Epi58 お嬢様学校の文化祭

 文化祭前日。

 準備のために帰宅が少し遅くなったようだ。いつもの橋の上で待っていたが、なかなか出てこない。校内に居る間は容易に連絡も取れないが、まあ、校内に居るなら問題は無いわけで。仕方なくラジオを聴きながら待ち続ける。

 ウィンドウを叩く音がして、視線を向けると葉月だ。すぐに車外に出てドアを開けシートに座ってもらう。シートベルトの着用を確認したら、早々に移動を開始する。


「遅くなった」

「準備に手間取ったのか?」

「少し要領の悪い子が居て、任せてたらなんにもできてなくて」

「まあ、ありがちだな」


 任せていた子の分までやってたら、遅くなったらしい。

 それでも表立っての文句は無かったそうだ。


「いじめとか無いのか?」

「表向きは」

「じゃあ裏ではある?」

「陰口程度だけど」


 カトリック系の学校ということもあり、エスカレーター組は躾が行き届いている。高校から受験して入学した外部生には、成績以外の部分で少々難のある子が居るとか。成績は内部生よりはいいそうだが。

 それって馴染み切れないとか。ま、俺にはよくわからん。


「明日の帰りは?」

「四時頃迎えに来てくれれば」


 屋敷に戻り部屋に行くと、早々に着てるものを全部脱ぎ捨てる葉月だ。

 張りのあるブツをぶるんぶるん言わせて、見せつけなくても、と思うんだが。それでも煩悩には抗えん。つい見ちゃうし。触りたくなるし。


「服を着ろ。もうすぐ飯の時間だ」

「直輝がもみもみしてくれたら着る」


 アホだ。

 目の前で胸を突き出し「さあ揉みしだけ」とか。とてもカトリックの教育を受けたとは思えん。神罰食らわないのが不思議だよな。

 結局、要求に従う俺も俺だけど。やらないと要求がエスカレートするのもある。


 夕食後から入浴までの時間は、ラブソファで寛ぐのもすっかり日課になった。

 並んで脚を投げ出して座り、もたれかかる葉月が居て、なんかそれも心地良さがある。

 黙って動かなければ可愛いんだよ。言動によって変態が出てくるけどな。

 このわずかに静かな時間は癒しになる。頼むから変な行動をしないでくれ、と願うんだが。


「直輝。お風呂」

「へいへい」


 エロ抜きの入浴なんて久しく経験していない。

 たまには何も考えずのんびり湯船に浸かりたい、そう思う今日この頃。


 文化祭当日の朝。


「起きろ」

「眠い」


 ぐずる葉月の起こし方。

 通常は目覚まし時計を両耳に当てて、その音の煩さで目覚めさせる。振り払おうとするから、さっと避けて再び耳に当てる。二回か三回繰り返すと仏頂面だが起きる。

 うんともすんとも言わない時もある。非常時だ。

 お姫様抱っこでパウダールームまで抱えて行き、洗面ボウルの中に頭を入れる。

 あとは冷水シャワーを浴びせれば、さしもの葉月でも目が覚める。冬は効果覿面だろうな。とは言え冬場に冷水は体に悪いから、そこはぬるま湯でと考えてはいるが。


 起床後、服を着せて、もちろん下着から何から何まで。

 朝食を済ませ学校に送り届ける。


「じゃあ、四時に迎えに来るから」

「少し遅くなるかもだけど、待っててよね」


 見送ればいつも通りの仕事をして、花奈さんと昼休憩時に会話したり。

 最近、花奈さんとエロいことできてないよなあ。葉月の拘束が激しくなってる。


 日課をこなし翌日を迎えると、お嬢様学校の文化祭一般開放日。


「九時からだから」

「半端だな」

「適当に時間潰したら来て」


 まあ仕方ない。いちいち屋敷に戻るのも無駄だし、車は近場のコインパーキングへ押し込み、カフェで時間を潰そう。

 駅直上にあるカフェで暫し時間を潰す。窓際の席に座ると葉月の通う高校が見える。

 九時を回った頃、学校へと向かう。


 校内に入るにはチケットを提示しなければならない。招待状とも言う。

 禁断の花園。ってほどでもないな。

 複数、人は居るが混雑するほどには来ていない。大半は父母だろう。

 高校の文化祭程度だと学生には楽しいが、大人が楽しめるレベルってのは難しいし。大学ならまた規模も違って面白いものもある。出し物も違うしなあ。


 適当に回っていると美桜ちゃんに遭遇した。


「来ていただけたのですね」

「誘われたし」

「少しご案内したいのですが、模擬店が忙しくて」

「案内は無理しなくていいから模擬店行こうか」


 いい笑顔だなあ。お淑やかさを演出してるんだろう。実態はすっかり葉月に染まってるけど。

 並んで歩くと模擬店とやらに着く。


「ドリンクとクッキーがありますけど」

「じゃあそれ両方」

「少々お待ちくださいね」


 さっきコーヒー飲んだばっかり。まあいいけど。

 店内を見ると男子高校生だな。少しでもお近付きになりたいんだろうなあ、一所懸命声掛けてるし。女子の方も満更ではない、そんな雰囲気を漂わせるが、しっかり品定めしてるんだよな。


「お待たせいたしました」


 そう言って、隣に座る美桜ちゃんだ。


「いいの?」

「はい。少しだけお時間いただいたので」


 目がきらきらしてるし。嬉しいのかどうかと言えば、嬉しいんだろうけど。

 これ、完全に惚れられてるよなあ。実に不思議だ。


「まだ葉月に会ってないんだけど、どこに居る?」

「あ、葉月ちゃんでしたら部の催しもので、待っていると思いますよ」

「じゃあ、あとで行ってみるか」

「ご一緒したいのですが、その」


 忙しそうだもんなあ。男子高校生の大群が押し寄せてくるし。どいつもこいつも必死だ。いいぞ青春。いいぞ若人。全員玉砕しろ。俺は今夜食われる。


「気を使わなくていいよ。終わったら来るんだよね?」

「はい。また、あの、お泊りしたいので」


 こうして見ると生粋のお嬢様なんだよ。積極性がなあ。葉月のせいですごいことになった。お嬢様のイメージぶち壊すの得意だよな。

 今夜を楽しみにしてるんだろう。肉欲の宴が待ってる。


 少し話をして模擬店をあとにすると、葉月が居るであろう部の出し物を探す。

 わからん。校内が複雑すぎる。

 それにしても元気だなあ。お嬢様ってのは奥ゆかしい、そう思っていたが、普通に元気だし騒々しいし。共学校の女子と違いは無いな。すでに俺のイメージするお嬢様なんて、絶滅しつつあるのかもしれん。

 美桜ちゃんも壊れたし。


 で、やっと見つけた。ひと際でかい声の主は間違いなく葉月だ。

 せっせと呼び込みしてるし。客が来なくて暇なんだろうな。


「葉月」

「あ、やっと来た」

「迷ってた」

「じゃあデートしよう」


 早々に腕を組み校内を回るようだ。

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