Epi20 夜は危険がいっぱいだ

 朝、特に午前中は何かと忙しい。

 だが、業務を終えると自由時間。そうなると身の危険が生じてくる。頼みの綱の花奈さんはさっさと自室へ籠った。

 残された俺と新人メイドの倉岡さん。まだ十八歳かよ。


「あの、案内を」


 已む無し。


「えっと、何号室?」

「二〇六号室って聞いてます」

「着替え……は部屋に用意してあるか」

「あの、お風呂も入りたいんで」


 濡れたままを放置は無いか。

 仕方なく階段を上がり二階へと向かう。階段を上がると両側に廊下が伸びる。左側奥から一号室、右側奥が七号室。つまり、奥からひとつ手前。

 二階に上がると青沼さんが居る。なにしてる?


「向後さんって、モテるんですね」

「そんなことないけど」

「私の裸を見ても、ちっとも手を出して来ません」


 毎日のようにトイレで全裸披露してるのに、とか。いやあの格好見たら引く。そっちの趣味は無いし。至ってノーマルな趣味しか持ってないし。


「若い子が来て張り切ってますか?」

「それは誤解」

「じゃあ、その子ともなにも無いんですね」

「当然」


 急に腕が引っ張られた。誰? と思う間もなく倉岡さんだとわかるが。


「あの、部屋に」

「ああ、そうだった」

「向後さん。中条さんといい感じなのはわかってますが、たまには私も相手してくださいね」


 頭痛い。

 倉岡さんの部屋に向かうと、諦めたのか自室に籠る青沼さんだ。そうかと思えば、部屋のドアが少しだけ開いて、ねえ、それ怖いからやめて欲しい。


「花奈さん」

「あ」

「気になるなら一緒に」

「だ、大丈夫ですから」


 ドア閉じてるし。なんだかなあ。でも、嫉妬してるみたいで、なんか嬉しくなった。さっきは事務的だったら、あんまり気にしてないのかと思ってたし。

 俺って愛されてるんだよね。たぶん。

 倉岡さんを部屋まで案内して、さっさと着替えに戻ろうと思ったら。


「あの、まだ説明を」

「特にないけど」

「えっとですね、その」


 無理やり部屋に連れ込もうとしてるし。なんでこんな初対面で積極的なのか。


「あ、そうです。起床時間とか、どこに集まるのかとか、朝ご飯の時間とか」


 面倒な。そんなの誰か説明してるだろ。


「最初に説明されてないの?」

「えっと、忘れちゃいました。緊張してたので」


 で、部屋に強制的に連れ込まれ、そうなるとせっせと服を脱ぐ人が居る。

 なんでここのメイドって、恥じらいが微塵も無いの? もしかして、そういう人だけ集めてるとか? どんな面接してるのか気になってきた。

 ドアに視線を持って行くと、頭掴まれて見せ付けられてるし。

 いや、まあ、服の上からでもわかったけど、スリムな体型に豊かではないが、形の良いブツがふたつ。腰回りは意外にもしっかりしてるし。じゃねえ。


「あの、他の人みたいに豊満じゃないですけど」

「いやあのね、若いからいいんじゃないの」

「欲しくならないんですか?」

「間に合ってます」


 とにかく逃げよう。


「俺はこの後、お嬢さまの相手をするんで」

「でしたら、明日また教えてください」

「教育係は他に居るでしょ? 誰だっけ? か、中条さん?」

「えっと、確かメイド長直々にとか」


 大変そうだ。でも知らん。


「じゃあ、懇切丁寧に理解が及ぶまで、徹底的に叩き込まれるだろうから」

「ちょっと不安に」

「いじめるわけじゃない。ただ厳しいかもってだけで」

「あの、酷い目に遭ったら慰めてくださいね」


 ええい、面倒な。いくら顔が怖くても酷い目なんて無い。俺は当初信頼が無かったら、扱いもそれ相応だったけど、今は普通に接してくれてる。

 そう言って部屋をあとにした。

 誘いに乗ってたら間違いなく食われてただろう。


 部屋に戻り着替えを済ませる。パジャマに……これなんだ?


「まさかの貞操帯だ」


 こんなの用意するのって。花奈さんしか居ないよな。俺に信用がないのか、お嬢が強硬手段を取ると確信してるのか。

 とりあえず用意されているなら、俺の股間を守るためにも付けておこう。

 ただ、用足しの時に面倒ではあるな。まあ仕方ない。


 貞操帯とバスタオルを持参しパジャマを着て、その上からガウンを羽織る。


「いざ出陣」


 お嬢の待ち構える部屋へと。

 屋敷の通用口からこんばんわ。入るとお嬢の部屋に突き進む。

 部屋の前に来るとドアを三回ノック。するとお嬢が飛び出して抱き着こうとする。


「お嬢さま、お戯れはほどほどに」

「抱き着くくらいいいでしょ」

「キスしようとしてましたね」

「そのくらいいいじゃん。好きなんだから」


 駄目。それは禁止。理由は知らないけど、奥様からも禁止されてる。揉んでいいと言いながら。基準がわからん。


「向後。お風呂入るから」


 来た。背中流しの刑。耐え切れなかったら、最低でもクビなんだろうな。股間ともさようならだ。花奈さんとも終わりになるから、なにがなんでも抗う。

 お嬢のあとを付いて行き、風呂場に着くと、さっさと脱ぎだす。さすがに裸そのものは何度も見てる。年齢に見合わない見事な姿態。普通の男ならノックアウトされる。


「向後、さっさと脱ぎなさい。服着て入る気?」


 仕方ない。貞操帯を付けておけば良かった。

 脱ぐと覗き込もうとする変態が居る。見るな。すでにてんぱってる。股間は。お嬢の素晴らしい裸体は問答無用で、刺激してくるからなあ。なんでこんなに魅力的なんだよ。


「向後」

「なんですか?」

「握っていい?」

「駄目」


 手をワキワキさせながら言うな。

 とりあえず背中を押して風呂場へ。


「背中」

「畏まりました」


 シャワーを掛けて濡らしたら、ボディタオルを泡立て、そっと背中に当てる。


「当ててるだけじゃ汚れ落ちないんだけど」

「存じてます」


 そっと背中を洗う。滑らかな、それでいてピッチピチだ。水を弾きまくる若い肌は、さすがに花奈さんでも敵わない。

 なんて考えてたら、手を掴まれて揉まされてるし!


「お嬢さま。それは反則です」

「好きにして欲しい」

「いけません」

「全部洗え、隅々まで、全部」


 無茶言うな。俺の仕事は背中を流すまでだ。前だの股間は自分で洗えっての。思わず流されそうになるだろ。あまりに魅力的過ぎて。自覚してやってるんだろうけど。


「ご自身でどうぞ」

「向後。優しくして欲しい」

「ご自身でどうぞ」

「繰り返すな! 洗って欲しいんだってば」


 ねえんだよ。何させようとしてるんだよ。

 暫しのやり取りのあと「今回は諦めるけど、次は舐めさせる」じゃねえっての。

 お嬢に当てられて頭おかしくなりそうだ。

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