Epi14 お嬢さまと執事の初攻防

「それでは、向後さん。お嬢様のお相手をよろしくお願いします」

「はい」

「向後! さっそくだけど部屋に」


 ちらっと花奈さんを見ると、ため息混じりに頷いてる。入れってことだよな。

 仕方なくお嬢の部屋に入ると「じゃあ、中条。向後は頂いた!」とか言ってるし。食われる気は一切無いからな。


「お嬢様。大奥様に申し付けておきますから」

「だから、それはやめて」

「でしたら節度を持って接してくださいね」


 なんか不満そうだが、さっさと部屋のドアを閉じて、でだ、俺を見て舌なめずりしてるぞ。

 早々に変態炸裂か?


「向後。ベッドに座って」

「いえ。執事ですのでお嬢様のベッドには座れません」

「主がいいって言ってるの」

「いいえ。大旦那様や旦那様より申し送りされております」


 そこで地団太踏むなよ。駄目なものは駄目なんだよ。

 じっと見つめてきたと思ったら。


「もっと砕けていいんだけど」

「屋敷内ではこれがスタンダードにございます」

「いやだ。堅すぎる。チ〇コは硬くていいけど」

「申し訳ございませんが、これは取り決めでございます」


 チ〇コじゃねえっての。だったら外に出ようとか言い出してるし。

 スーツ姿だから、余計に堅っ苦しいんだ、とか言ってるけど。まあ、この服の時はフォーマルだって決まってるし。


「出掛けるから着替えてきて」

「畏まりました」


 不気味な笑い方してるけど、外でも手籠めにできると思うなよ。

 一旦、寮へ戻りTシャツにジャケット、デニムにスニーカーの出で立ちになり、再びお嬢の部屋に出向こうとしたら、向こうから来やがった。


「向後。準備できた?」

「できております」

「じゃあ、出掛けよう」

「どちらへ?」


 俺の手を取ろうとするから、かわすと空を切るお嬢の手だ。


「向後!」

「はい」

「手くらい繋いでもいいでしょ」

「いいえ。立場がございます」


 だから、そこでバタバタ暴れるなっての。まったくわがままなお姫様だな。

 速攻でまた俺の手を取ろうとするし。それをかわすと悔しそうだな。体術訓練の成果は如何なく発揮されてるようだ。お嬢程度なら軽くあしらえる。


「パパに言って、腕組みと手繋ぎとキスを認めさせる」

「それは辞退させて頂きます」

「なんでよ!」

「執事の仕事に含まれておりません」


 それは今後の恋人のために取っておけと。そう言ってみたら「向後はあたしの恋人になる。だからセックスもし放題」とか抜かしてるし。ねえんだよ。俺の彼女は花奈さんで、将来結婚したい筆頭なんだから。

 こんなど変態と恋人なんてあり得ない。人間腐るぞ。


「パパに直訴してくる」

「お供いたします」


 ドスドスと床を踏み鳴らし寮をあとにすると、母屋に居るであろう旦那様の所へ。

 旦那も今日は休日でのんびり部屋で過ごしてるようだ。

 前をガニ股で歩くお嬢のあとを付いて行き、旦那様の部屋の前に立つと、豪快に蹴りを入れてノック擬きをするお嬢が居る。はしたないなあ。


「パパ! 話があるんだけど」


 さっさとドアを開けて部屋に入るお嬢だ。

 旦那様、びっくりしてるぞ。「な、なんだ? どうした?」とか言ってるし。急に来てドア蹴って勢いよく開け放ち、話があるとかワケわからんだろうな。


「向後のことなんだけど」

「あー、なにか不満でも?」

「不満だらけだっての! なんで手も繋げなくて、腕も組めなくて、キスもできないの?」

「それはだな。まあ、執事だし」


 お嬢曰く、欲しいのはセックスフレンドだとか言い出した。いやいや、女子高生がそれってどうなんだよ。ついでに恋人であり友人だとか言ってる。一番はセックスフレンドか。友人とかは二の次だろうな。

 執事なんて本当は不要なんだろう。


「いや、あのだな。まだ高校生だし」

「関係ない。あたしは向後の体が欲しい」


 旦那様、額に大量の汗かいてる。父親だと対処不能か。これはあれだな、奥様に登板願う方が。


「旦那様、少々席を外させて頂きます」

「逃げるのか?」

「いいえ。奥方様を」

「そ、そうか。じゃあ頼むよ」


 奥様を呼びに行こうとすると、ドアの前に立ちはだかるお嬢だな。どうするか。


「旦那様。お嬢様に手を触れることの許可を頂けますか?」

「あ、ああ、いいぞ」

「では、遠慮なく」


 お嬢の腕を取り軽く振り回し、横に追いやりさっさと部屋をあとにする。


「こうごー!」


 喚いても無駄だ。さっさと奥様の部屋に向かおう。

 廊下に出ると猛烈な勢いで俺に突進するお嬢が居る。まさに猪突するケダモノだな。

 だが、それをかわしつつ、奥様の部屋に辿り着きドアをノックする。すぐ傍で何とか阻止しようと暴れるお嬢が居るが、今の俺の敵ではない。


「奥様。お嬢様の件でお話しがございます」

「駄目だってば! あたしの気持ちを少しは汲め!」

「いいえ。執事としての業務以上のことはいたしません」

「あたしがいいって言ってるの!」


 知らんっての。食われてなるものか。股間が無くなる。

 少しすると騒々しさからか奥様が顔を出す。


「なにしてるの?」

「お嬢様の暴走を止めて頂きたくお願いに上がりました」

「暴走?」

「ママは関係ない」


 すぐに察したようだ。お嬢の手を取ると「部屋に入りましょうか?」と言って、部屋に連れ込まれている。こっちを見て必死の形相だな。これは結構な折檻があるのかもしれない。

 少々冷めた微笑みを見せる奥様だ。なんか怖いぞ。


「向後はそこでお待ちくださいね」

「畏まりました」


 左腕を腹の辺りで曲げ当て会釈し暫し待つことに。

 ドア越しにささやかに聞こえる悲鳴。ケツ百叩きでもしてるのか?

 暫くするとドアが開いて「入っていいですよ」と。

 部屋の中を見ると床に座り込むお嬢が居た。泣いてんのかよ。顔がくしゃくしゃだろ。本来は可愛すぎるくらいに可愛いのに。


「初日からごめんなさいね。それでね、指一本触れないのは、さすがに厳しいので手を繋ぐ、腕を組むまでは許可します。キスは申し訳ないけど」


 手繋ぎと腕組みはしてもいいようだ。泣いて懇願したんだろう。まったく、しょうも無いお嬢だ。まあ、そんなところは可愛いと思うけどな。


「畏まりました」

「あとね」

「はい」

「背中を流すのもあるから、体に触れるのは許可しておきます」


 それもあったんだ。触れるって言っても背中を流すだけ。普通は触れずともできるだろ。


「あとね、少しは触ってあげてね。揉んでもいいですよ」


 それはあかんだろ。

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