Epi71 天高く馬肥ゆる秋とか

 先日の提言と言うか俺の愚痴は、旦那様の手により適切なものにされ、若者からの提言として提出されたそうだ。その際に雇用と賃金は、若い世代が安心して生活を営む上でも必須だと、強く言ったらしい。

 これまで与党は企業の言い分や、高齢者の言い分だけ聞いてきた。若者に関しては手つかずに等しく、結果、少子化に歯止めは掛からず、衰退の兆しが見えてやっと、重い腰を上げるだろうと。


「これからは企業も少し痛みを負担しないとな」


 だそうだ。

 将来を背負って立つ若者を無視した政策で、どうして日本の繁栄があるのか。


「他に何かあるんじゃないのかな?」


 リビングに呼び出され質問された。

 その時に大学でバイト三昧を思い出す。金が無くて学業どころじゃなかった。


「教育でしょうか。そこで格差があると結局、就職すらままならないので」

「それも課題のひとつだね。日本が学歴社会である以上、落ち零れた瞬間、就職先も限られてしまう」


 それを自己責任で片付けてきたのが今。貧乏な家庭に生まれた人と、金持ちの家庭に生まれた人が、同じスタートラインに居るわけが無い。貧乏人は何倍も努力が必要だ。

 努力不足だの自己責任で片付けていい問題じゃない。あまりにも社会が無責任になりすぎている。


「また機会があったら提言してみるよ」


 話が終わると葉月の部屋に行く。


 でだ、そろそろ寒くなる頃だと言うのに、葉月は相変わらずまっぱだ。

 ベッドの上でごろごろしながら、だから大股開くなっての。


「寒くないのか?」

「直輝を見ると火照るから」


 変態だ。筋金入りの。


「そうか、ひとりで何とかしてくれ」

「直輝の手で舌で、チ〇コで温めて欲しいな」

「ねえぞ」


 寝そべる葉月が誘ってくるが、俺はこれからも勉強をして、知識と教養を身に着ける。現状、俺は無力すぎる。旦那様に頼って、葉月に頼って、花奈さんにおんぶにだっこだ。これでよくも成人してるとか言えるよな。

 だから勉強して実績を積み上げる。今さらだけど遅すぎるとは思わない。


「勉強するから」

「また?」

「大人になるためだ」

「チ〇コは大人じゃん。白髪チ〇コだからジジイ?」


 そこじゃねえ。白髪は葉月のせいだ。


「葉月も勉強しろ。受験するんだろ」

「そのつもりだけど、直輝が教えてくれない」

「俺に無理難題吹っかけるな。三流大学だって言ったぞ」

「一流と三流ってそんなに違うの?」


 違いすぎる。東大とか、脳みその構造が違うんじゃ、とか思うほどに。

 家庭教師が務まるわけもない。


「雇えばいいだろ」

「直輝じゃないからやる気出ない」

「自分のためだろ」

「なんかねえ。直輝がいい」


 依存しすぎだっての。しかも股間に。


 少し本格的に向き合うと、多少は知識も増える。増えても生かすに至らないが。

 葉月も渋々勉強してるが、時折質問されても答えられない俺が居る。


「直輝」

「なんだよ」

「高校からやり直す?」

「そうしたいのは山々だけどな」


 とうとう見下された。


「葉月から見てもバカだと思えるか。ついに見下されたな」

「違うってば。学校の勉強できてもバカはいっぱい居る」


 前に言ったはずだと。勉強だけできるバカは要らないと。そんなので人の価値なんて測れないそうだ。


「見下してない。直輝にそう思われると胸が痛い」


 胸元に手を当て俯き悲しげな表情になってるし。本気で見下してるなら、とっくにこの家から追い出してるだろう。今もこうやって傍に居られる、ってことは微塵もそうは思って無いんだろうから。


「あたしにはわからないこと、いっぱい知ってる。政治とか経済のことも。バカならそんなことも話題にできないし、関心も無いでしょ」


 だから、尊敬する部分もあるんだそうだ。知ってるんじゃなくて愚痴。ひたすら落ちぶれた自分がみじめにならないよう、虚勢を張って愚痴を零してるだけなんだが。

 それを良い方向へ捉えるとは。

 まあ、葉月を悲しませたいわけじゃないし。


「本気で言ってると思って無いから安心していいぞ」


 だから抱き着くなって。

 でも、葉月に抱き着かれると心地良さがあるからなあ。全裸だし。


「服着ないのか?」

「着るなら出掛けたい」

「どこ?」

「どこでもいい」


 アオカンしてみたい、じゃねえよ。この腐れた変態性癖が無ければ、パーフェクトなお嬢なのに。実に残念だ。

 出掛ける準備をと言うと、着せろとなるし。

 仕方なくブラをして、その感触を思いっきり楽しみ、パンツを穿かせて、ブラウスを着せてスカートを履かせソックスまで。上着はポンチョコート。


「どこ行くか」

「ラブホ」

「行かねえからな」

「つまんない」


 いい加減抱いて貫いてくれても、とか言ってるが、最低限卒業まではお預けだ。

 葉月と一緒にドライブデートになった。


「そうだ。ドライブついでに旧古河庭園とかどうだ?」

「行ったことある」

「じゃあ違うところにするか」

「そこでいい」


 日本庭園だけじゃなく薔薇の庭園があるし、ドラマのロケ地にもなってるし。俺は行ったこと無いけどな。

 ということで、BRZに乗り軽くひとっ走り。首都高環状線を使えば二十五分も掛かるまい。


「直輝」

「なんだ」

「あたしのこと、好きじゃない?」

「少しだけ好きかも」


 だからかとか言ってる。入れろと言っても入れてくれない。


「もっと好きになってもらうのに、何が足りないのかなあ」

「変態を治せば」

「変態じゃない。直輝を好きすぎるから」


 まあそう言うよな。自覚無き変態だから。でも、マジ惜しいんだよ。可愛らしさは溢れてる。体もこれ以上ないくらい欲しくなる。でも、変態であることが邪魔をしてる。花奈さんとはまた違う魅力溢れる存在なのに。


 旧古河庭園に着くとバラの庭園を見て回り、日本庭園も見るが、ずっと腕はしっかり組んで手も繋がったまま。


「喉乾かないか?」

「直輝の精子でいいよ」

「だから、それが変態だっての」

「好きだから飲める」


 そうだろうけどさあ。普通はジュースとか、可愛らしく言うもんじゃないのか?

 なんか普通と違うんだよ。それとも俺の思う普通が違うのか?

 葉月を見てたら、なんかあれだ、キスしたくなった。


 ひと目の無い場所を通り掛る時に、そっと抱き寄せてキスすると。

 一瞬目を丸くするも、とびっきりの笑顔になるし。その笑顔は本気で可愛いと思う。嬉しそうで足取り軽いな、おい。


「もっと」

「無いぞ」

「入れていいよ」

「それはない」


 惜しい。そこだけなんとかして欲しい。

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