Epi17 デートに邪魔が入った

 伊勢丹をあとにし御苑まで歩く。これが花奈さんならまさにデート気分で、楽しいんだろうけど。隣に居るのが変態なんだよな。


「ねえ。今日一緒にお風呂入るんだよね?」

「ごめん被りたいけどな」

「女子高生の裸が拝めるのに、なんでそんなに嫌がるの?」

「女子高生だから」


 意味わからんとか言ってる。普通はよだれ垂らして、先っぽから漏れるほど、嬉しいはずだとか言ってるし。この関係性じゃなけりゃね。たぶん鼻血もセットで漏れてただろうよ。

 お嬢に手を出すと股間にあるブツが無くなる。そんな条件が付与されてて、なんで喜べると思うのか。代わりに花奈さんといい関係になれたけど。他には青沼さんも誘惑してくるんだよな。相変わらず全裸で立ちションだけど。あれ、なんとかならんのか?


「パパとか爺の言うことなんて、聞かなくていいのに。本気で切り取ったりしないよ?」

「爺って……。でも約束だから。決まり事を守れない執事に、任せる気になる主っているのか?」

「そうかもだけど」

「約束は約束。本気か脅しかは関係ない」


 やっぱ堅いとか言ってる。


「チ〇コだけ硬いって無いんだね」

「あのさあ、さっきからそれ、やめない?」

「なにを? チ〇コ?」

「はしたないとか思わないのか?」


 ぶら下がってるか割れてるかの違いしかない、とかじゃない!

 年頃のお嬢が口にする言葉じゃないんだが。


「でも、学校だと平気で口にしてるよ」

「女子同士だろ? 男子を前に言ってる奴なんて見たこと無いぞ」

「女子高だから」

「じゃなくて、共学で」


 そんなの知らないじゃねえ。

 明け透けなのはいいが、度が過ぎるんだよな。もう少しオブラートに包むとか、恥じらいってのがあれば、また可愛らしさも際立つんだけど。

 顔が可愛いだけに勿体ない。この変態っぷりが。


「ねえ、向後」

「なんだ?」

「あたしのこと、嫌いなの?」


 気になるのか?


「嫌いではない。でも好きでもない」

「そっかあ。じゃあさ、好かれるような言動ってなに?」

「お淑やか。清楚。純情とかかなあ」

「当て嵌まってる」


 どこがだよ。自分を客観的に見られないのか。どう見ても爛れた不純な女子だろ。

 遊び歩いてると言われたら信じる程度に。むしろお嬢様とは思えないほどに、変態を極めてるし。


「自己の客観視をした方がいい」

「だって処女だよ。口ではいろいろ言ってるけど、経験無いもん」


 まあ、それはそうだ。

 入園料を支払い御苑内を散策するが。午前中はともかく午後になると暑い。日陰を探して歩く感じだ。


「あとね、向後だから全部見せたい。向後だから抱いて欲しい。向後だから見たいし触りたい。触れ合っていたい。キスだってしたい」


 惚れてるってことだよな。確かに好きになれば欲しいと思うのは自然だ。別に男とか女とか関係ない。

 なんか、困ったもんだ。あと一年も無いんだから、我慢して耐えてくれ、としか言えない。


「そこのベンチにでも腰掛けるか?」

「喉乾いた」

「じゃあ、なんか買ってくるから座って待ってろ」


 どこかに売店か自販機があったよな。

 探して飲み物を買って戻ると、数人の男に囲まれてるし。なんだあれ。

 まあ、さりげなくお嬢に声を掛けるか。


「買って来たぞ」


 数人の男ども。なんて言うか、大学生くらいに見える。


「なに?」

「お前誰?」


 なんか腹立つ。お嬢は俺を見て「なんか座ってたら声掛けてきた」とか平然としてるし。

 こんな場所で揉める奴は居ないだろうけど、勝手なことをされても困るからな。一応執事だし守る義務もあるし。こんな時のために。


「俺、彼女の彼氏だけど、あんたらなに?」

「彼氏?」

「だせえ」

「うざっ」


 ガラ悪い。バカはどこにでも湧いてくるんだな。ここって由緒正しい場所だぞ。どうにも似つかわしくないバカが湧いてくるんだな。どこの田舎から出てきたのか知らんが、さっさと離れるに限るな。


「少し移動しようか」


 お嬢にそう言って手を差し出すと、喜んで俺の手を取り立ち上がる。

 けどさあ、邪魔しないでくれないかな。


「俺らにも話させてよ」

「なあ、こんな可愛い子、独り占めは良くないだろ」

「少しは楽しませて欲しいぜ」


 下衆。

 お嬢を見るとやっぱり平然としてる。慣れてるのか?

 人目が多いから手を出すことはないだろう。お嬢の手を引いて男どもの間をすり抜け、別の場所に移動すると付いて来るし。


「分けてくれよ」

「ちょっとでいいんだけどな」

「使い終わったら返すからさあ」


 すげえ腹立ってきた。それでもこっちから手を出せない。

 と思ってたら、お嬢が蹴り入れてるし! だからなんで揉め事になるようなことを。


「いてっ! こいつ」

「反抗的」

「犯すぞ、こら」

「向後。許可するから殴り殺していい」


 アホか。殺していいわけないだろ。確かにこの程度の奴らなら、軽く往なせそうだけど。だからって手を出したら駄目だっての。

 お嬢を捕まえようとするバカが居るが、周囲の目を気にしないのか? すぐに守衛が飛んで来るぞ。


「守衛が来るぞ」

「ちっ」

「くそ」

「てめえ、覚えてろよ。そのツラ覚えたからな」


 下衆どもが。脅し文句もあまりに定番。

 それにしても。


「葉月。なんで蹴った?」

「むかついたから」

「駄目だって」

「だって、好き勝手言ってた。クズの癖に」


 それはそうだけど、先に手を出したら正当防衛も成り立たん。たとえ相手がクズでも耐える必要がある。法律がおかしいと言えばそれまでだけど。

 俺が居るからまだなんとかなっても、お嬢だけだったら、確実におもちゃにされて捨てられるぞ。世の中には良心の欠片も無い奴も居る。それを前提にした法になってないんだよ。だから耐えるしかない。


「まったく、面倒ごとは勘弁して欲しい。確かに葉月の言い分もわかるけど」

「じゃあいいじゃん」

「それだと後で報復される」

「ぶっ殺せばいい。あんなのに人権は要らない」


 法治国家だし人権はなにより尊重される。だから無理。

 それにしても、なんか下衆の邪魔が入って白けた。


「次、こんなケースがあったら俺に任せてくれるか? 葉月に何かあったら責任取れないから」

「一分以内に処理するなら我慢する」

「いや、それ無理」

「じゃあ二分だけ待つ」


 大差ねえだろ。

 これ、次はお嬢を下げておく必要があるな。


「ねえ」

「ん?」

「葉月って呼んでくれてる」


 そう言えば、つい呼び捨てしてた。

 嬉しそうだけど。


「いつもそれだと独占されてるみたいで、なんかいいな」

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