Epi32 お嬢のご学友を連れ帰る

 風呂場で抱き締めて葉月の柔さを感じた。

 そのあとのベッドではマジでヤバかった。


「もう少しだったのに」

「入れたらアウトだ」

「入りそうだったのに」

「それは許可されてない」


 葉月が跨ってきて、危うく繋がるところだったが、縦横無尽の動きで舳先を動かし、ホールインワンを避けることができたが。

 もちろん繋がってない。それは避けなければならないからな。

 条件が緩くはなったが、今後も気を引き締めないと食われる。


「直輝。次は繋がるんだよ」

「無いから」

「あとね、そうなるんだって、初めて知った」


 縦横無尽なんて言い方だけど、実際は動いてる最中に漏れた。力無くしな垂れる股間では、葉月の中に入れるわけもない。結果、繋がらずに済んだのだ。

 そして今は俺に乗っかりいじってる。あんまいじるな。疲れ切ってるんだから。

 なんか幸せそうな顔しやがって。こっちは必死だったんだぞ。


「あ、ねえ。明日だけど」

「なんかあるのか?」

「友だち、前に言ってた退屈な子」

「ああ、そう言えば」


 お淑やかな子が居るとか言ってたな。俺の好みがお淑やかで清楚とか言ったから。

 実際に接してみればわかるが、確実に退屈する程度の子だとか。知らないからな。清楚でお淑やかな子がどんな感じかなんて。

 普通に男なら憧れそうだけど。

 休日にお邪魔しては悪いとなり、平日の明日に少しだけ、お邪魔するとなったらしい。なんかもっと自由でいいような。友だち同士なら。


「あだ名あるんだ」

「なんだ?」

「うふふ」

「は?」


 うふふちゃん、とか言われてるそうだ。笑う時にガハハとか、ぎゃはは、なんて、品のない笑い方をしない。手を口元に宛がい「うふふ」と笑うとか。あだ名を付ける際に「おほほ」か「うふふ」で迷ったとか。

 実際に「うふふ」や「おほほ」とは微妙に、ニュアンスが異なるからだそうだ。

 ただ、雰囲気で「うふふ」に決まったらしい。なんだかなあ。どうでもいいと思うんだが、本人はそれをどう思ってるんだ。


「気にしてない」

「関心がないのか?」

「じゃなくて、事を荒立てないの」

「よくできた子だな」


 だから退屈なんだとか。

 もっと感情を露わにすれば、友だちも増えて楽しい学園生活、となるのに、だそうだ。


「もし、あたしがうふふだとしたら、直輝に止められると従っちゃう」

「いいことだ。それでこそ淑女だろ」

「違うって。それだと直輝は振り向いてくれない」


 本気で欲しいなら感情をぶつけるしかない。真剣だからこそ感情の発露がある。それが無い人には真剣さすら見て取れない。いつも平静を装い、心の内を知ることもできない。それだとつまらないそうだ。


「ぶつかるから、本音が出ると思うんだ」

「まあ、それはあるとは思うけど」


 とりあえず明日は早い。さっさと寝よう。さすがに花奈さんと葉月まで相手にして、疲労困憊状態だ。


「寝るぞ。明日は学校だろ」

「なんか、興奮して眠れないかも」

「寝ろ。朝が辛いぞ」

「寝たいんだけど、直輝を好きすぎて」


 光栄だけどな、それはそれ、これはこれだ。

 額にキスしてやると歓喜してやがる。


「もっと」

「だから寝ろ。今のはおやすみのあいさつだ」

「もっと、口にとか」

「アホか」


 と言いつつも、つい口に。

 へらへらして嬉しそうだな。これ逆効果だったかも。


 朝になるとやっぱりな。

 ちっとも起きやしない。興奮して眠れず、寝入ったのは明け方も四時頃だった。


「葉月。起きろ」


 微動だにしない。うーんもすーんもない。

 このままだと遅刻するから、強硬手段を講じるしかないな。今の俺にできるかわからんが、それをすれば目も覚めるはず。

 お姫様抱っこだ。そして、そのままパウダールームに持参する。

 蛇口を捻り洗面台に頭を入れておく。この姿勢、やたら腰に来るな。腕もだるい。


 そしてやにわに冷水を浴びせると。


「ぶわっ!」


 びっくりして目が覚めたようだ。

 辺りを見回すようにして俺と目が合うと。


「直輝! なに? どしたの?」

「目覚めは如何ですか?」

「は?」


 説明したら怒ってるが知らん。遅刻するよりマシだ。


「御髪を整えておきましょう」

「なんで敬語?」

「公の時間です」

「そんなの要らない」


 身支度を整えてだけど、当然だが俺がすべての服を着せてる。ブラもパンツもだ。ブラなんて付け方を知らなかった。コツがあるようで、花奈さんに教わったが。しっかりあの胸で何度も試したからな。結果「いい感じです。せっかくのなので、このまま愉しみませんか」なんて言ってたけど。それに乗っかる俺だったし。


 食事もそこそこに呆れる旦那や奥様をよそに、登校することになった。

 車内でうつらうつらしてたけど、到着して鼻と口を摘まんだら、苦しくなって目が覚めたようだ。


「直輝! もっと優しく」

「優しさは時として人を駄目にします」

「ちがーう!」


 葉月を送り出し屋敷に戻り、室内の清掃を済ませておく。

 帰りはひとりおまけが加わるそうだ。例のお淑やかなお嬢様って奴だな。


 でだ、昼飯を食い終わると猛烈な睡魔に襲われ、自室で一休みすることにした。

 目覚めると迎えの時間ギリギリだ。間に合わないと文句出るだろうな。

 急いで出迎えに行くと少し遅れたようで、路上で待つふたりが居る。


「遅い」

「すまん。遅れた」

「それでこっちの子がうふふちゃん」

「初めまして。楠瀬くすのせ美桜みおと申します。本日はよろしくお願いいたします」


 なるほど、礼儀正しい。まあ最初だし。


「執事の向後と申します。こちらこそよろしくお願いいたします。何かございましたら遠慮なく申し付けください」

「執事なのですか? それにしては曽我部さんに対して、ざっくばらんな接し方なのですね」

「お嬢さまに、そう接するよう申し付けられていますので」

「そうなのですね」


 と言いながら葉月を見てる。それに対して当然だと言わんばかりだな。

 少々窮屈ですが、と断りを入れて車の後席に先に座ってもらい、葉月が乗り込み屋敷へ帰る。後席に乗せる予定が無かったからBRZにしたけど、友人を乗せる際の車、あった方がいいかもしれない。後ろは狭い。ツードアで後席に乗り辛いし。


「あ、一応ね、門限あるから」


 門限か。やっぱあるよな。


「何時?」

「六時」

「一時間も無いな」

「大丈夫。あたしが言えば伸ばせるから」


 強権発動って奴か。家の格はどうやら曽我部家の方が上なんだな。

 それでも夕飯前には帰すそうだ。

 ルームミラー越しのお嬢様。悪くない。

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