Epi35 迫りくる研修メイド

 お淑やかなお嬢様はイメージ通りが半分、退屈する、と言った通り話題が無いが半分。俺には縁のない存在だ。凡人が過ぎるからだろう。

 葉月はそこへ行くと、実に付き合いやすい気さくさがある。

 ただなあ。

 風呂場ではがっつり含まれて、本当に飲むとは思わなかった。


「飲みものだって言った」

「けどさあ」

「変な味だったけど」

「飲む必要無いぞ」


 満足そうな顔をしてた。

 部屋に行くと二回戦となり、またも繋がりそうになったが、なんとか逃れた。これ、長くはもたないかもしれない。もし繋がったら契約違反でクビ。それと股間よ、さようなら、だな。

 あの大奥様に切り取られる。

 気を引き締めて向き合わないとヤバい。


 久しぶりの休日。

 いや、週に二回はあるんだが、なにかと葉月に呼び出され、休みが潰れてる。休日出勤扱いにしてるから、付き合えとか言って、部屋に呼び出されるんだよな。

 ぜんぜん花奈さんとしっぽりできん。すっかり空っぽだ。空気が出るぞ、今なら。


「葉月」

「なに?」

「吸い過ぎだ」

「そんなことない。いくらでも出るじゃん」


 アホか。

 そういうことじゃない。花奈さんと愉しめないんだよ。根こそぎ奪いやがって。股間が過去に類を見ないほどに疲労してるし。猿だった時だって、ここまで疲れたことはない。どんだけ旺盛なんだよ。


「今日は午前中で終わりだからな」

「寂しい」

「いや、わかるけど、俺の自由時間」

「中条とやるんでしょ」


 そうだけど、それだけじゃない。俺にも自由を。

 だから、ズボンを下げるな! 引っ張り出すな! もはや限界なんだよ。花奈さんを前に機能しないとか拙すぎるだろ。


「葉月。今日は駄目だ」

「なんで? いいじゃん」

「節度を持って接するべし、だ」

「節度なんて知らない」


 さすが変態。際限の無い変態っぷりは今日も健在だ。「King of HENTAI」「Queen of HENTAI」「God of HENTAI」だな。これ以上、形容しようがない程に変態を極めてやがる。

 性欲旺盛過ぎなんだよ。どうにかならんのか。


 昼食のあとは、やっと葉月から解放された。

 花奈さんと久しぶりにデートする。そう思っていたんだが。


「向後さん」


 着替えを済ませて、寮の部屋を出た途端にアレに遭遇した。


「倉岡さん。どうした?」

「あの、今日、休みですよね」

「そうだけど」

「あの、デートしたいです!」


 そう言って頭を下げて手を差し出してる。

 デートは花奈さんとする、そう決めてるんだけど。倉岡は無いんだよ。若くて愛らしさが無いわけじゃない。だがしかし、君に用は無い。先輩として補佐できる部分はするけど、プライベートでの付き合いはー!

 俺の手が出ないから掴まれて引き摺ろうとしてる。

 これ、蟻地獄みたいな奴だ。巣穴に引き摺り込むべく、俺を二階へと。ああ、そうか、二階だから百舌鳥もずの早贄かもしれん。

 じゃねえ。


「こら。今日は用事があるから駄目だって」

「いつもお嬢様か中条さんと付き合ってます。なので、今日はあたしと!」


 いつもって、葉月の執事なんだから、それは当然だし。花奈さんは彼女として見てるから、付き合うのが当たり前。だよな?

 それにしても全身全霊込めて引き摺ろうとしてる。無駄だけど。さすがに鍛えた俺の前では、メイド見習いなんて軽くあしらえる。なんて思ってたんだよな。


「直輝さん」


 背中に冷や水。


「楽しそうですね。若いですから、きっと楽しめますよ」


 ぶつぶつ「やはり若さには敵いません」とか「年齢差は覆せないのですね」とか、そうじゃないから。俺は今無理やりさらわれそうになってる。花奈さんがひと言「私の旦那です」とか言ってくれれば、危機を逃れられるんだって。

 でも、そのまま外に出て行っちゃった……。なんで? 俺、今日期待してたのに。

 そうなると体中から力が抜けて、ずるずる二階へと連れ込まれる俺だった。


「向後さん」

「なに?」

「絡み合いたいです」

「却下」


 部屋に連れ込まれはしたが、抗い続けて見せる。花奈さんへの愛が勝つに決まってる。必ず最後にって奴だ。

 だから、なんで脱ぐ。


「服脱いでも無駄だけど」

「繋がるだけです」

「いや、だから」

「出し入れするだけですよ。簡単なことです」


 こいつの思考も葉月と同レベル。

 サイズ的にはやや小さめ。それでも枝垂れるそれを見るとね。やっぱ反応して来るわけで。

 まっぱで迫りくるメイド見習いが居て、それに抗う俺の構図。

 こんなのは葉月だけで沢山だ。これ以上、まともに相手してられるかっての。まあ、葉月は可愛いから、つい、許しちゃう部分もあるけど。


「やらないぞ」

「ください。そのいきり立つ熱き如意棒を」

「妙な例えは要らない」

「ひと目見て濡れたんです、溢れたんですよ!」


 変態め。

 俺のどこに魅力を感じるってのか。この前までは冴えない貧乏人。ここに来てからどうにも妙な出来事が多過ぎる。

 迫る倉岡をうっちゃるも、縋り付いて離さないし。こいつも体術訓練してるのか?


「逃げなくても」

「逃げるに決まってるだろ」

「ぶっ挿してくだされば」

「だから、しないんだって」


 ぶっ挿すってなんだよ。

 散々抗っていたけど、どうやら草臥れたみたいだ。持久力は乏しいみたいだな。


「駄目なものは駄目」

「なぜですか? こんなに溢れ返るほどに愛してるのに」


 そう言って広げるなっての。

 確かにあれだけど。


「俺を誘惑するのは訓練の一環でしょ。本当に繋がってどうするの?」

「同意があれば問題ありません。お嬢様とは違うんですから」

「それじゃ俺の訓練にならないでしょ」

「知りません、そんなの。欲しいと思っていただくのが悪いんですか?」


 あかんぞ。やっぱり葉月と同レベル。年齢的にもひとつしか違わない。だから似たような思考なのか。それともこいつと葉月だけが変態なのか。

 すっかりしょげたみたいだ。

 肩で息してるし。


「なあ、十八歳って言えば、いくらでもいい男に巡り会えるだろ。俺なんかに現を抜かすより、もっと視野を広く持ってだな」

「いい男ってなんですか? お金持ち? 見てくれがいい人? 優しいけどつまんない人?」

「そうじゃない。自分の中にある理想像だよ」

「向後さんが、理想だったみたいです」


 ねえだろ。

 ここに来るまで童貞だったんだぞ。花奈さんが初めての相手だ。


「勘違いだ」

「いいえ。この胸の高鳴りは嘘を吐きません」


 これはあれだ、妥協案を出すしかない。このままだと食われる。

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