養えますよ」
「直輝に欠けてるのは集中力」
「違う。こんなんで養えるかっての」
久しぶりに個人所有のスマホがぶるぶる言ってる。
「電話が入ってるから、どいてくれ」
「誰? これって直輝のスマホ」
「母、って書いてありますね。お母様なのですね」
だから、おいこら葉月! なに出てやがる。
「はーい、直輝でーす。今、葉月ちゃんといいとこですよー」
バカな出方してんじゃねえ! 母ちゃん絶句してるだろ。
勢い葉月から奪い返し今のは遊ばれただけと伝える。
「今の相手か? 葉月だよ。そうだよ、曽我部のご令嬢様だっての」
くすくす笑い声をあげるのは葉月と田部さんだし。うるせえからどっか行け。
「え? いつも一緒だってか? そうだよ。お嬢様専属の執事だからな」
要件を言えと促すと、どうやら遊びに来れる日程の報告だとか。
「十八から二十一日? 三泊でホテルを予約しておけばいいのか?」
葉月の合格発表はその前日。合否が判明した後なら問題無いな。重なると面倒だと思ったが。万が一落ちたとかで、その当日に遊びに来たとかはさすがに、あれだし。
合格していたら母ちゃんにも祝ってもらえるか。まあ必要無いと思うが、余計な心配掛ける必要も無いな。
「どこかリクエストあるか? わからない? じゃあこっちで適当に決めておく」
それと航空機のチケットや空港までのお出迎えも。とは言え車はどうするか。私用だからレンタカーで迎えに行くしか無いな。まさか車使わせてくれとは言えないし。
「当日車で空港まで迎えに行くから」
出口を間違えるなよと伝えておく。
航空機のチケットは三日前には届くようにする。詳細もチケットに同封しておくと伝えた。
電話を切ると葉月が興味津々だ。
「来るの?」
「遊びに」
「妹さんは面接するの?」
「その予定だ。旦那様に伝えておかないと」
じゃあ、一緒にとか言ってるし。服を着てすぐに俺の手を引いて部屋をあとにする。田部さんは休憩でもしておいてと。用が済めばまた呼ぶからってことで。
旦那様の部屋の前に来ると、ノックもそこそこにドアを開け放つ葉月だし。
「は、葉月か? 今日はなんの要求だ?」
「要求じゃなくて、直輝の家族の日程が決まったから」
「そ、そうか。それでいつになったんだ?」
葉月が勝手に話すから俺が口を挟めん。
「どっかのホテル手配するって。それと車で迎えに行くんだって」
でだ、葉月が家の車使ってもいいよねとか。いや、それは公私混同だろ。なんて思ってたら「好きなの使えばいい」と。いちいちレンタルする必要は無いらしい。どうせ使ってない車はたくさんある。たまには動かした方がいいとかで。
「ホテルなんて意味無いでしょ。別館の客室使ってもらえば?」
「ああ、そうだね。面接もあることだし、完全な私用でも無いか」
マジ?
「あの、宿泊費用は?」
「気にする必要は無い。向後君の家族なら歓迎するよ」
メイドも居る。世話もできるから、俺も一緒に世話されろと。家族との時間を過ごすといいとか。四日間は使ってない有給休暇とするそうだ。
「東京を案内してあげるといい」
「あたしも一緒に行きたいなあ」
「それだと家族の邪魔になるだろ」
「でも、将来の夫だし」
ねえぞ。そこは強く否定しておかないと、確実にこの家に取り込まれる。
だが無駄だった。
「そうだな。まあその辺は了承を取って行動すればいい」
「直輝。ちゃんと将来の嫁って紹介してよ」
「それは……」
くそっ!
旦那様を前に断固拒否がしづらい。にこにこしやがって。無言の圧力が強過ぎて、とても拒絶できる雰囲気じゃ無いし。
あとで葉月に直接言えばいいか。ここで事を荒立てる必要は無いし。
妹の面接に関しては当日はしんどいだろう、と言うことで翌日の夕飯のあとにとなった。
「履歴書と写真。ちゃんと伝えておいてくれよ」
「畏まりました」
「採否だけど当日中に決めるから」
早いな。決めたら採用不採用問わず、業務用スマホに連絡を入れるそうだ。
旦那様の部屋をあとにし葉月の部屋に。
「妹さんって可愛いの?」
「だから知らんっての。普通だろ」
「普通じゃわかんないじゃん」
「妹を異性として見てないからな」
その感覚はよくわからないそうだ。ひとりっ子だからだな。
金はあるんだから、五人でも十人でもこさえられそうな気もするが。でもあれか、忙しすぎて夜のお勤めが不十分だったとか。奥様が要求しても疲れたとか、眠いからまた今度とか。
そう言えば夫婦で寝室も別みたいだし。
「葉月の両親って、仲いいのか?」
「仲? なんで?」
「夫婦で別の部屋持ってるし、寝る時も別じゃないのか?」
「仲はいいよ。部屋が別なのはパパが仕事してるから」
仕事って、家でもやってんのか。
「じゃあ寝室は?」
「ちゃんとあるよ。パパの部屋とママの部屋の間に、ベッドルームがあるから」
寝る時はそこで揃って寝ているそうだ。
なのにひとりっ子。
「兄とか姉とか、兄妹って欲しいと思わないのか?」
「前はね、妹欲しいとか弟居ればいいなって、思ってた時もあった」
「今は?」
「直輝が居るから要らない」
これはあれか。執事を要求したのって寂しいってのもあった。ひたすら広い屋敷内で気さくな関係性と、愛せる存在と友人のような存在。
ここには無かった。だからとりあえず執事、という名目で傍に置いておける人を欲したと。
「執事って何人くらい応募してきてたんだ?」
「二千人くらいかなあ」
「二千? マジか」
「下は二十歳くらいから上は六十近い人まで。男性も女性も」
書類選考では真っ先に女性は切り捨てたそうだ。求人募集も何かと煩い。男女公平にとか、年齢も上限下限を設けた場合、理由の明記とか。ゆえに年齢も性別も不問。
結果、ひと枠に対して二千人もの応募者が殺到したそうだ。
二千分の一か。
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