Epi13 研修終了でお嬢付き

 ついに研修期間が終了した。これからは花奈さんとは別行動。休日以外はお嬢にひたすら付き従う。なんか花奈さんがいつも隣に居たから、それが当たり前に感じて寂しいかも。


「寂しいって感じが」

「私もです。でも、お嬢様付きなので已むを得ません」

「そうなんだけど、なんかなあ」

「休日は目いっぱい愉しみましょうね」


 まあそれしか無いわけで。


「くれぐれもお嬢様に惑わされないように」

「肝に銘じておきます」

「抑えきれない時は私がすべて受け止めますから」

「えっと、よろしくお願いします」


 今後、隙あらば俺の股間を狙い、食らおうとするだろうと。特に就寝中は可能であれば、貞操帯を身に着けるくらいでないと、確実に入れられてしまうそうだ。

 そうなると俺の股間はそれを最後に見納めになる。お嬢がそれを理解し我慢してくれるか、と言えば「理解はしても欲求に抗いませんから」だそうだ。結果を予測した行動を取れる程に、考えて行動しないのがお嬢だとも。


「なんか、躾」

「そうですね。自由奔放が裏目に出てます」


 親の教育方針なのか、枠に嵌めず自由に育てていたら、性欲過多の変態が仕上がった。それでも女子高通いということで、悪い虫との交際は一切ない。

 まあ、今も処女を貫き通してる、というか、相手ができない。


「理想像は高いはずです」

「でも俺」

「そうですね。ただ、刺激してくれますよ。性欲を」

「それが意味不明なんですけど」


 フェロモンを振りまいてるんじゃ、なんて思えるほどに、なんか傍に居たくなるそうだ。俺の顔がエロいのか? いや、エロい顔なら女性が引くだろ。

 そして研修最終日の夜は、互いにこれでもかと萌え上がった。花奈さんの隅々まで、俺の隅々を。いや、まあ、なんて言うか萌えすぎて腰が痛いんだが。

 ベッドのシーツもヨレヨレだ。互いに激しかったからなあ。これ、隣の部屋に音聞こえて無いか?


「防音はしっかりしてますよ」

「だよね、上の音も聞こえなかったし」

「使用人の寮ですが作りは母屋と同等ですから」

「なんかいいのかって感じだけど」


 大旦那の意向で安普請な建物は却下だったとか。どの建物も最高グレードで、と建築時に要望したとか。建築費用に糸目をつけない。ゆえに寮として使用している、この建物も一般住宅を遥かに凌駕する。快適なんだよな。

 暑さも寒さも浸透してこないし、音もほとんど聞こえてこないから。


 この日は最終日ということもあり、花奈さんの部屋で朝まで過ごした。


「直輝さん朝です。初日から遅刻だと貪られますよ」


 目を開けるとそこには花奈さんが居て、にっこり微笑んでるし。これ最高だよな。


「目を覚ましてくださいね」


 俺の手は自然に花奈さんの豊かな胸を掴んでたし。感触最高なのが欠点だな。抗いきれないんだから。

 だが、いつまでも楽しんでいるわけにはいかない。お嬢への初日のあいさつが一秒でも遅れたら、俺の股間を揉みしだく、なんてバカなことを言ってたからな。一分遅刻で食らい付き、五分遅刻で性交へと至るとか。

 初日から去勢されたら堪ったもんじゃない。花奈さんと愉しめなくなる。


 名残惜しさはあるが、気持ちを切り替え起き上がり、喚く股間をどうにかと思っていたら。


「鎮めておきましょう」


 と言うや否や、しっかり放出させてもらった。


「では、身支度を済ませてごあいさつですよ」

「はい」


 ここからはプライベートではない。公私混同は避けるってのも、散々叩き込まれているからな。

 自室に戻ると新調されたスーツに着替える。これまでのスーツは処分だそうだ。新たに替えも含め五着のオーダースーツが用意されてる。ワイシャツは都合十着。ネクタイに至っては二十本。ポケットチーフも二十枚。ハンカチも二十枚。靴は五足。

 なんて言うか、身だしなみには気を使えってことだ。


 そして、送迎用に着る服だが、スーツじゃない。

 今の時期はTシャツにジャケット、デニムが標準だった。靴はスニーカーだし。


「スーツ姿の男が送迎していたら、どこのお嬢様だとなりますから」

「ですよね」

「屋敷内ではスーツ姿で」


 辛うじてバトラー試験に合格した。

 実は一週間前にバトラー試験を受けている。そこで合格すれば晴れてお嬢付きの執事。不合格ならまた三か月の研修。しかも減給処分付き。三か月間、何をしていたのか、って判断されるからだな。

 ただ、本来ならば一年は研修に費やしたかったとか。完璧な執事としてお嬢付きにしたかったと。しかし、お嬢のわがままで一か月でも長い、とか喚いて結果三か月になった。不完全な部分は、逐次他のメイドがフォローする条件付きだ。


「不明な点や戸惑うこともあるでしょう。その時は私を頼ってくださいね」

「お手数おかけいたします」


 そして、車も送迎用に一台、俺の好みの車を調達してもらえた。免許は労なく取れたからな。

 そして車はBRZだ。GRハチロクと思ったが、少々アグレッシブだから、もう少し大人しめ、ってことでBRZにした。

 エクステリアはほとんど同じだけどね。挙動の部分での安定性が違うし、ショックの調整も違うから乗り心地に影響してくる。


「でも、どうしてです?」

「花奈さんの颯爽とした運転姿に憧れたからです」

「私の? 光栄ですけど他にいくらでも選択肢は」

「花奈さんだからです」


 三か月間、ずっと花奈さんと行動を供にしてきた。俺的には完全に虜になってる。花奈さんが同じかは知らない。でも、この気持ちはずっと持ち続けたい。

 きっと本気で花奈さんを愛してるんだと思う。


 学校は休日。お嬢は部屋で待ち構えているそうだ。


「では、行きますよ」

「はい」


 少し緊張するが、あのアホっぷりを見れば、緊張も無くなりそうだ。

 寮から母屋へと移動し、玄関を通り二階へと上がると、後はお嬢の部屋に突き進む。

 ドアの前に立ちノックを三回。

 叩き終わる前にドアが開き、お嬢が飛び掛かって来た。


「待ってた!」


 抱き着こうとするのをかわし、横に薙いで床に打ち付けないよう、体を支えると。


「向後。身のこなしが」

「当然です」

「抱いていいぞ」

「いたしません」


 横には苦笑いする花奈さんが居て「お嬢様。本日付で向後がお嬢様付きとなります」と言ってる。


「節度を持って接してください」

「知らない」

「向後は執事です。夜伽をする相手ではありません」

「知らない。食らう」


 これは、相当手を焼かされそうだ。

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