Epi25 お嬢さまと少々険悪になる
俺の前で肌を晒す変態が居る。豊かな胸はそれだけでそそられるけどな。でも無いんだよ。見事な裸体だけどな。その豊満な肉体は将来の男のために、もっと大切にしろっての。俺なんかにくれるものじゃないって。
「お嬢さま。お召し物を」
「やだ」
「わがまま言わずにお召し物を」
「向後。抱け」
抱けるわけないだろ、まったく。落ち込んだと思ったら無理強いだし。
「敬語禁止だって言った」
「お嬢さまがわがまま申し上げるならば、こちらも敬語で対応いたします」
睨んでも駄目だよ。
いきなり叫んで俺を叩くなっての。痛いだろ。でも、服は着てくれた。
その後、夕飯になりスーツに着替え食堂へ、お嬢を連れて向かう。
食事中、ずっと不機嫌だ。旦那様も奥様も勘付いてるようだけど。大旦那様と大奥様は知らん顔だな。なんか静かな夕食になってる。
食後に旦那と奥様に呼び出された。応接室前室に。
「向後さん。心当たりありますよね」
「拒絶したので機嫌を損ねたのかと」
「まったく……どうしたものか」
テーブルと椅子しかない部屋。それとお嬢の裸体画が、これ見よがしに飾ってある。
旦那と奥様は腰掛けているが、俺はもちろん直立不動だ。
「葉月の気持ちはわからんでもないんだが」
「でもねえ、まだ高校生でしょ。羽目を外せる年齢じゃないし」
「向後君はどうすればいいと思う?」
振らないで欲しい。俺に決定権なんて無いんだから。所詮は宮仕えみたいなもんだ。主の命令は絶対。犯罪以外は従って当然で、口答えなんてあり得ないだろう。
お嬢は所詮高校生だから、最終的な命令権者は旦那と奥様だし。
「旦那様と奥様の意に沿う形に」
ふたりして顔見合わせてるし。でも、そう答える以外無いっての。
「堅いなあ」
「そうね。もう少し融通利かせても」
「なあ、向後君。娘が真剣であるなら、多少の融通は利かせてもいいんだぞ」
真剣さなんてのは、子どもだからな。一年後にその気持ちを持ち続けられるか、と言えばさに非ず。どうせ飽きて他に目が向く。傷物にした、なんて不名誉な事実を残せるわけがない。仮に他所へ転職する際に不利になりかねない。
十八になろうが、二十歳になろうが手は出せない、ってのが事実だろ。
「契約の件もございますので、私はそれに忠実にあらんとするだけです」
呆れてるのか?
でも、契約書を作ったのは旦那か奥さんだろうに。
「じゃあ、契約内容を見直したら、今より少しは融通利かせてもらえるの?」
「内容次第でございます」
「まあ見直すって言っても、キスくらいまでだけどな」
想定外にお嬢が俺に惚れ込んだと思ったか。親としては卒業までは清く、ってのが望みだろう。それは理解するし、普通はそうだろうし。
だから卒業と同時に好きにすればいい、そう条件を出してるんだと思う。
「今のままが宜しいと愚考いたします」
またふたりで顔見合わせてるし。呆れ気味だし。
「まあ、またこんな感じなら、次はちゃんと考えよう」
「契約書は今のままで、これまで通りだけど」
「差し支えございません」
ため息吐いてる。
俺だって、もう少しましな家庭の生まれで、多少でも社交界を知っていれば、条件が緩むなら大歓迎だ。でも、なんの後ろ盾も無い貧乏人。お嬢を好きにできるなんて、微塵も思ってないし、将来一緒になる選択肢なんて一切ない。
だから手を出すことは絶対にない。
あとで文句言われても責任取れないからな。そのくらい、この一家と俺は隔絶した存在なんだよ。
一族郎党首括る羽目に陥るのが関の山だ。
解放されてお嬢の部屋に行くと、今日はいい、とか言われた。
まだ拗ねてるのか。まあいい。その方が気が楽だし。
寮に戻ると花奈さんが部屋に来た。
「お嬢様の様子」
「ああ、それ」
経緯を話すと苦笑してる。
「契約書や誓約書に忠実なのはいいことですが、たぶん旦那様も奥様も、多少のおいたは目を瞑る気だと思いますよ」
「でも、あとで言われるのもイヤだし」
「その辺は、なんとも言えないですけど」
ただ、あのお嬢のことだから、明日にはまた無茶を言い出すだろうと。これで大人しくなるような玉じゃないとも。
「少しだけショックだったんでしょう。あの年齢はまだ不安定ですし」
ということで、今日は花奈さんと軽く楽しむことに。相手が成人して大人であれば、両者の同意で好きにできる。互いに責任は折半だからな。メイドも執事も対等だし。
でもお嬢は違うんだよ。門地も教育も身分も何かも。そこを理解して欲しいものだ。分不相応な相手ってのは居るんだから。お嬢にはお嬢に見合う相手が居る。俺じゃない。
翌日、お嬢を起こすべく部屋に向かう。
ドアをノックするも出て来ないし、返事も無いから開けて中を見ると。
乳も腹もなんなら股間も丸出しで寝てやがる。
「お嬢さま。起床時間でございます」
普通の声量じゃ起きるわけも無いか。
一応目覚まし時計はある。それをお嬢の耳元に宛がいアラームをセット。一分後に耳元でけたたましく鳴る目覚まし時計だ。
振り払おうとするから、逆の耳元へ宛がうと、また振り払おうとするが、それを繰り返すこと数回。
「もー煩いっての!」
「お嬢さま。起床時間でございます」
俺を見て睨んでやがる。不機嫌そうだ。
「向後」
「はい」
「昨日、居なかった」
「お嬢さまが不要と仰られました」
それは違うとか言ってる。本心で言ったわけじゃない。本当は構って欲しかった。なのに素直に寮に戻って物凄く寂しかったと。だから、昨晩はひとりエッチに勤しんでしまい、寝坊したのだと力説してるし。なんだそれ。
「着替え」
「はい」
まあ、すでに丸出しだから、普通に服を着せるだけだ。
歯磨きや洗顔、そしてヘアセット。身だしなみを整え食堂へ。
「お嬢さま。あまりゆっくりしていられません」
「ご飯くらいゆっくり食べたい」
「起床時間を守って頂ければ、余裕を持って朝餐を頂けます」
「むー」
食後にまた歯磨き。御髪を整え制服を整えると、車へとご案内だ。
「これ?」
「そうです」
「中条のと一緒」
「いいえ。少し違います」
BRZとGRハチロク。見た目はほぼ一緒。だが細かくセッティングが違う。
車に乗り込むが、お嬢が乗るのはナビシートだ。後席に乗るわけでは無い。
「では向かいます」
「どこか知ってるの?」
「調べておきました」
あとはカーナビを補助にすれば、問題なく辿り着けるだろう。自信は無いけど。
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