Epi40 予定を立てておこう

「直輝」

「なんだよ」

「島に行ったら服は着ないんだよ」

「着るぞ」


 全裸生活なんてしてたら、間違いなく葉月に貪られる。四六時中。


「それだと楽しめない。周りに人居ないんだよ。自由じゃん」

「楽しめるわけないだろ。やり放題は無いんだから」

「なんで? 誰も居ないよ」

「だから、誓約書に反した行動になる。股間が無くなる」


 すっ呆ければわかんない、じゃねえ。そんなものは必ずどこかでバレる。隠し通せると思ってるのは、当事者だけだ。気付く奴は気付くからな。花奈さんとかも気付きそうだし。

 そもそも路頭に迷うだろ。決まり事を破れば。そこまで考えが回らんのか?


「ってことだ」

「つまんないじゃん」

「そういう問題じゃない。卒業まで我慢しろ」

「処女を卒業したい」


 なんて言うか、アホだ。賢いかと思えばとことんアホな面もある。苦労してるだろうと思えばこそ、葉月にも向き合ってやろうと思ったが。

 これはどこかで突き放さないと、際限無くなりそうだ。

 それと、そもそも俺と葉月だけの旅行なんて、許可されるのかって話しだ。


「そこはどうなんだ?」

「パパに言えば」

「通るのか? 大奥様はどうなんだ?」

「……」


 ほれみろ。旦那様は甘いから通るかもしれん。しかし大奥様は厳しさもあるし、誓約書に忠実であることを求める。ならばふたりっきりの旅行なんて、認めるはずも無いな。他に監視要員も必要になるだろう。葉月の性格は把握されてるだろうし。

 羽目を外させるわけには行かないんだから。


「まあ、蓮見さんとか監視者として、同行することになるんじゃないのか」

「蓮見は要らない。だったら青沼とか槇でいい」

「そのふたりは葉月に弱いんだろ? だったら無理だろうな」


 また、ぶーぶー言ってやがる。花奈さんなら信用はありそうだけど。ただ、花奈さんは葉月にとってのライバル。同行の許可なんかしないだろうな。

 あとはあれか、諸岡さん。


「諸岡さん」

「イヤ。すっごくイヤ」


 まあ口煩いし。きっと寝室まで来て監視するぞ。「お嬢様、節度を持ってください」とか言って。指一本触れること罷りならんとか。嫁入り前のお嬢様なのだから、清くあるべきだとか言いそうだ。


「じゃあ、旦那様からも奥様からも信用のある花奈さん」

「絶対イヤ。直輝がそっちに夢中になる」

「じゃあ、ふたりきりは無理だな」

「やり放題できると思ったのに」


 無いからな。


「同行者は旦那様が決めるんじゃないのか?」

「じゃあ事前に言っておく。槇か青沼って」

「通じないと思うぞ。俺の予想だとやっぱ諸岡さんだな」


 頭抱えて唸ってやがる。けどさ、監視要員として一番最適なんだよ。煩いけど。

 まあ、その辺は実際に相談してみるといい。もしかしたら田部さんとか、前山さんもあるかもしれん。多少の融通は利くだろうし。

 花奈さんは俺が惚れてるから、一緒だと行動に支障が出る、そう考えるかも。葉月を放ったらかしにするとか。あ、でも花奈さんならそれは無いか。俺が嵌るだけだし。


「予定は考えておいていいけど、ちゃんと相談するんだぞ」

「同行者要らない」

「居ないと旅行させてもらえないぞ」


 ふたりきりなんて許可するわけがない。葉月の企みなんてお見通しだっての。

 不貞腐れてるが、俺はなにもできないからな。家人の命に従うだけだ。


 ソファから立ち上がると、スマホ片手にテーブルに向かってる。


「なにしてるんだ?」

「予定組む」

「そうか。先に許可取った方がいいんじゃないのか」

「それもする」


 せっせとなにやら入力してるな。ひとつ愉しみができたと言えばできたのか。ただし、叶えられるか否かは別だ。ふたりきりは無理だろ。俺も勘弁願いたい。食われるのが前提の旅行は。


「ねえ、アメリカは?」

「だから遠いってば」

「じゃあ長崎でいい」


 俺に有給休暇はあるんだろう。でも、そこに使いたくないんだよ。花奈さんとの旅行に充てたいからな。一週間くらい繋がっていたい。

 葉月には悪いけど。

 卒業したら一度は相手してやってもいいけど。そこまで我慢して欲しいものだ。


 こうして葉月を見ていると、まあ可愛い。なんて言うか、魅力がたくさん詰まってる。男なんて選り取り見取りだろうに。とは言え、あの御曹司連中は気色悪すぎるな。性格も破綻してそうだし、人を大切に扱うなんて絶対無理だな。親が親なんだから。金さえありゃ、好き勝手できると勘違いしてそうだし。


 人間、ああなるとクズにしかならんな。


「直輝」

「なんだ?」

「パパとママに許可取ってきてもらって」

「俺が?」


 さっさと取って来い、だって。

 仕方ない。


「じゃあ旦那様と奥様に言ってくるけど」

「お願いね」


 テーブルに向かって真剣だな。余計なこと言わなけりゃ、見事にお嬢様なのに。

 部屋をあとにしまずは旦那様の部屋に。居るのか?

 ドアをノックしても返事は無い。居ないか。じゃあ、奥様の部屋に。で、ドアをノックすると中から声がして「どうぞ」と。

 開けると旦那様も居た。


「どうした?」

「葉月お嬢様より要望を伝えに参りました」

「要望って自分で言わずに?」

「不肖私めと旅行をしたいと」


 旦那様は呆れ気味だが、奥様の方は微笑んでるなあ。


「どこに行こうとしてるの?」

「長崎の島に、と申しておりました」

「そう。諸岡を同行させるなら許可するけど」


 やっぱそうだよな。諸岡さんが同行していれば、間違いは一切起こり得ない。あの厳しさあってのメイド長だ。

 たぶん、大奥様も諸岡さんが一緒なら、どこへでも行っていいとか言うんだろう。


「畏まりました。お嬢様にはその様にお伝えいたします」


 一礼して部屋をあとにする。

 出掛けに「どうせやり放題とか言ったんでしょ」と。完全に見透かされてるぞ、葉月。

 葉月の部屋に戻り報告。


「諸岡さんの同行が条件」


 テーブルに突っ伏してる。二番目に嫌な相手だろうからな。一番は花奈さんだろう。


「交渉すらできないの?」

「主だからなあ。逆らえるわけがない」

「あたしの執事なんだから、あたしの要望を叶えるとか」

「無理だな。最終的な決定権者は旦那様や奥様だし」


 不服そうだが、もし本気で俺が葉月に惚れてたら、なんとしても交渉してるって。

 でもさあ、誓約書もあるし、それに署名捺印してる以上、逆らえんのよ。そこは理解して欲しいんだが。

 花奈さん居なけりゃ、葉月に惚れてるのも間違いないし。


「じゃあ、あたしがあとで交渉する」


 無理だっての。

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