Epi77 メガネお嬢と嫉妬のメイド

 お礼の件は葉月を学校に送った際、ひと言あれば充分。

 問題は香央梨の方だ。もし許可を得たとかだと、確実に迫ることが予想される。ただなあ、花奈さん以外と繋がる気は無いし。ましてや変態とは言えお嬢だ。

 親がそう簡単に許可を出すのかと思うが。それもなあ、葉月の両親、考えがゆるゆるだから、無いとも言い切れないし。


 葉月を送ってる最中にこっち見て、気になったようだ。表情に出てたか。


「なに悩んでるの?」

「香央梨の件だよ」

「かおりん、ねえ」

「気になるか?」


 最初から好印象を抱いてたから不思議じゃないと。


「直輝って、なんか性欲刺激するんだよね」

「なんだそれ」

「わかんないけど、溢れてくる」


 それが意味不明なんだよ。花奈さんも葉月も倉岡も。そして美桜ちゃんに香央梨まで。ここに来て五人もだぜ。俺の身に一体何が起こってるのやら。

 世界七不思議に数えてもいいだろうなあ。


「媚薬出てる?」

「出るか、そんなもん」

「でも説明付かない」


 モテてる、それ自体は悪い気はしないし、むしろなんか嬉しいとか思うけど。その方向性だよ。問題なのは。

 揃いも揃って性欲剥き出しになる。マジで媚薬効果でもあるのか、俺に?


 いつもの駐車位置に車を停める。少し離れた場所に美桜ちゃんと香央梨が居て、車を見付けると駆け寄ってきた。

 葉月を降ろすと各々声を掛けてくるし。

 丁寧に頭を下げてお礼を言う美桜ちゃんだな。


「おはようございます。先日はありがとうございます」


 でだ、問題児。

 じっと見つめたかと思ったら顔赤くして、俯いたと思ったら上目遣いで見てるし。


「例の件ですけど」

「まさか」

「あいさつに来て欲しいって」

「は?」


 許可云々の前に顔を見せろと。そりゃそうだろうな。どこの馬の骨とも知れん奴に、大切な娘をほいほい抱かせるわけが無い。ある意味、良かったと言うか常識があって何よりだ。


「基本好きにすればいいと、言ってくれてます」

「いや、好きにすればっておかしいだろ」

「だから顔見せ、あいさつをって」


 それが済めば当事者にお任せで口を挟む気はないらしい。

 のこのこあいさつに行くと、こいつを抱く羽目に陥るのか。ならば条件付きってことで、許可を得られてないとか言って、無かったことに。


「あいさつ行かなかったら?」

「嫌なんですか?」

「だって、結婚するわけでもないし、付き合いを前提でもない」


 単に性交目的。不純すぎて話しにならんだろ、普通に考えれば。


「私じゃ嫌なんですね」

「違う。目的が、だ」

「直輝、堅いなあ」

「固いとか緩いじゃねえ」


 ガバガバな倫理観の持ち主しか居ねえのか?

 大切なお嬢様だろうに。だから女子高に通ってると思ったんだがな。虫が付くのを嫌い清廉であることを望む。学校もそういう教育方針じゃないのか。


「まあ、あれだ。とりあえず一旦保留にして、後日改めてってことで」

「じゃあ今日学校終わったら」

「もう少しゆっくり考えた方が」

「こういうのは勢いもあるんです」


 勢い任せは駄目だっての。自分の体も含めてちゃんと考えろっての。

 それにしても葉月も同級生を抱かせて、それでいいのか?


「ってことなんだが?」

「いい、直輝がちゃんとあたしを見てくれるなら」

「いやいや、良くないだろ。本音は?」


 俺を見るその目は何を語る? じっと見つめて、あれだろ、やっぱ嫉妬するだろうに。友人だから男も共有とか、そんな考えのはずは無いと思いたい。

 なんか言え。


「あとで」


 ふたりの前では言いにくいってことだよな。つまりは嫉妬心がある。抱かせたくないって思うのは当然だ。

 とりあえず遅刻しそうだから、三人を学校に向かわせて、終わり次第話をすることにした。


 屋敷に帰ると花奈さんが門の周囲を掃除してる。

 車を停めて声を掛けると笑顔で迎えてくれるんだよ。とは言え少し曇り気味の笑顔だ。

 その理由はすぐに判明する。


「直輝さん。周りに女子高生が集まってますね」

「なんか、葉月の友だちとか」

「若い子に囲まれて楽しそうです」


 あかん。嫉妬だ。あいつらに感けてることが多くて、花奈さんとのデートも減ってる。


「あ、車仕舞ってくるんで、その件は」

「いいんですよ。言い訳しなくても。仲が良いのは良いことです。もちろん性欲を満たすのも悪くは無いですよ」

「いや、あの、性欲を満たす気は無いんで」

「でも、若いんですよ。女子高生ですからね、下半身が漲ってもおかしくありません」


 駄目だ。言葉でもっての対処は不可能。さっさと車を仕舞って、寮でじっくり。

 車を仕舞い門の前に戻ってくると、居ない。辺りを見回すと玄関前の掃除してるし。

 すぐに駆け寄って。


「花奈さん。昼食後だけど寮で少し」


 少しだけ視線を寄越し、すぐに逸らすと箒でポーチ周辺を掃いてるし。


「花奈さん。昼食後に部屋に行くから」


 気にしすぎなんだよ。でも、まあわからなくもない。花奈さんと葉月たちの年齢差。これを考えれば結構な開きがあるから。けど、俺にとって大切なのは花奈さんであって、お嬢様と本気で付き合う気は無いし、そもそも釣り合い取れてない。

 身分違いの恋なんぞ破綻するのが見えてるし。

 お嬢様連中にはそれに見合う相手が居る、花奈さんもわかってそうなんだけどな。


 昼食後、花奈さんの部屋に行きノックすると、ドアを少しだけ開けて見てるし。


「あの」

「入りたいんですか?」

「話を」


 ドアを開けて招き入れてくれるけど、表情固いなあ。

 背中を向ける花奈さんを後ろから抱き締めてみる。


「花奈さん。言葉は軽いから意味が無い。だから行動で」


 そのままベッドまで進み押し倒すと「荒っぽいですね」って。でも、そうしないと嫉妬心をかき消せないだろう。

 仰向けにして唇を重ね合わせると、その後はいや、これ、マジで激しすぎた。

 昼間からの情事は妙な高ぶりもあるんだなあ。完全に出涸らし状態だ。微塵も反応しないぞ、今は。


「直輝さんの気持ちは受け取りました」

「俺もあいつらと少し距離を取るから」

「その必要は無いですよ」

「でも、花奈さんが辛そうだから」


 花奈さんが覆い被さってきて「葉月お嬢様とは今まで通りで」とか言ってる。恋人役もまた仕事なのだから、そこはきちんと対応した方がいいと。急に態度を変えると葉月の場合、暴走しかねないからだそうだ。


「今は傍から見ていい雰囲気です。壊す必要はありません」


 葉月なら嫉妬もしなくて済むそうだ。雇用主だからと。

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