Epi51 メイド長の気遣いに気付く

 夕飯の準備をする花奈さんが居る。なんかいいなあ、なんて思って見てたら、葉月が蹴ってくるし。


「中条ばっか見てないで、あたしとうふふちゃんを見なさい」

「でもさあ」

「魅力だけなら負けてないはず」

「いやいや、花奈さんには葉月に無い、大人の魅力が」


 地団太踏むなよ。

 それにしても美桜ちゃんはあれだ、葉月に毒されなければ、お嬢様として理想像だったんだが。ど変態に仕込まれたせいで、変態になってきてるし。軌道修正した方がいいんだろうけど。俺にそれはできない。花奈さんに頼むしかないのか。

 なんて思って花奈さんを見てると、目が合って互いににっこり。いいなあこれ。

 いてっ!


「なんだよ」

「そんなに中条がいいの?」

「まあ、魅力いっぱいだし」

「あたしにもあると思う」


 無いわけじゃない。変態さえ引っ込めばこれ以上ない素材だ。しかもまだ女子高生と言うブランドも背負ってる。若さは圧倒的な武器になるしなあ。少々がさつでも少々アホでも、若ければ許される部分は多い。

 だが変態は論外だ。


「じゃあうふふちゃんは?」


 葉月を見て美桜ちゃんを見る。照れて赤くなってるし。この辺はまだうぶさがあっていい。お嬢様らしさが残ってるからな。


「いいと思う。が、手出しはしないぞ」

「なんで?」

「あの、なぜでしょう? 先日のように、ち、こ、を頂けないのでしょうか?」


 あかん、やっぱ葉月色に染まってる。

 なんか殺気を感じる、と思って殺気のする方向を見ると、花奈さんが射殺すような目付きで見てるし。これは誤解だ。俺が率先してじゃなく、葉月の罠に嵌った哀れな子羊だ。

 だが、次の瞬間、穏やかな表情になってるし。にこやかに。なんで?


「夜は三人でジャグジータイムだらかね」

「花奈さんは?」

「入れたいの?」

「まあ、どうせなら」


 葉月が花奈さんを見て、俺を見て「ジャグジーで繋がりたいんだ」とか言ってるし。そうじゃねえ。一緒に入るってことで、入れたい、のはそうしたいが、じゃない。

 諸岡さんとも一緒に入ってる。今さらだから、花奈さんも誘って入るなら、ってことだが。まあ、本人がどう思うかはわからん。鼻であしらわれる可能性も。


「直輝さん」

「え、はい」

「ジャグジーですが清掃は済んでいますか?」

「昨晩諸岡さんが」


 夕飯を作る手を止めて、ソファに腰掛ける俺のもとにきた。


「メイド長とジャグジーを楽しんだのですか?」

「えーっと、それだけど」

「一緒に入った。直輝のも見せた。諸岡のも揉ませた」


 葉月のアホが、あっさりゲロしやがって。

 その上から見下げる視線。とんだクソ野郎、とか思われてないよな。


「ではご一緒しましょう」

「はい?」

「不満ですか?」

「いいえ」


 花奈さんが怖い。もしかして対抗心が芽生えたかもしれないけど。

 再びキッチンに戻り夕飯の準備をする花奈さんだけど、何を考えてるのかさっぱりだ。これはあれかも。諸岡さんに女性心理を学んだ方がいいかも。経験が無さ過ぎて、どこで地雷を踏んでるかもわからん。


「じゃあ、四人で一緒にだね」

「まあそうなるか」

「全員と繋がるのはありだよね」

「ねえぞ」


 花奈さんだけだ。繋がるのは。

 美桜ちゃんなんて、手を出したら大変なことになる。葉月も卒業まで放置だ、放置。


「直輝さん」


 花奈さんから声が掛かる。


「ベッドメイクは済んでいますか?」

「朝に諸岡さんが」

「トイレ掃除は済んでいますか?」

「それも諸岡さんが」


 俺はなにをしていたのか問われた。そう言えば食事の際の給仕くらいで、他の仕事って一切してなかった。

 全部、諸岡さんがやってたんだよ。


「えっと給仕以外なにも」


 ため息吐かれた。なんか俺ってダメ執事。


「では、明日からは私と分担です」

「はい」

「執事としての仕事も忘れないように。お嬢様との新婚旅行では無いので」

「はい」


 さすがに職務放棄も甚だしかったか。でも、諸岡さん、なんも言わないんだもん。それだと甘えちゃうんだよ。普段口煩いのに。

 ただ、それもあって諸岡さんに親近感を得たけど。年齢さえ考えなければ、実は優れた魅力ある女性なんだって。女性として意識するのは難しいけど、あの化粧姿なら、行けそうなくらいには美人だった。

 考えてみればすげーな俺。守備範囲が一気に広がったぞ。


「なんか、諸岡二号が居るね」

「なんだそれ」

「口煩さが。でも諸岡は直輝が遊んでても文句言わなかった」

「それ、俺も思った」


 不思議だねーとか言って互いに頷き合ってると、また手を止めてこっちに来る花奈さんが居るし。


「なにも、ですか?」

「そう」

「……。お嬢様に気を使ったのでしょうね」

「ああ、そうか。葉月を楽しませるために」


 俺じゃない。あくまで主たる葉月を楽しませるのが旅の目的であれば、俺と一緒に居て最もいい笑顔が出る。だったら俺を張り付けておけば、葉月は心から楽しめるってことだ。だから何も言わなかった。

 なんか、諸岡さんには何もかも敵わないな。


「なるほど。目的がそれであれば直輝さんを拘束しては、お嬢様が楽しめませんね」

「あ、理解してくれた?」

「お嬢様のご旅行ですので、主賓たるお嬢様が楽しめずでは、目的を果たしたことになりません」

「じゃあ、明日以降も直輝を独占」


 なんか、すごくイヤそうな顔したぞ。でもすぐに「その通りにいたしましょう」だって。

 結果、俺の執事としての仕事は一切なし。同じようにして、葉月を楽しませることになった。なんかいいのかって感じだけど。でも、俺と一緒に居る時の葉月はマジでいい笑顔になる。


 夕食になると、諸岡さんも顔負けの料理が並ぶ。

 これって対抗心剥き出しってことかも。いろいろあって、諸岡さんへの心証がめちゃ良くなったし。花奈さんもまた頑張ってるんだろうな。


 食事が済むと花奈さんは後片付けと、朝食の仕込みもしている。手伝いたいと思う部分はあれど、あいにく俺に料理の類は不可能。ましてや貧乏人の食生活なんて、金持ちから見たら犬猫の餌の方が上回る程度だ。今どきの犬猫はいいもん食ってるからなあ。


 すべてが片付くと葉月が「中条が少し休憩したらジャグジーだ」とか言ってる。

 一緒に入るんだよな。我慢できるのか俺?

 あと一点。


「美桜ちゃんはどの部屋で寝るんだ?」

「あたしと一緒」


 それだと俺と一緒ってなるんだけど。


「三人で並んで寝る。もちろん直輝の握りながら」


 ねえんだよ。相変わらずのアホっぷりだ。

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