Epi62 お嬢様たちの宴の始まり

 変態上等! ってのが、かおりん、だそうだ。芸術を目指すものにとって、普通と言われるのが一番堪えるらしい。


「裸体画を描く多くの画家は、己の欲望をキャンバスにぶつけるのです」


 当然、視線はエロい。女性の肉体に執念を燃やし、だからこそ表現したい。リビドー無くして芸術には至らないとも。そもそも女好きでなければ、後世に名を残す芸術家になれなかったと。

 きっと股間モリモリだっただろうとか。いや、その状態だとモデルにバレるだろ。


「私も同じく、男性器をつぶさに観察し、時にいじり口に含み、それを味わった上で表現したいと常々考えていました」

「かおりんとあたし、似たところあるから」

「葉月はただの変態だ。芸術とか関係ねえじゃねーか」

「芸術的な硬度と持続性がいいんだよ」


 アホだ。

 到着までの間、変態による男性器談議に花が咲いていた。

 そこに美桜ちゃんまでが加わるとは。完全に葉月に毒されて、以前の美桜ちゃんは見る影もない。

 悪影響しか及ばさないな。美桜ちゃんまで変態と呼ばなければならないのか。


 屋敷に着くと全員降ろし、車はガレージに仕舞い込む。その間に部屋に行ってろと言ったが、外は暗いし。敷地内は照明が至る所にあるから、庭園自体は明るさもあるけど。しっかり待ってやがった。


 ぞろぞろ正面玄関から屋敷に入る。

 すると槇さんが通りがかり「お嬢様のご学友ですね。お待ちいたしておりました」と。


「晩餐の準備ができ次第、お声掛けさせていただきます」


 と言って去って行った。事前に話は通ってるのか。変態メガネのことも。

 長い廊下を通り葉月の部屋に行き、美桜ちゃんと変態メガネには、ベッドにでも座っててと。


「直輝はあたしの隣」

「いや、ここでいい」


 ドア付近の壁際で直立不動だ。ここで流されず執事として、しっかり仕事をこなす。

 つもりだったが、葉月に腕を引かれソファに座る羽目に。美桜ちゃんと変態メガネはベッドに腰掛けてる。


「明日は代休だから今夜は遊ぶよ」

「十二時になったら就寝だからな」

「それじゃすぐじゃん」

「節度を弁えるべきだな」


 今さらそれを言うかとか言われたが、他所のお嬢まで預かってるんだ。好き勝手させて堪るか。

 少しするとスマホに着信があり、食事の準備ができたと連絡があった。


「飯ができたそうだ」

「じゃあ行こうか」


 ぞろぞろと連なってダイニングへ行く。俺の隣はすっかり葉月の定位置だな。

 ダイニングと言っても、いつも家族で使う部屋じゃなく、来客用のダイニングだ。虚飾の限りを尽くしたダイニングボード。豪勢なシャンデリア。テーブルは十人掛け。真っ白でありながら細かい刺繍の施された、テーブルクロス。猫脚ハイバックチェア。

 ランチョンマットの上には皿が一枚。両側にナイフとフォークにスプーン。

 どこのホテルかと思うようなディナーセットだ。


 テーブルには花瓶に生けた花が多数。


 誰も意識することなく腰掛けると、本日の料理としてシェフより説明がある。

 こんな娘っ子に最上級のもてなしとは。なんだかなあ。

 変態だぞ。揃いも揃って。美桜ちゃんだけは、と思ったが、最早手遅れかもしれない。


「直輝は食べないの?」

「あのなあ、俺は執事だぞ。一応」

「一緒に食べようよ」

「だから、給仕をする必要もある」


 つまんねえこといってんじゃねえ、とか言い出した。

 隣の部屋には奥様が居る。そこに行って交渉するとか言ってるし、勢い席を立つとドカドカと足を踏み鳴らして、隣に行ったようだ。

 すぐに戻ってきて「座って」と。


「許可取ったのか?」

「当然。直輝も一緒に食べるんだからね」


 給仕は誰がやるんだよ。と思っていたら前山さんが来た。

 そっと俺の傍に来て「モテモテですね」だそうだ。勘違いだ。モテたわけじゃなく、肉欲の餌食になるだけのことで。

 ここに居るのは全員肉食獣だぞ。


 なんかひとり悶えてる奴がいる。


「おい、変態メガネ」

「なんでしょう?」

「なに悶えてる」

「執事とお嬢様。萌えない要素があるんですか?」


 筋金入りの変態だな。腐女子まで入ってそうだ。


「葉月たんに兄が居れば、兄と執事の萌え萌えシチュとか」

「なんか面白そう」

「ボーイズラブとかですね」


 頼むから変態発言はメガネだけにしてくれ。笑いを噛み殺してるのは前山さんだ。楽しそうでいいなあ、おい。

 晩餐が済むと部屋に戻るが、ヌードはいつ描くのか、とか話してるし。


「画材を持参しないと」

「うちにもあるけど」

「借りてもいいのですか?」

「いいよ。誰も使って無いし」


 明日にでも早速とか言ってるぞ。やらないからな、モデルなんて。


「そう言えば文化祭の後始末とか、もう全部終わったのか?」

「明後日」

「午前中に片付けして、午後から通常授業」

「後夜祭とかは?」


 参加したい人だけがやるそうだ。強制じゃないから、ある程度片付けたら帰れるんだとか。

 そもそも男子の居ない後夜祭が盛り上がるわけ無いと。イチャイチャする相手が居ないのだから、だそうだ。それって一部の話だろ。ただ、中には女子同士で、と言うのはあるとか。

 やっぱ居るんだ。そっち系も。


「堂々と付き合ってるのか?」

「そこはね。当たり前の部分もあるし、今どき注意したらクレーム入るし」


 差別はあかんって奴か。受け入れるしか無いんだろうな。表向きだけでも。

 内心、どう思おうが自由だろうけど、それを表に出すのは罷りならんか。


「葉月たんは密かに女子人気も高いです」

「そうなのか?」

「男気溢れるとかで」

「ただの変態じゃねーか」


 その変態に蹂躙されたい、そう願う女子も居るそうだ。なあ、学校。やっぱヤバくないか?


「だから葉月たんと絡む女子の絵も描きたいのです」

「じゃあ、相手はうふふちゃんでもいい?」

「いいねえ。萌えますよお」

「直輝とあたしが繋がってる奴も」


 ねえんだよ。どさくさ紛れに繋がって堪るか。

 その後、風呂に入るとなり、ひと騒動になった。


「直輝、一緒に入って全員の背中流すんだよ」

「嫌だ。それは俺の仕事じゃない。葉月だけだ」

「主がやれって言ってるの」

「迷惑じゃないのか?」


 迷惑なわけが無いと。揉みしだき、出し入れして悶えさせろとか。バカ抜かせ。

 風呂場に連れ込まれ、全員見事にまっぱだし。それぞれ違う体型。

 ひとつ発見したのは、変態メガネだ。なんて言うか、なだらかな体型にしっかりした双丘。服の上からではわからなかった、見事なブツが。

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