Epi97 ただの執事のはずだが

 周囲に群がるお嬢様連中。

 そして割り入った葉月。


「祝言は無しと伺いましたの。なにか問題でも?」

「曽我部お嬢様と言えど、その名で蹴落とすわけにはいきませんよ」

「奪うのも自由だそうで」

「曽我部の代表が有望と仰るのです。これ程の優良株は他にございません」


 余計なことを言いやがって。お陰で過大評価されまくってるぞ。

 年齢的に近いのが多いが、中には首を傾げたくなる奴も居る。悪いがもう少し自己の客観視をした方がいい。

 年を考えろと。


「直輝。ここに居る有象無象なんて、どうでもいいでしょ」

「いや、まあ」

「なに? 誰か気になる相手が?」


 葉月。それを言うとな。


「どなたですの?」

「私でしょうか?」

「言葉を濁さずとも堂々と公言されては如何でしょう?」

「遠慮は要りませんよ」


 こうなるんだよ。騒ぎがでっかくなる。


「直輝様、と申すのですね。私、怜那と申します。よろしくお願いします」

「直輝様。私は華凛と申しますの。今後良しなに」

「まあ、直輝様なのですね。梨々香と申します。パーティー終了後にお付き合い如何です?」

「邪魔。あたしの直輝に手を出さないで」


 仮では無いかと全員に突っ込まれてる。まだ決定していないならば、そして奪い取るのも自由であれば、独占できると思うなよと。

 なんか葉月が哀れになってきた。旦那様、実に酷なことを。

 この中では一番幼いしなあ。他は成人してるから、まあ自己責任で俺と致すのもありなんだろう。

 その内のひとりは遠慮願うぞ。どう見ても三十代後半だ。


 なんか、葉月が変だ。ふるふる震えてる。もしかして怒り心頭状態か?


「直輝の」


 全員葉月に注目してる。


「前では」


 待て、それ以上口にするな。なんかヤバい。


「衣服を」


 だからやめろ。変態発言を。


「纏うこと適わない」


 言っちまった。俺が変態野郎だろそれじゃ。変態は葉月だぞ。

 静かになったけど。

 でだ、俺に視線が集まる。やめてくれ。俺は変態ではない。変態は葉月だ。勝手に丸出しになって誘惑してるだけで、俺は無実なんだよ。


「あの、お嬢様の仰る意味が」

「衣服を纏うこと適わない。そう聞こえましたの」

「服が邪魔とか?」


 あかん! 俺が変態扱いになってるだろ。

 違うぞ、変態は葉月であって俺じゃない。濡れ衣を着せられた。


「あの、ここではちょっと」

「そうですよね。プライベートであれば、邪魔な衣服は纏いませんの」

「お嬢様もお召しになられてますし、個室であれば」


 あれ?

 葉月を見ると狼狽え始めた。

 だって、こいつら、揃いも揃ってプライベートならの条件付き、であっても。


「ふたりきりで躊躇する理由はありません」

「今から個室はどうでしょう? 体の相性もありますよね」

「そうですね。互いに深く知り合うのでしたら」


 マジか。

 変態は葉月だけでたくさんなんだが。金持ちのお嬢ってのは、基本、変態でできてるってのか?

 モラルが崩壊したのがお嬢様、であれば納得しそうだ。

 そう言えば変態メガネ……香央梨も同じだった。美桜ちゃんも結局仲間入りしてるし。


「順番を決めましょう」

「そうですね。どのように?」

「くじ引きは如何でしょう?」


 待て待て、お前ら、股が緩すぎないか?


「ちょ、ちょっと待ちなさい!」

「なんです?」

「順番は曽我部お嬢様でも守って頂かないと」

「そうですよ。みな平等ですの」


 違う。アホかこいつら。葉月、なんか哀れだ。変態の総本山はきっと他に居るんだな。実は葉月はお嬢の中ではまともな方だったとか。

 いや、でも、変態。

 このままだと葉月より先に、ここに居るお嬢に食われる。花奈さんだけと誓ってるんだぞ。お嬢なんて要らん。

 逃げるか。


 葉月。


 仕方ない。

 葉月の手を取って会場から猛ダッシュだ。お淑やかを演じてるお嬢連中では、豪快な葉月と鍛えられた俺には追い付けまい。


「葉月」


 手を取り、囲みから抜け出し会場外へ一気に突っ走る。

 後方で「あ、直輝様!」とか「逃げた」とか「捕まえましょう」とか、なんだそれ。お嬢が一斉に走り出してるし。見た目通りに品格を保てっての。


「な、直輝?」

「逃げる」


 葉月を見ると嬉しそうだな。

 周囲もいきなり走り出す俺と葉月に驚いてはいる。けれど、その後に続くお嬢連中にはもっと驚いてるようだ。思わず顔を伏せてる奴が幾らか。お前らがそのお嬢の親だろ。さぞや恥ずかしいだろうよ。性欲剥き出しのお嬢を見れば。


 会場をあとにすると葉月の部屋に駆け込む。ここまでは誰も追って来れないからな。そもそも屋敷に入れるわけが無いし、勝手に上がり込めば不法侵入だ。

 窓から外を見ると、引き返すお嬢連中が居る。助かった。


「直輝」

「あ?」

「ありがとう」

「え?」


 葉月が実に嬉しそうだ。


「あたしにも希望あるんだね」

「いや、それはまあ」

「あたしを選んでくれたんだよね」

「それはだな」


 あっかーん!

 勘違いしやがった。同情しただけで葉月をとかじゃねえ。俺の本命は花奈さん一択だ。他はどうでもいい。いや、まあ葉月には少しは、ちょっと、ほんのちょっと気持ちがあるけど、将来一緒になる選択肢は存在しない。

 だよな?


「直輝」


 おい、だから脱ぐな。

 しないんだから。


「今夜決めよう」


 無いぞ。あって堪るか。


「直輝も」


 じゃねえっての。だから、さっきのは違うんだってば。

 迫るな。口、尖らせて、あああああ。


 濃厚なキスに続いて、俺の服をむしる葉月が居る。葉月はすでにまっぱだ。いつものことながら、服を脱ぎ捨て去る速度は大したものだ。じゃねえんだよ。

 こっちも脱がされてるし、だから、俺の口に先端を押し込むな。ついでにパンツ脱がすな。

 繋がる気は無いんだっての。


「は、葉月」

「直輝。掘って」

「掘らねえ」

「なんで? だってさっき」


 だから勘違い。

 跨って繋がろうとするんじゃねえ。


 繋がる寸前で辛うじて回避できた。ついでに漏れたからな。

 本気でヤバかったぞ。


「なんで?」

「だからな、あれは葉月が哀れになってだな」

「入れてくると思ったのに」

「そうじゃない」


 最初に惚れ込んだのは葉月。だからあの連中の順番など関係ない。同じだけ距離を縮める時間を設けず、いきなり至ろうとするから逃れた。

 まさにお嬢ってのはひと皮剥けば変態だったと。


「言ったよ。ひと皮剥けば股開くって」

「奇しくもそれを今日理解した」

「直輝信じて無かったんだ」

「だって、あり得ないだろ。世間では淑女だぞ」


 エロくなければ女じゃないそうだ。

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