Epi63 宴の終焉と芸術のお嬢様

 このパターンはお初にお目にかかる。生は。


「ロケット」

「とんがってるから」

「垂れ気味になるんです」

「掴み甲斐あるでしょ」


 なだらか、つまり寸胴にも関わらず、主張する紡錘形の物体ふたつ。三者三様とはこれを見て思うことだよなあ。どんぶりを伏せたような葉月。皿を伏せた美桜ちゃん。そして砲弾二発の持ち主がまさかの変態メガネ。よく制服に収まってたな。

 年取ったら垂れ下がるらしい。だから理想は葉月の形状だとか言ってる。

 あかん。眼前に広がる光景に理性がぶっ飛ぶ。


 狂喜乱舞する変態メガネだが、何を見てと思ったら俺のだった。


「感触知りたいですね」

「いつも握ってる」

「あ、あの、私も」


 その後、三人に蹂躙され乱痴気騒ぎは、収まると同時に収束した。

 当然だが三人の感触も強制的に堪能させられた。問答無用で襲い掛かるケダモノだったからな。

 これが、執事と言う立場で無ければ、俺も心底楽しめたんだろう。普通に考えれば最高のシチュエーションなのに、なんか楽しみ切れないんだよ。残念だ。


「明日が楽しみです」

「あたしと繋がってる奴と、うふふちゃんと蹂躙してる奴だね」

「繋がらないからな」

「いいじゃん」


 いいわけが無い。何度言っても理解しない奴だ。いや、理解しないんじゃなく、欲望最優先で決まりを無視してるだけだ。

 絶対、食われるわけにはいかないな。

 それにしても、三人揃って恥じらいの欠片も無い。美桜ちゃんは違ったはずだったのに、すっかり変態の仲間入りだ。変態トリオの完成じゃないか。


「あ、そうだ。あのね、かおりん五月に十八歳になってるから」


 つまり年齢的な部分は問題無いはずだとか。やるも出すも自由だ、と抜かすアホが居る。年齢はともかく高校生だからアウトだ。

 ついでに葉月も誕生日は過ぎてるとか。


「いつだったんだ?」

「名前と一致しない六月」

「八月じゃないのか。水無月だよなあ」

「だからね、なんでかなって」


 研修中に誕生日を迎えていたせいで、祝ってもらえなかったと文句言ってる。

 ああでも、あれか。水無月なんて名前もほとんど聞かないし。もしかしたら八月を出産予定としてたら、さっさと生まれちゃったとか。早産も無いわけじゃ無いだろうし。そのせいで脳みそが変態に仕上がったとか。


「来年は祝ってね」

「それは構わんが」

「それで、美桜ちゃんはいつなんだ?」

「十一月」


 ならば誕生祝いをしてもいいかもしれん。

 ベッドでごろごろする変態メガネと、おとなしく腰掛ける美桜ちゃん。

 ソファで俺にしな垂れかかる変態の総本山。なぜかお揃いのナイトウェアを纏ってる。

 しかも全員スケスケ。ならまだしも、そのパンツって言っていいのか? それは股間の部分に穴開いてるし。役に立たねえじゃねーか。行為のためだけに存在する変態パンツだな。

 ついでに胸の先端も穴開き。突き出てるし。


 十二時を過ぎる頃に変態メガネと美桜ちゃんは、どこで寝るのか尋ねると。


「隣の部屋が空いてるからそこで」

「ジャンケンして決めよう」


 おい、変態メガネ。そこで妙な提案を出すな。もし一緒に寝るなら美桜ちゃんが一番安心できる。お前は論外だ。


「あたしは直輝と一緒だから」

「今日だけ、公平に決めましょ」

「でも、それだとあたしが負けたら」

「いつも一緒ならたまには変化を」


 渋る葉月だが美桜ちゃんも参戦し押し切られた。

 ならば美桜ちゃんの応援をしよう。頑張れ美桜ちゃん。葉月は、たまには俺から離れろ。変態メガネも要らん。葉月と同系統の存在だからな。

 三人でジャンケンをするが結果は。


「勝ちました」


 狼狽える葉月だ。最初に負け確定だったからな。次いで美桜ちゃんが脱落した。マジかよ。変態メガネと添い寝ってか? これじゃあ葉月と変わらん。


「直輝……離れ離れ」

「いつも一緒じゃねーか」

「でも、今夜は直輝が居ないんだよ」

「知らん」


 そこまで落ち込むようなことじゃないと思うんだがなあ。

 またしても狂喜する変態メガネが居るし。残念そうな美桜ちゃんも居る。俺も残念だ。

 そして喚く葉月を叩き出す変態メガネだ。そこは容赦しないんだな。


「直輝! 明日は十発決めるから」

「やらねーぞー」


 そして部屋には変態メガネと俺。


「えっと、直輝たんって呼んでも?」

「たん、って……まあ構わないけど、如何わしいことは一切なしだ」

「触るくらいはいいと思うんですけど」

「無し。とにかく寝ろ」


 ベッドに潜り込むとこっちを見てる。寝る時はさすがにメガネは外すようだ。

 無くてもあまり印象が変わらん。


「直輝たん。見てください。寝ると流れ出る溶岩の如く」

「いや、だから寝ろ」

「両側から包み込むように中央に寄せると、マッターホルンふたつできるんですけど。登頂しないんですか?」

「いいから寝ろ」


 やっぱ葉月と同類。

 アホなやり取りを暫し。いつの間にか寝入ったようだ。普段から早めに就寝する癖が付いてるんだろう。一応、こんなんでもお嬢だからな。


 朝目覚めると変態メガネが居ない。代わりに葉月がなぜか寝ている。しかもしっかり俺に抱き着いてるし。

 変態メガネはどこへ? と思って葉月を引き剥がし、ベッドから出ると床に転がってる。一応毛布は掛けてあるから、寒さは感じないのか?

 ふたりを起こすと変態メガネが「なんで床に?」とか言ってるし。葉月が排除したんだろうよ。


 美桜ちゃんを起こしに行き、三人の身支度を整えさせると朝食になる。


「直輝たん。今日はモデルになってください」

「いやだ」

「別に何かしようってわけじゃないです。ヌードですけど」

「それ、ヌードってのがだよ」


 まじめに描く、と言ってる。やる時は真剣に取り組むそうだ。


「直輝たんはカラヴァッジオを意識して、葉月たんとうふふたんは、クールベの如くです」


 なんとなく聞いたことあるけど、あいにく教養が無くてよくわからん。


「クールベの裸婦像って妖艶な絵だよね」

「そうですよね。眠りはとても官能的です」

「ふたりにピッタリの画風だからね」


 俺の知らん世界。もっと教養を高めないと、話に加わることも突っ込むこともできん。これからもっと勉強しないと、花奈さんにもバカにされそうだ。

 少し芸術も理解できるように、花奈さんに相談してみるか。


「直輝たん。ヌード」

「わかったよ。その代わりにまじめにやれよ」

「もちろんです。洗礼者聖ヨハネのような雰囲気を目指します」


 わからんけど、已む無しか。

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