Epi73 紅葉と誕生日祝いの週末

 十一月になると風も冷たくなり、冬の足音が聞こえてくる。

 部屋の中が寒いわけではないが。以前住んでいたボロアパートのような、風が吹き抜け底冷えする建物とは違う。夏に比べれば寒さを感じるには感じるが。

 そんな季節なのに、相変わらず俺の前では服を着ようとしない葉月だ。


「この前、風邪ひいただろ。いい加減服を着ろ」

「直輝を迎え入れたいんだって」


 と言いながら広げるな。

 この光景もすでに何度も見ている。見ているのに慣れることは無いし、視線が吸い寄せられるし、つい見てしまい股間が元気になる。

 やりてえ、って思っちゃ駄目なんだけど、見せつけられるとなあ。


「そう言えば美桜ちゃんの誕生日が近いよな」

「誕生パーティーなら、うふふちゃんの家族がやるでしょ」

「葉月は祝ってやらないのか?」

「直輝が祝いたいんでしょ。ラブホで一発やれば喜ぶよ」


 ついでに一緒にやりたい、と抜かす葉月だ。

 ねえんだよ。


「如何わしいことは抜きで、なんか祝ってやりたいと思うけどな」

「如何わしくないっての。みんなしてることじゃん」

「人は人。ご令嬢らしい祝い方があるだろ」

「うふふちゃんの希望だってば。叶えてあげればいいじゃん」


 希望は叶えてあげたいし頂けるなら頂きたい。だが、それじゃあただの下衆野郎だろ。あっちもこっちも手を出すなんて、普通は無いんだから。

 俺にはすでに花奈さん居るし。葉月も無いんだからな。


「あ、そうだ。ピクニックとかどうだ?」

「アオカンするの?」

「ちげえよ。弁当持参で紅葉を見に行くとか」

「ふたりきりで行くの? 盛り上がらないでしょ」


 そこはあれだ、葉月も一緒の方がいいとは思う。俺だけだと話題に詰まって、退屈なピクニックになるだろうし。


「葉月も行くか」

「じゃあ、かおりんも」

「あの変態メガネか。まあいいや。その方が盛り上がりそうだし」

「四人でアオカンかあ」


 アホか。アオカンから離れろっての。


「じゃあ、伝えておくね」


 週末に紅葉を見に行き、誕生日のお祝いをするとなった。

 行き先は俺に任されたが、さて、行楽の経験が無い俺だ。どこのスポットが喜ばれるのかさっぱりだ。紅葉狩りの経験も無ければ、女子を連れてのピクニックも経験が無い。無い無い尽くしの俺に楽しませるプランを組めるのか。いささか不安はあるが、とりあえず片道二時間以内の場所で探すことに。


 紅葉、なんて軽く考えていたが、季節的に二十三区内は十一月初旬では、まだ色付きも浅かったり色付かなかったり。市部でも十一月中旬がほとんど。

 山間部なら十月下旬から楽しめる場所がある。

 だが、それだとハイキング。体力的にお嬢様にはきついかと、そう思うが葉月は大丈夫だろう。

 葉月に提案すると。


「どこ?」

「御岳山」

「……どこ?」

「青梅市」


 少々の登山、と言っても重装備は不要で軽いトレッキングレベル。

 葉月はそれなりに体力があるから問題無い、だろう。美桜ちゃんや変態メガネはどうなのか。


「たぶん大丈夫。いくらお嬢でも山歩きくらいできるって」

「じゃあ、御岳山でいいか?」

「景色いいんだよね?」

「山だからな。しっかり色付いて眺望もいいだろうよ」


 ケーブルカーもあるから、山頂までは苦労しなくても行ける。ケーブルカー駅の手前に駐車場があるから、そこまでは車で行けばいいわけで。


「ヘリで行くの?」

「アホか。どこに置くんだよ、そんなもん。ってかヘリもあるのか?」

「あるけど。じゃあ車でいい」


 陸海空、なんでもあるんだな。行けないのは宇宙くらいか。

 当日は笹塚駅にふたりには来てもらう。直接迎えに行くと時間の無駄ってのもあるからな。

 帰りは直接自宅まで送って行ってもいいが。


 そして当日。

 美桜ちゃんには誕生祝いとは伝えていない。山に紅葉を見に行こうとだけ。日帰りで丸一日掛かるとは伝えてあるそうだ。


「葉月行くぞ」


 重ね着で少しモコモコの葉月が居る。インナーにTシャツ、その上にタータンチェックのロングスリーブシャツ。さらにアウターでフリースのジャケット。ついでにリュックの中にはレインパーカーやタオルも押し込んでおいた。

 下はチノパンにトレッキングシューズを。頭にはもちろん帽子でブリマーハット。

 まあ、秋のトレッキングならこれで完璧だろう。

 リュックには他に昼飯やドリンクも入れてある。ケガをした時のために絆創膏や消毒液も。


「大袈裟」

「いいんだよ。万が一を想定しておけば、いざという時に困らない」


 ジャケットは車の中では着なくてもいい。現地で着込めばいいのだから。

 さて、車だが。

 事前に車種を改めて確認してみると、ベンツ以外のSUVが。レクサスLXだけど、これでいい。広い車内なら長時間のドライブも楽だし。安全性能も高いし。

 旦那様に事前に申請しておいたから、ガレージから引っ張り出し葉月を乗せて、まずは笹塚駅まで。


 駅前に着くとふたりとも待ってたみたいだ。

 ちゃんと言われた通りに山歩きの格好もしてる。それを見た葉月は大袈裟、とか言ってるけど、こっちはお嬢様を預かる身だ。万全を期しておくべき。


「おはようございます。葉月ちゃん。向後さん」

「山登りとか。山頂でスケッチできますよね」


 後席にふたりを乗せて、ここからおよそ一時間半のドライブに。

 ナビに頼りっきりだと情けないから、事前にルートを頭に叩き込んでおいた。


「あの、紅葉って、もう色付いてますか?」

「わりと見頃になってるらしいよ」

「紅葉の下の裸体画とかいいんですよねえ」

「無いからな」


 そのままアオカンに至りかねない。葉月が黙ってるわけ無いからな。

 週末ということもあり首都高は混雑気味だ。八王子ジャンクションまでは結構な交通量みたいだし。高速を降りたあとの四六八号線はそれほど混んでないと思いたい。

 流れに任せそこそこ順調に進む。

 お嬢連中はわいわい楽しそうに会話してるが。


「直輝がちっとも入れてくんない」

「私も、その向後さんの、ち、こ、欲しいです」

「いじると楽しいから、もっと触りたいんですけどねえ」


 下ネタばっかだ。


「山頂で絶頂とか」

「それ、私も経験してみたいです」

「絶景でってのがポイントですね」


 アホしか居ねえ。って言うか変態トリオの完成形だ。


「直輝たんとうふふたん、直輝たんと葉月たんの繋がった奴とか、ぜひとも描きたいんですけど」

「どアップがいい」

「いいですねえ。世界の起源を想起させますよ」

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