Epi72 鬼の霍乱か当然なのか

「葉月。顔色悪いな」

「なんか怠い」

「熱計ってみるか」


 目覚めると具合の悪そうな葉月が居た。

 いつもの快活さは無く少しぐったりしてそうな。これって鬼の霍乱とか。

 いや、そもそも年中裸で過ごしてりゃ、風邪もひくだろうよ。いい加減寒くなってきてるんだから、服くらい着て過ごせばいいものを。


 体温計を宛がい暫し。


「三十八度……学校は休みだな。奥様と旦那様に言っとくから」

「ねえ」

「なんだ?」

「チ〇コ咥えたら元気になれる」


 ならねえんだよ。風邪ひいて熱出して尚も股間を欲するか。


「喉乾いた」

「白湯でいいのか? それとも」

「精子。直輝の」

「アホか。なんか適当に持って来るから大人しく寝てろ」


 とりあえず報告と飲むもの、それに食事も簡単な奴でも用意した方がいいか。

 薬は無くてもいいと思うが、過保護に育って……ケモノだし過保護な感じはないな。一応聞いてみるか。


 旦那様と奥様に報告すると「鬼の霍乱だ」とか言ってるし。娘がしんどそうなのに、ずいぶんと呑気な感じがする。でもあれか、金持ちだから過保護、ってわけじゃないんだな。それでも一応かかりつけ医を呼ぶとは言ってた。

 花奈さんが医者の手配と学校に連絡しておくとなり、諸岡さんが薬膳を用意するらしい。お抱えシェフよりもそっちの知識はある、と豪語する諸岡さんだ。やっぱあれか、年の功って奴。


「薬は症状を和らげますが、治療するものではありません。体力を回復させれば風邪は勝手に治癒しますからね」


 喉が渇いてる、と伝えると、ただの水は吸収が悪いとかでポカリを渡された。


「食事ができましたら連絡しますので、取りに来てください」

「はい」

「あと、向後さんもうつされないように」

「大丈夫だと思います。貧乏暮らしで耐性あるので」


 油断大敵だとは言ってるけど貧しい食生活と、くっそ寒い部屋で四回冬を越してる。それでも風邪はひかなかったんだから。


 葉月の部屋に行きポカリを渡すと、ぐびぐび飲んでるし。意外と元気なんじゃね?


「直輝」

「なんだ?」

「寒くなったから温めて欲しい」


 裸で抱き合いたいとか抜かす。


「却下。俺に風邪がうつる」

「じゃあ、直輝の手で全身隈なく」

「アホか。変に興奮すると悪化するぞ」

「治るんだってば」


 スマホが振動し飯ができたと連絡が入った。


「飯持って来るからな」

「直輝」

「なんだ?」

「優しい」


 優しいもなにも、病人相手だからなあ。少しは気遣いもするっての。

 部屋をあとにし厨房へ行くと、トレーに載せられた薬膳とやらがある。食べさせてあげればいいとか言ってる。いや、そこまで弱ってないし。熱があっても口だけは達者だし。


「口移しはしないように。風邪がうつりますからね」

「しないですって」


 考えもしなかったぞ。冗談だと思うが諸岡さんも、そんなこと言うんだな。

 食事を持って行くと理解した。


「食べさせて。口移しがいい」

「あのな。それ諸岡さんに言われたぞ。やるなよって」


 葉月の行動を読んでの発言か。よく理解してるなあ。伊達に幼少期から面倒見てきたわけじゃないな。葉月の行動なんて手に取るようにわかるんだろう。

 口移しではなく体を起こして、食事を少しずつ食べさせる。

 もそもそ食ってるが「不味い」とか言ってるし。薬膳とか言ってたから、体にはいいんだろうけど、味はきっと薬を食ってる感覚なんだろう。


 食事が終わり暫くすると医者が来て、診察を済ませると「流行性感冒でしょう」だそうだ。一応インフルとか他の病気も疑うが、それらは無いだろうってことで。

 診察の最中、退室した方がいいのかと思ったら、葉月が立ち会っていろと。まあ、今さらだし。医者も気を使ってるのか、聴診器を当てる際に服を捲りあげず、服の裾から聴診器を入れてたな。

 葉月なら遠慮なく裸にひん剥いても、文句も言わず曝け出しそうだけど。


 医者は旦那様に報告しておく、と言って退室。


「聴診器、冷っとするんだよね」

「最初だけだろ」

「直輝の手で温めて欲しいな」


 手を当てるくらいならいいか。葉月のパジャマの中へ手を入れ、そっと宛がうと、だから揉ませるな。興奮して熱が上がるだろ。


「こら」

「少し」

「ダメ」

「ケチ」


 病気になっても性欲の旺盛さに変化が無いとは。おそるべし変態だ。

 その後、大人しく寝たようで、静けさが満ちた状態になる。同時に暇にもなるのだが。

 部屋の掃除は起こしてしまうからできないし、ああそうだ、洗濯だけでもしておこう。葉月が脱ぎ散らかした服や下着を抱え、ランドリールームへ持って行く。


 でだ、居るんだよな、倉岡。


「おはようございます向後さん。お嬢様、風邪ひいたんですか?」

「そうみたいだ」

「今は寝ているのですか?」

「寝てるから、その間に洗濯」


 なあ、科作って傍に寄らないで欲しいんだが。

 先日はつい手を出したけど、もう無いからな。変に期待しても無駄だぞ。


「無いからな」

「少しだけ」

「だから無いんだってば」

「先っぽだけでも」


 それは男のセリフだ。女性が口にするなっての。なんでこの屋敷の女性は揃いも揃って変態なんだよ。

 暫し抗っていたが、結局、お触りコースになってしまった。


「今日はお嬢様のお相手は無いですよね」

「無いけど、たまには休息が必要だ」

「お嬢様は充分休息できると思います」

「じゃねえ。俺の休息だ」


 股間の休まる遑もねえ。だから白髪になるんだよ。実年齢より股間だけが先に老化してやがる。あと五年もしたら役立たなくなったり。打ち止めとか。それは嫌だぞ。まだあと四十年は男として楽しみたい。

 洗濯を終えて倉岡を引き剥がし、葉月の部屋に戻った。


「次はぜひ繋がりましょうね」

「無いからな」


 やる気満々じゃねえか。


 部屋に入ると静かに眠る葉月が居る。そうしていると愛らしいんだがなあ。少し赤みの指す頬は丸みを帯びて張りがある。触ると柔いんだけどな。

 額に薄っすら汗を掻いてるようだ。あ、そうだ。

 厨房へ行き氷を調達し、パウダールームで氷水にしてタオルを浸し、それを葉月の額に載せておく。少しは楽になるだろう。


 昼過ぎに目覚めたようで「お腹空いた」とか言ってるし。


「直輝が食べたい」

「俺は食いもんじゃねえ」

「精子があるじゃん」

「食い物でも飲み物でもねえ」


 少し趣向を凝らした薬膳を食べさせると「熱い」とか言い出すし。


「汗」

「拭き取れってか」


 全身、それこそ隈なく拭き取らされた。

 ご満悦な葉月だな。

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