Epi45 弾ける夏のお嬢さま

 葉月の夏休み。

 長崎への旅行は決まった。同行者は諸岡さんだけどな。不満たらたらだが、そこは家人の誰もが諸岡さんを推薦し、葉月の言い分は通らなかった。

 俺が葉月を愛してないからだよな。もし本気になっていたら、ふたりで楽しんで来い、と言ったかもしれない。

 それって俺のせいかよ。


 期間は一週間。

 長過ぎね? 諸岡さんにとっても無駄に長いと思うんだが。


「あのね、途中からうふふちゃんも混ざるから」


 勘弁してくれ。花奈さんが来るなら大歓迎だけど。

 とは言え当然だが、ひとりで来れるはずも無く、花奈さんが送り届けるらしい。となると少しは花奈さんと遊べるのだろうか。


「中条はすぐ返すから」


 なんだそれ。少しの逢瀬もあっていいだろうに。

 諸岡さんの目を盗んで繋がってやる、とか息巻いてやがる。


「ばっちりはめ込み、楽しいな」

「ねえぞ。諸岡さん居るだろ」

「目を盗む。どんな人にも隙はある」


 それと、楠瀬さんじゃなく、うふふちゃんか美桜ちゃんと呼べ、だそうだ。


「はめるぞー」

「だから無理だろ」

「諸岡は四日間だけ」

「は?」


 七日間ずっと、とは行かないらしい。代わりに花奈さんが五日目から世話をするそうだ。残り三日間は花奈さんが付き添い。美桜ちゃんを連れてきた際に入れ替わるそうだ。

 つまりだ、その時こそがチャンスなのだとか抜かしてやがる。

 監視の目が緩むだろうと予測してるらしい。


「でも追い返す」

「誰を」

「中条」

「それだと旅行もその時点で取り消しだろ」


 中条なら諸岡より融通が利くとか言ってる。けどさあ、職務放棄になるから、絶対残ると思うぞ。そしてその日の夜は花奈さんと。

 いてっ!


「おい。潰れたらどうする」

「中条と繋がること考えたでしょ」

「彼女だし」

「あたしと繋がるの」


 ねえっての。旦那様も奥様も愛していれば、何しようとかまわない、とは言ってたけどな。愛してない以上、葉月となんてあり得ない。やったら後が無くなるだろ。


 しっかし、今の状況。

 葉月も俺もまっぱだ。ベッドの上で乳繰り合ってる。俺の手は葉月の豊満な双丘の上に。葉月の手でしっかり握りしめられてるし。

 これが許される時点で異常だ。俺に葉月への愛は無いぞ。体は申し分ないんだが。

 クズ野郎だろ、これじゃ。


「うふふちゃんにも経験させよう」

「絶対ダメ」

「なんで?」

「預かってる立場だ」


 知るか、じゃねえよ。旅行に男が同行してて、あげくその男に処女を奪われて、怒りを示さない親がどこに居る。いくら家の格が上の曽我部家であっても、怒鳴り込まれるぞ。

 いくら富豪であっても、金で解決できる問題じゃないし。曽我部の家に泥を塗る形になる。


「好きなのに?」

「それはそれ、これはこれ」

「そんなの恋する乙女に関係ない」

「情欲塗れの変態の間違いだ」


 変態じゃなく愛が深いからだと抜かす。物は言いようだな。

 業の深さゆえに変態である自覚を持てないとは。


 いよいよ旅行が迫る。


「明日だよ」

「そうだな。準備はできてるのか?」

「直輝がやるんじゃ?」


 くそ、こんな時だけしっかり執事だ。


「パンツは?」

「十四枚」

「そんなに要らんだろ」

「濡れ濡れ」


 ねえんだよ。監視の目があるんだから。


「ブラは?」

「十四枚」

「だから」

「漏れるかもしれないし」


 妊娠してねえだろ。


「シャツは?」

「十四枚」

「……」


 きりがねえ。上下で十四。下着も十四。


「リネン類は」

「向こうにあるから、移動中に使う分だけ」


 つまり汗拭き用に七枚。いや、現地で洗濯すれば半分にできる。

 ああ、そうだよ。下着も服も現地で洗濯すりゃ、十四も必要ないだろ。


「洗濯機とかあるよな」

「ある」

「なら服は半分でいい」

「必要なんだけど」


 邪魔だし荷物が嵩むだけだ。旅行ってのは必要最低限の荷物で、スマートにだ。

 それと水着やナイトウェアも持参するとか言ってる。アメニティ関係は用意されてるから、それらは持ち込む必要が無い。管理人が一通り用意しているそうだ。

 食材も管理人が事前に買い置きしているとか。


「で、往復する交通機関は?」

「自家用ジェット」

「は?」

「所有してるから」


 マジか。そんなものまで持ってるのかよ。いくらするのか知らんが。とんでもない金持ちだな。

 カタログがあるというから見せてくれるらしい。

 まっぱで部屋の中をうろうろ。書棚の中を探していて「あった」とか言ってるし。

 持ってるのはガルフストリーム社のG650。双発のジェット機かよ。値段なんて書いてないな。それにしても世の中、金のあるところにはあるものだ。


「羽田に置いてるって」

「普段仕事で使うのか?」

「パパが時々、飛び回るのに使ってる」


 そこらの社長とは格が違う。海外にもそれで行ってるそうだ。

 最早ファーストクラスすらも霞む。アラブの石油王みたいな。


「どうしたの?」

「住んでる世界が違いすぎる」

「住んでるじゃん。ここに」

「いや、そうじゃなくて」


 形容しがたいほどの存在。そこの執事。

 あり得ない人生経験をしてるんだよ。極貧が大富豪の執事だ。なんだこれ。


「直輝」

「なんだ?」

「ちっさくなった」

「仕方ないだろ」


 現実を突き付けられて、なおも元気なわけもない。

 本物のセレブ。セレブ中のセレブじゃねーか。こんなど変態でも。何か間違って無いか?

 見ると不服そうだな。可愛いけど。


「なんだよ」

「硬いのがいい」


 アホだ。これがセレブだってんだから、価値観が壊れてくるぞ。

 だからー! こいつなにしてやがる。


「おい」

「んー?」


 あかん。

 だがこれはこれで。

 どこで覚えたのかは知らんが、こんなことまでするんだよ。お嬢様の癖に。やたらと股間に執念を燃やす変態だ。もう少しお淑やかさがあれば、惚れたかもしれんのに。今の状態だと正直引く。

 気持ちいいけど。


 旅行の準備、ということで、さっぱりしたら用意しておく。


「キャリーはこれでいいのか?」

「全部入る?」

「減らせば入る」

「減らしたら意味無いじゃん」


 要らねえんだよ。洗濯すりゃいいんだから。それもどうせ俺がやるんだし。

 三つも四つも持って行けるわけねえ。六泊だろ。

 それといい加減服を着ろ。いつまでも丸出しで、まだ物足りないってのか?


「あ、直輝」

「なんだよ」

「これも」


 渡されたのはコンちゃんだ。


「使わねーぞ」

「繋がれないじゃん」

「だから、それ自体が無いんだよ」


 なに驚愕してやがる。いくらその気になっても、俺の気持ちが無い限り繋がることは絶対にない。

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