Epi105 お嬢はその反応に至るか

 電動化。それってモロに大人のおもちゃ。

 けど、まあそれはそれで。


「このバイブユニットを入れるだけです」


 出してきたのは軸と小さな箱がセットになった奴だ。


「ピエゾアクチュエーターを大小ふたつ採用して、コントローラーで振動を制御すると、様々な振動パターンが生まれるんです」

「よくわからんが、で、どういうこと?」

「ただ回るだけの偏心モーターと違って、細かい変化を持たせられるんです」


 レイアウトの工夫と、微細な振動から振幅幅を大きくするとダイナミックに、とか言ってやがる。ついでに変化があることで飽きが来ないとも。


「慣れちゃいますからね。いつも同じだと」


 俺には違いがわからん。使わないし。


「じゃあ、セットしますね。持ち手の部分に乾電池四本、単四です。アルカリがいいですよ」


 こいつ、電気関係強いのか?


「もしかして電気系統強い?」

「一応、趣味なんで」

「マジか」

「驚きました? でも電験三種と家電製品エンジニアの資格も持ってます」


 すげえ。電気のスペシャリストかよ。

 ここのメイドって、単独で手に職を持つレベルの人ばっかりか? 変態ばっかりかと思ったけど。実は優秀な人材を集めてるのかもしれん。

 花奈さんは車や船舶。諸岡さんは帳簿関係も。じゃあ、槇さんとか前山さんも?


「なあ」

「なんですか?」

「ここのメイドってみんな、なんかの資格持ってるのか?」

「持ってますよ」


 マジかよ。俺って、そんな中に居るってのか。なんの特技も無いんだけど。

 俺ってマジ味噌っかすじゃん。


「なんかすごいな」

「そうですか? 生活するのに必要な資格を取っただけですよ」

「でもさ、それなりに勉強しないと」

「高卒なんで、手に職と思っただけです」


 資格が欲しければ申請すれば、なんでも取らせてくれるそうだ。つまりだ、自分で学ぶ意思があれば金や時間を考えること無く、それに費やすことを推奨してると。

 なんか、旦那様って。ひとりで充分やって行けるだけの、知識や技術を身に着けさせる。そのための出費を厭わないんだ。マジで育てるってことか。


「誰でも必ず得意とするものがある、って旦那様が言ってました」


 それを伸ばすのが自分の仕事だとも。

 なんか、やっぱり日本でもトップに居るだけのことはある。使い捨てするだけの経営者とは根本が違うんだ。


「あの、それでですね」

「なんだ?」

「私に使ってみて欲しいんです」


 やっぱそう来たか。

 なんて言うか、まあ、いろいろ工夫して作ったのは理解した。少しはその労をねぎらってもとは思う。

 でもなあ。ああでもやっぱり、そのくらいは。


「わかったよ」


 実に嬉しそうに微笑んでやがる。で、即座にまっぱになって、だから広げるな。

 電池を入れて「最初は弱でお願いしますね」とか言ってるし。自分で試してないのか? それとも俺に使って欲しかった。まあ、そっちだろうな。

 スイッチを入れて「ブーン」ではない「ビーン」って感じの音。少し高めの音だな。

 その後、いろいろ試してみたが、反応が……。思わずやりたくなった。

 すっかり出来上がった感じの青沼さんだった。


「次は向後さんの生棒をくださいね」


 それはやらん。この道具は感謝するけど。


 でだ、一度使ったものをそのまま、ってわけにも行かないから、洗浄消毒してきれいにして葉月の部屋に。

 メンテナンスの仕方も教えてもらっておいた。通常はゴムを被せて使うといいとか。そうすれば清潔かつ濡れることもないし、故障の回避もできるそうだ。


「直輝、ずいぶん時間掛かってたけど」

「使い方とかメンテナンスに、ブツの説明が長くてな」

「ふーん。じゃあ、さっそく」


 まっぱで待ち焦がれていたようだ。せかすように愉しませろと要求してるし。

 で、使うと嬌声を上げて喜ぶ変態が居た。いや、青沼さんも同じような感じだったな。あ、でも青沼さんも変態だったから、これが変態の反応ってことで。

 出力を上げると、まあ、あれだ。悶えまくる葉月が居て、これはこれでそそる。


「直輝! これ、良すぎる」


 良すぎる、ってことはだ、男よりもいい、ってことじゃないのか?

 これで満足してしまえば、俺が食われる心配が無いかもしれん。おもちゃ漬けの葉月……。ありか?


「でも、直輝のも欲しい」

「やらん」

「欲しい。もっと欲しくなった」

「感触はそっちの方が上だと思うぞ」


 そうじゃないと。

 愛情が無い機械如きが生チ〇コに敵うわけがないと。特に俺限定の生チ〇コには愛が詰まってるんだとか、わけわからんこと言ってやがる。


「いや、この工夫された機械こそが男を凌駕するぞ」

「しないってば」

「するんだよ。俺じゃあきっと物足りないな」

「したくないんだ」


 いや、さっきの葉月を見たら欲しくなった。けど、それイコール曽我部入りだし。

 それは避けたい。花奈さんとの生活を目論んでるんだからな。


「そうじゃないけど、繋がるのは卒業まで待て」

「長い」

「長くねえ。もう数か月じゃねえか」

「今欲しいのに」


 しかし、恐るべしおもちゃ。

 これ、花奈さんにまた使うとかは。やめた方がいいかもしれん。俺よりいい、とかなったら立ち直れんぞ。

 たっぷり葉月を愉しませて、その後、風呂に入らせるが今日は疲れ切ったようだ。機械の刺激は予想外に強く、心地よいのかどうかは知らんが、疲労感がすごかったみたいだな。


 葉月が居ながら安眠できるとは。なんか、これはこれで寂しいとか思ったり。

 普段はこれでもかと要求してくるし、吸い尽くされてるからなあ。


 隣で寝入る葉月の愛らしさ。変態でさえなければと思うと、実に残念至極。


 そして、短い冬休みが終わりいよいよ、葉月のラストスパート。受験に向けてだ。


「受験校は?」

「ソフィア」

「は?」

「上智」


 あれか、同じ駅にある大学。

 つまり通うのも今までと同じ。受かればだけどな。


「合格できるのか?」

「わかんないけど、なんとかなりそう」

「いつ勉強してた?」

「直輝が遊んでる間」


 遊んでるって、花奈さんとか?


「ほとんど葉月と一緒に居るじゃねえか」

「学校で」

「学校? いや、学校は当然だろ」

「じゃなくて、受験勉強してた」


 学校のカリキュラムは放り出して、受験に必要な勉強をしてたらしい。


「卒業できるのか?」

「そっちは問題ない。もともと偏差値高くないし」


 自分の実力から見れば楽勝だそうだ。

 お嬢様学校って、意外と偏差値は低いんだよな。そこからの進学か。

 大変そうだなあ。

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