Epi74 お嬢様には少々きつい

 現地に到着したが、ケーブルカー駅周辺の駐車場はすでに満車。

 已む無く少し戻り数台の空きがある駐車場へ。


「結構な人出だな」

「行楽に最適な時期ですよね」

「これだとアオカンしにくい」

「しないんだよ」


 さすがに人目が多過ぎるとか、わけのわからんこと言ってる。


「すぐ通報されるぞ」

「だから、もう少し少なければ」

「アホか。少なくても多くても結果は一緒だ」

「青空の下で飛び散る精液。最高なのに」


 どいつもこいつも頭が固すぎる、じゃねえ。飛び散らせて堪るか。

 少し歩くとケーブルカーの麓駅、滝本駅に着くが、やっぱ混雑が激しい。切符を買うがお嬢連中に任せると、いつまで経っても乗れないだろう。と言うことで俺が人数分の切符を買って各々手渡しておく。


「慣れてる」

「慣れじゃねえ。普通だ」

「切符くらい買えるんですけど」

「変態メガネはそんな感じだな」


 このメンツでは一番平民感覚がありそうだ。

 列の最後尾に並び乗車まで暫し。二列になってるが、俺の隣には美桜ちゃんが居る。珍しく葉月が譲ったみたいだけど。たぶん誕生祝いなんだろう。

 葉月のようにがっつり手を繋ぐ感じじゃなく、指先が軽く絡む感じの繋ぎ方。この辺も控えめでお嬢様らしい。

 がっつく葉月とは大違いだ。


「あの、今日はなんででしょう?」

「なにが?」

「その、こうして隣に居られるのは」

「ああ、それ」


 今日が何の日か、と言ったら「私の?」と。頷くとはにかむ笑顔が愛らしい。

 列が少しずつ消化され、ようやく乗り込み座席に座るが、狭い。美桜ちゃんと並んで座るとやっぱ嬉しそうな。葉月は、と思ってみると少し仏頂面だ。本来は自分が、とか思ってるんだろう。それでも誕生日のお祝いもあって、泣く泣くってところか。

 愛されてるって部分は、悪く無いんだけどな。変態を控えれば。


 御岳山駅に着くと、ここからは武蔵御嶽神社目指して歩きだ。


「かなり紅葉してる」

「きれいです」

「リフトに乗ると展望台あるみたいですよ」


 御岳平と名のついた場所で土産物店を見たり、景色を眺めたり。丁度この時期は天空もみじ祭りなるものが開催中だ。


「展望台に行きたいのか?」

「特には。ここからの眺めもいいですし」


 なんじゃそれ。言ってみただけだと。変態メガネにとってのベストスポット、ではなさそうだ。

 とりあえず御岳平で記念写真を一枚。俺が構えて三人が写ってる奴。あと、葉月が声を掛けて四人で写ってる奴。手頃そうな奴を引っ掛けて頼んでたし、その辺は物怖じしない性格みたいだな。

 写真を撮るとこの場をあとにし、神社目指して歩き始めると、葉月がなにやら言い出した。


「あ、そうだ。サイト見たんだけど、この少し先に産安社うぶやすしゃってあるみたい」

「ああ、そう言えばあったかも」

「行こうよ」


 なんでも良縁だの夫婦円満だの子授けだの、ご利益があるとか無いとか。


「子授け檜とか安産檜があるから、行っておきたい」

「もうひとつなかったか?」

「良縁は叶ってるよ」


 俺と巡り逢えたから、ひとつは達成済みだそうだ。俺も達成してるよな。花奈さんと。まあ、葉月と俺の思う相手が違うけど。

 寄り道して向かうと、寂れた感じの神社があって、そこから少し歩くと檜がある。


「あ、これ。子授け檜。二股になってるのが女性。その中を貫いてるのがチ〇コなんだって。あと幹にあるコブが授かりものだって」

「あのなあ。和合の印、と子宝じゃないのか?」

「そうとも言う。でも、見た目はそれじゃん」


 こいつの頭の中は常にエロいことしかないな。

 俺との子を授かれるよう、コブを擦りながら何やらぶつぶつ、気合入ってやがる。美桜ちゃんや変態メガネは、と言えば同じように擦ってるし。相手が誰かなんて考えたくも無いけど。


 お参りを済ませ移動をする。

 御嶽神社までは舗装された道路を歩くだけ。実にらくちんだ。もう少し山歩き風かと思ったが。

 多くの人も同じ方向へ進み、また降りてくる人とも多数すれ違う。

 二十分も歩くと商店街と言うか、土産物店や飲食店が並ぶ場所に。


「どこか見てみるか?」

「要らない」

「特には」

「神社に行きましょう」


 興味は無いらしい。まあ、お嬢連中にとっては興味を引くものは無いだろう。素朴な民芸品とかも興味無いのかもしれん。

 さっさと先へ進むと正面に階段と鳥居があり、その左側に手水社がある。

 手水社で清め階段を上がると随身門ずいじんもんがある。随身とは、刀や弓を持った警護のための官人。その姿をした守護神像を安置してるそうだ。随神門と記載されたものも多いみたいだが、正しくは随身みたいだな。


 参道を歩く、のだが、これ神社までひたすら階段。


「まだ?」

「長いです」

「何段あるんでしょう」


 少し疲れ気味のお嬢たちが居る。多少の疲れはあるが、この程度ならそれほど苦労はしない。美桜ちゃんの手を引いて上るが、もう片側の手を掴む葉月だ。少し辛そうだからふたりを引っ張るように上る。変態メガネはふたりより体力あるのか、と思ったが、しんどそうだった。でも手はふたつしか無いからな。諦めてくれ。

 せっせと上り切るとやっと神社だ。

 三人とも草臥れてんなあ。


「うふふたん、葉月たん。私も直輝たんの手が欲しかった」

「早い者勝ち」

「あ、ごめんなさい。少し譲れば良かったですね」


 葉月は譲る気なし。美桜ちゃんは言われて気付いたか。


 お参りをして、移動、と思ったら本殿脇にあるベンチに座る三人だ。若さが足りんぞ。


「昼飯だけどな」

「休憩中……」

「長尾平に茶屋がある。テーブルがあるから飯はそこで」

「もう少し待って」


 動けんようだ。日ごろの運動不足もあるんだろうなあ。こっちは貧乏暮らしが長くて、移動も徒歩が主体だった。電車賃やバス代の節約のために、ひたすら歩くことも多かったしな。基礎体力に雲泥の差がありそうだ。


 二十分ほど動かなかったが、腹が減ったんだろう。三人とも立ち上がり移動を始めた。山頂標識から十分ほどで長尾平にある茶屋に。

 ベンチを見付けると速攻腰掛ける三人だし。

 リュックからサンドイッチとドリンクを出して、三人に渡し昼飯になった。

 そう言えば口数、ほとんど無いし。喋るのも億劫になったんだろう。葉月の変態会話も無いから、俺の精神が削られることもない。


 飯を食い終わり景色を眺める。

 変態メガネはスケッチブックを取り出し、テーブルに突っ伏すふたりを描いてるな。写真も撮っておこう。

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