Epi65 教養を高めるに必要なこと

 夕方になり二人を帰す。

 変態メガネの実力は理解した。なるほど、変態だからこそ芸術を極める、ってのも無くは無いのかと。

 まあ、今後もモデルの協力依頼があれば、引き受けてもいいと思える、それほどに見事だったし。才能あるんだな。翻って俺にはなんもねえ。見事にスカだ。


「直輝たん。次は繋がりましょう」

「無いからな」

「年齢はクリアしてます。あとは直輝たん次第です」

「だから、無いんだってば」


 俺には花奈さんが居る。他は要らん。体は惜しいと思うけど、不義理はできんからな。

 あっちもこっちもなんて、変態カルテットになる気も無いし。

 車の後席に変態メガネと美桜ちゃん。ナビシートになぜか葉月が座ってる。


「見送りか?」

「直輝が送り狼にならないように見張る」

「ならねえっての」

「だって、かおりん魅力あるでしょ?」


 砲弾に魅力はあるが、それ以外は興味無い。失礼な奴かもしれんけど。


「うふふちゃん、好きでしょ」

「まあ、それは少しあるけど」

「ホテルに連れ込んだり」

「ねえんだよ。そんな不埒な真似できるか」


 ルームミラー越しに美桜ちゃんを見ると、期待するような目つき。もしかして望んでるとか? けど、さすがにそれは駄目。節操無しになる気はない。

 葉月とだって繋がる気はない。日本屈指のご令嬢を、傷物にできるわけ無いんだからな。葉月にはいずれ相応しい奴が現れる。美桜ちゃんも同様。変態メガネは、まあ同好の士も居ることだろう。その時は目いっぱい変態プレイを楽しむといい。


 駅前で降ろすと「今度はうちに来てください」と言う変態メガネだ。一応お嬢だから生活水準も高いんだろうな。美桜ちゃんもすかさず「次回ご招待します」とか言ってる。競ってんなあ。

 あれか、こっちに来てもらうより、自宅に訪問した方が危険は少ないかも。親の前でセックスしたい、なんて抜かすのはさすがに葉月くらいだろう。


 ふたりを見送り車でまた屋敷に戻る。


「直輝」

「なんだ?」

「昨日は寂しかった」

「朝、横に居たじゃねーか」


 それはそれ、これはこれとか言ってやがる。今夜は吸い尽すんだとかほざきやがって。その溢れ返る性欲を今の十分の一に抑えろ。そうすれば淑女らしくなれる。

 現状ただの色欲魔だ。


 だが、そんな俺の思いなんて通じるはずも無く。

 ひたすらベッドの上で変態を晒す変態が居る。


「直輝! 繋がろうよ」

「駄目」

「じゃあ、こっち掘っていい」

「やらん」


 後ろも前も駄目なのか! とか文句言ってやがる。

 結果、マジで吸い尽された。干物になる日も近いぞ。


 翌日。


「今日は休ませろ」

「やだ」

「休肝日ならぬ休棒日は必要だ」

「上手いこと言わなくても」


 ひとつ、目的がある。


「花奈さんとギャラリー巡りをしたい」

「あたしでいいじゃん」

「葉月は受験生だからな。休日もしっかり勉強した方がいい」

「勉強嫌い。直輝が居ないならサボる」


 アホかっての。自分のためじゃねえか。それに、将来俺と本気で結婚する気なら、曽我部を支える存在になる必要があるだろ。前に自分で言ったのにもう忘れたのか?

 と言ってみると、泣きそうな顔で「だって、直輝が傍に居ないとつまんないもん」じゃねえよ。四六時中一緒じゃねえか。たまには離れた方が、互いに新鮮でいいぞ、と言ったら。


「じゃあ、新鮮なチ〇コ吸い放題」

「アホ」

「出し入れし放題」

「ねえぞ」


 絡み付く葉月を引き剥がし旦那様と奥様に、休暇と言うことで申請しておいた。

 さすがに有休も取れない状態になっていて、葉月を引き留めてくれたのもある。お陰で当初の目的通り花奈さんと、ギャラリー巡りができそうだ。

 花奈さんの部屋に行くと、少し驚いていたが快諾してくれた。


「教養、ですか」

「俺には全くない」

「そうは思いませんが、身に着けておいた方がいいのは確かですね」


 軽く調べて今開催中の企画展や、個人ギャラリーなどを訪れることに。


「メジャーな画家の作品を展示する企画展であれば、初心者でもわかりやすいでしょう。個人ギャラリーはケースバイケースですし」


 花奈さん駆るGRハチロクに乗り上野公園へ。やっぱ運転が上手い。俺とは段ちだ。


「上野公園には国立西洋美術館、東京都美術館、上野の森美術館、東京芸大美術館があります。他に国立科学博物館、東京国立博物館と東京文化会館があります」


 一か所で複数の施設を回り、教養を高めるのに都合がいいとか。

 ただし、漫然と見ていても何も身に付かないから、とにかく見て感じ取れと。優れた芸術に触れることは、心に豊かさをもたらすだけに留まらず、知的好奇心も満たせるのだそうだ。

 好奇心が旺盛であれば、進んで行きたくなる場所でもあると。


「美術品はバロックから現代まで揃ってます。科学技術も学べて東洋の文化も学べます。文化会館ではコンサートも開催されますから」


 やっぱり花奈さんは頼りになる。知ってることが豊富で、きっと趣味もあるんだろう。だから優秀なのかもしれない。

 上野に着くと中央通り地下駐車場へと車を押し込む。機械式駐車場だからか、あとで取り出すのに少し時間が掛かりそうだ。


 外に出てまずは国立西洋美術館へ。


「常設展もわかりやすいものが多いです。美術に関心は無かったのですか?」

「関心を持つとか、それ以前に食うので精いっぱいで、余裕が無さ過ぎて」

「それでしたら、まずは見て、これだと思うものを探求すると良いでしょう」


 そのうち好き嫌いも出てくると。今はまず見て目を肥やすことからだと。見ないことには嵌る嵌らないもない。じっくり時間を掛けて見ればいいらしい。

 散歩気分で進み世界遺産となった美術館前に。


「これはご存知ですよね?」

「えっと世界遺産」

「世界文化遺産。ル・コルビュジエの設計によるものです。竣工は昭和三十四年。鉄筋コンクリート造の近代建築物ですね」


 世界遺産登録で人が多く訪れるようになり、常に賑わっているスポットになったと。以前から定期的に訪れている花奈さんにしてみれば、常設展でさえ落ち付いた雰囲気が無くなり、さすがに来る回数が減ったそうだ。


「田舎者が大挙して押し寄せるからか」

「その言い方はどうかと思いますが、建物が注目を浴びてしまいましたので」


 入れ物が注目を浴びた。美術に関心の無い層までが訪れる。結果、混雑具合が酷くなったのは事実。

 物見遊山の客が多いってことで、元より常連にしてみれば迷惑な話だ。

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