Epi64 変態だが実力は確か

 午前と午後でそれぞれ。

 葉月と繋がる絵は却下。当たり前だが、そんなもの飾ることもできん。

 午前中に俺をモデルにしての素描とか言ってた。


「油彩画を描く前に素描を何点か描いておきたいです」

「なんだそれ?」

「デッサンとも言います。下絵や練習とかですね」


 朝食後に葉月の部屋で丸出しにされるが、それまでの変態の表情から一転、まじめに向き合う姿勢が見える。変態が鳴りを潜めそこには、真剣な目付きで木炭を手にする少女が居た。

 ちなみに丸出しだったが、腰に布を巻き付け大事な部分は隠してる。つぶさに観察していじってとか、アホなことを言っていたが、実際に描くのは違うようだ。


「直輝たん。椅子に腰かけてください」

「普通にか?」

「背もたれに腕を。顔は正面を向かず少し斜めに、アンニュイな雰囲気を」

「アンニュイって……」


 よくわからない注文を受けるが、都度説明され納得いったのか、スケッチブックに木炭を走らせている。

 葉月と美桜ちゃんが見てるんだよな。美桜ちゃんは変態メガネ同様、かなり真剣な表情をしてる。葉月は、まあ獲物を狙うケダモノの目だな、あれは。


 窓のカーテンは半分以上閉めて、薄暗い室内に。灯りはフロアスタンドの傘を斜めに、俺に光源が集中する感じになってる。

 なんとなくだが、描きたいものの姿が想像できた。ルネサンス期の絵画を意識してるんだろう。あの当時は灯りと言っても自然光か、暗くなると効率の悪い蝋燭や、オイルランプなんかの光源しか無かった。だから室内は全体的に暗い絵が多い。背景なんて真っ黒が当たり前の時代だ。見えないんだからな。

 俺がいくら無教養と言っても、その程度の知識はあるぞ。


「直輝たん。動かないでください」

「少し休憩したい」

「あ、そうでした。じゃあ少し休憩します」


 同じ姿勢を長時間は無理だ。ケツも痛いし腕も痺れてくるし。立ち上がり少しストレッチ、と思ったら丸出し。

 歓喜する葉月とさっきまでのまじめさから、一気に変態モードに突入した変態メガネだ。傍まで近寄ってきて、おい、だから握るな。こいつら。

 休憩が終わると再びまじめモードなようだ。しっかり握られて反応したけど、落ち着くのを見計らって描き出す。


「腰布、邪魔な感じ」

「モロはいろいろ煩いので」

「日本は性器に制限設けすぎ」

「芸術をエロい目で見る人が居るからですね」


 どこまでが芸術で、どこからがエロか、なんてのは見る人による。エロい目で見ればどんな芸術もエロにしかならない。警察も政治家も口煩いノイジーマイノリティも、根っこの部分がスケベすぎるだけだとか。

 わからなくもない。過去に物議を醸した絵や彫刻もあったみたいだし。


「一番はノイジーマイノリティ。自分以外認めない頭の変な連中です」

「誰もが当たり前にすることなのにね」

「何かと問題だと喚くことで、存在感を示したいだけの自己顕示欲の塊」

「自分が不快か否かで好き勝手言ってるし」


 それもわかる。客観性の担保無しに主観だけで文句を言って、自分たちの主張こそが絶対、異論反論は一切認めない。話し合いにもならない。確かに異常だ。

 結局、面倒ごとを避ける企業や個人で、それが通るからますます図に乗る。いずれなんも表現できなくなるぞ。自称リベラルとか言う連中の大半は、独善的な独裁者ばかりだ。

 日本ではリベラルと保守が入れ替わってる。保守の方が先進的で自由なんだからな。ちなみに日本の場合は、リベラルも保守も多様性は皆無だな。


 素描ができたみたいで「見てみますか?」と言ってる。見てみると、いやはや、なんかすごい。繊細な線で描かれる俺の姿。光と影の対比が、力強く浮かび上がらせてくるし。


「すごいなあ」

「まだ足りないんです。もっと内面を描けないと通用しないんです」

「俺にはわからんが、単純にすごいと思う」

「またお願いできますか?」


 これだけ描けるなら、断る理由も無いよなあ。俺の目から見りゃ本物だ。葉月がどう見るかは知らんが。


「いいよ」

「じゃあ、またお願いします」

「さすが、校内トップの絵かきだよね」

「そうでもないですけど」


 葉月に言われて謙遜してるのか。それにしても校内でトップね。美術系の高校じゃないにしてもトップはすごいな。俺も何かで目指せば、きっと背中の丸みも無くなるんだろう。花奈さんの言う通り。


 昼食を挟み、少し食休みをすると今度は葉月と美桜ちゃんがモデルに。

 当然だがヌードなんだよな。しかも、あられもない姿で抱き合ってるし。これ、絵で見るのと違って雰囲気がヤバすぎる。思いっきりエロい。

 ベッドの上で互いに抱き合う少女たち。年齢的に美桜ちゃんはアウトだろ。一応十八歳未満のヌードは論外だし。

 なんて思ってたら。


「うふふたん。葉月たんの乳首吸って」

「はい」

「葉月たんは、うふふたんの股間をまさぐる感じで」

「おい」


 思わず口を挟んでしまった。


「エロ過ぎだろ」

「とりあえず頭の中にあるイメージを纏めたいだけです。いろいろ試してみて決めるんで」


 その状態を描くわけじゃ無いらしい。何を考えてるのか、さっぱりわからんが。表情がまじめになってるから、おかしなことにはならないんだろう。門外漢は黙ってるに限るか。

 それにしても実に扇情的だ。これでふたりに誘われたら、ずるずる流される。

 細かい注文を繰り返し納得すると、描き出す変態メガネだ。いや、そろそろ変態メガネはあれか。でも本人はそれでいいと言ってるし。


 途中休憩を挟み、その度に俺に迫る変態トリオ。ついには変態メガネもまっぱだし。その砲弾は見事だけどな。年齢を経なければきっとすごいぞ。そのまま型に取って石膏像にしておくとか。

 愛でて良しって奴か。


 三時にも一旦休憩をするが、その際にはティーセットを用意しておく。執事として今日の初仕事かもしれん。最近すっかり執事らしくなくなった。ただの葉月の彼氏だろ、これじゃ。


 素描が完成すると。


「エロい」

「なまめかしいですね」

「油彩にしたら買い取る」


 どうやら葉月が買い取りを約束したようだ。もちろん俺のもだ。


「そう言えば応接室の前室にある絵」

「ああ、あれはどっかの絵かきに描いてもらったの」

「来客が目にするのに、恥ずかしくないのか?」

「なんで? 芸術なのに?」


 凡人にはただのエロい絵にしか見えん。旦那様も大旦那様もエロい視線で見てるぞ。間違いなくな。

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