Epi37 財界パーティーデビュー
旦那様より直々に話しがあると言われ、リビングに呼び出された。
どうやら近々に財界による、パーティーがあるとか無いとか。
「蓮見は秘書として連れて行くが、この際だから向後君も出てみないか?」
経験しておくに越したことはないと。
財界の錚々たるメンバーが集まるのと、政治家の出席もある。秘書などと各々情報交換をするのも、今後の仕事の内だと言われた。
今はお嬢付きであっても、いずれは会長の秘書役も兼ねるのだそうだ。
「代わりに報酬は弾むからね」
ついでに葉月も連れて行くそうだ。お嬢付きということで紹介するから、今回は顔見せ程度になると。まずは雰囲気に慣れてもらうのが目的だとか。
「最初だから緊張するかもしれないが、普段通りにしていれば問題無い」
会場では葉月に従っていれば大丈夫と。
やっぱ場に慣れてるのか。幼い頃から引っ張り出されてるんだろう。
質問は無いかと問われ。
「中条さんとか他のメイドたちは、パーティーに参加した経験はあるのですか?」
「中条と諸岡は参加経験がある。自宅開催のパーティーでは、主に貴賓の対応を任せていたしな」
やっぱメイドの中でもエリート。花奈さんって若いのに優秀なんだよ。俺とは雲泥の差があるよな。
葉月の部屋に戻ると下着姿で、ソファに転がる葉月が居る。
服は着ておけっての。
「パーティー行くの?」
「なんかそう決まったみたいだ」
「緊張する?」
「たぶんするんだろうな。パーティー自体、経験無いし」
だから、ブラを外すな。昼間から盛りやがって。
「あたし付きなんでしょ。だったら心配要らない」
「やっぱ慣れてるんだな」
「見たくもないマザコン御曹司とか来るけどね」
「あいさつとかするのか」
マザコンって、根拠あるのか? 前も言ってたけど。
なんでパンツまで脱ぐ? なにもしないぞ。誘惑してるつもりかもしれんが。
「葉月」
「入れていいよ」
「駄目」
「ここ掘れわんわん」
なにが、わんわんだ。ケツ向けて誘うな。つくづく変態だ。だが、そのケツもまた魅力に溢れる。つい掴みたくなるからなあ。これほどに全身魅力の詰まった女子なんて、早々居ないだろうな。
見た目だけは完璧。中身は腐ってるけど。
それにしても、金持ちのパーティーとは。俺の嫌いな経営者がその醜い面を見せるってわけだ。そして何が楽しいのか知らんが、下卑た笑いで和やかさを演出するんだろう。きっと就活先だった企業の経営者も出るんだろう。殴りたくなるかもしれん。
労働者からの搾取で甘い汁だけ吸う、吸血鬼みたいな連中。対価は端金で、労働時間だけは天井知らず。少数で回すから有給休暇さえもろくに取れない。
トップだけが遊び歩いて好き放題ってのが実情だろう。
「直輝、顔が怖い」
「あ?」
「この格好。気に障った?」
「違う。パーティーの方」
葉月の格好は今さらだ。むしろ性欲を大いに刺激する。刺激されすぎてヤバいんだけどね。そのうち、抑えが効かなくなりそうだし。
でも、ちょっと勘違いさせたか。
「パーティー? なんで?」
「前にも言っただろ。応募した会社全部落ちたって」
「恨みあるんだ」
「逆恨みかもしれない。けどさ、就職浪人な上に住処も失うところだった」
俺に瑕疵がある可能性は排除できない。でも、内定のひとつも取れない、ってなるとさすがに腹も立つ。どうせ使い捨てする癖に、選ぶ時だけやたらと慎重なんだよ。
使えるか否かなんて、雇用してみないとわからない部分もあると思う。現に俺でさえも葉月の執事が務まってる。全部落ちてもだ。
そうやって篩に掛けても、中途で辞める新入社員も多いだろ。奢って上から目線で社員を顎で扱き使おうとするからだ。
そんな状態で日本人は使えないと抜かし、外国人の移民政策をとか言い出す始末だ。己を顧みない愚かな経営者の戯言だな。
「パパがね、人材と人財は違うって。材料の材と宝の財。社員をどう見てるかで、会社の業績にも関わるんだって」
人を粗末に扱う会社はやがて疲弊するし、歴史ある大企業でさえも、業績悪化で苦しんでいる。人を安易に切り捨てて、コストとしか見ないと、いずれ会社に跳ね返ると。
「つまりあれか? 旦那様は人を宝として見てると」
「わかんない。でも、理不尽なことしてないよね?」
「まあ、その辺は。終身雇用も約束してるし」
「パパもわかってると思う。人を育てることの大切さと、人をコストで見ないってこと」
ここで働くメイドを見ればわかるはずだと。みんな楽しく仕事ができる。報酬も充分に支払われる。休日もしっかりある。俺を除けば無理強いも無い。って言うか、葉月の相手が理不尽そのものだと思った。ただ、それでも、可愛いから許せる部分はある。惚れてるがゆえの行動だし。
俺も甘いなあ。
「たぶん、旦那様は違うんだろう。ただ、それ以外はやっぱ鬼畜だと思う」
「それは、仕方ないと思うんだ。だって、どの会社も生き残りに必死だし」
「仕方ないから人をモノ扱いってのもな。だから業績が悪化するんだろ」
「そうなんだけどね、それに気付けないから」
でだ、いつの間にか葉月のを掴まされてるし。感触が良過ぎて吸い付きたくなる。
まじめな話をしてたつもりなんだが。どうにもペースを掻き乱されるな。
後日、ついにパーティーへ参加することに。
俺は葉月と一緒にBRZで会場へ向かう。旦那様は奥様を連れて、蓮見さんと一緒にリムジンで。
俺の格好は場に相応しいよう、いつものスリーピーススーツ。さすがにジャケットにデニムは駄目だよな。葉月はドレス姿で馬子にも衣装って奴だな。清楚に見える。
「行きたくねえなあ」
「まだ言ってる」
「殴り倒すかもしれない」
「あたしも御曹司とか殴りたい」
相当嫌なんだな。腑抜けた面を晒して、気色悪いアプローチを掛けてくるらしい。葉月曰く、容姿は気にしないそうだ。根っこにある性格や思想に反吐が出ると。それと甘ったれた思考にイラっとするとか。
「直輝。止めてね」
「いや、俺を止めて欲しい」
ふたりで思わず笑い合う。葉月にとっても財界パーティーは、クソみたいなものなんだな。
会場は都内の某高級ホテル。
続々集まる高級車がホテル入口に並んでる。横柄な態度と醜い面を晒し、ホテル内に経営者や幹部と秘書だろうか、次々吸い込まれて行く。
日本の経営者に品格のある奴は居ねえ。ゴミみたいな奴には事欠かないな。
ヒキガエルだらけだ。
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