Epi7 クリーンヒットで悶絶死

 見た目は普通の、師範代で三戸部さんとか。強面で筋骨隆々かと思ったら、なんか少し拍子抜けするくらい普通の人。一応道着を着ているから、それらしく見えるけど。


「向後君は格闘技などの経験はありますか?」

「ありません」

「柔道もないのですか?」

「ないですね」


 スポーツと言えばありきたりな、サッカーや野球にバスケにテニス。武術の類はもちろん未経験。まるっきり素人。

 ということで体術に関して説明をされた。暴漢に立ち向かう上での心構えや、いざとなったら人を呼ぶ。身を挺して守るのはいいが、死んでは元も子もない。引き際や守護対象者の逃走経路確保など。

 特に刃物を持っている相手には、無暗矢鱈と立ち向かわないことなど。

 一通り説明が終わると次は体を動かすようだ。


「それでは、まず基本動作から始めましょう」


 所謂、型。

 三戸部さんに指導されて型を真似してみるが、どうにも締まらないようで。

 それと、中条さん、ずっと見てるんだよ。仕事しなくていいのか? 真剣な表情じゃなくて、なんか子どもをみるような目つきだし。誰でも最初はこんなもんでしょ。

 急にできたりしたら、逆にびっくりするよね。


「右腕はこの位置に。左腕は引いておきます」


 細かく指導されてる。

 基本の型をまずは形になるまで、何度でも繰り返し覚えさせられてる。


「攻撃することより受け流すことを覚えてもらいます」


 殴り掛かってくる相手に対しては、いちいち反撃するのではなく往なす。


「喧嘩をするわけではありません。あくまで逃げることです」


 殴り合いは無駄な労力を強いるだけでなく、自らの身も危険に晒すだけで無意味だと。余程の力量差がない限り一発でKOとか無いそうだ。プロボクサーならば可能かもしれないが、反撃して倒してしまうと自分が不利になる。過剰防衛になりかねないからだそうだ。

 格闘技を身に着けたら攻撃はしない。往なすことを目的とし、その場を逃れることが何より大事だそうだ。


「物語では華麗に打ちのめす、そんな描かれ方をしていますが、ありえません」


 守るべき対象者の安全確保が主であり、力でねじ伏せるのは愚か者のやることだそうだ。それをやると報復の連鎖になるだけで、何の解決にも至らないらしい。しつこく絡む相手は警察に任せるのが一番だとも。

 それなりに構えが様になると、次は受け身を取らされる。


「一か月間これを繰り返します」


 型と受け身。これをひと月。体に馴染ませるそうだ。


「受け身が取れると怪我をしにくくなりますから」


 今後、型が身に着き受け身が取れるようになったら、組手もやるそうだけど。

 組手は敵に拘束されそうになった場合、逃れる手段として覚えておくものだとか。


「相手に絡め取られて身動きできない、そんな状況の打破を目的とします」


 羽交い絞めにされて動けないようでは、対象の保護は不可能になる。

 ゆえに逃れる術を身に着けるそうだ。


 でだ、せっかくサポーターを装着しているからと、試しに金的を受けてみよう、と言われた。

 いやいや、それは嫌だ。死ぬ。


「加減はしますよ。痛いのは痛いですが」

「遠慮したいんですが」

「潰れたりはしません。そんな無茶はしませんから」

「俺、痛いの嫌なんです」


 だがしかし、後ろから中条さんに羽交い絞めにされた。いつの間に後ろに回ってるんだよ。しかも豊かな胸が押し付けられてるし。逃れようと思ったけど中条さん、微動だにしないんだよ。もしかして体術も身に着けてるってか?


「中条さんも体術は習っていますからね。今のあなたくらいなら軽く制圧できますよ」


 やっぱそうなんだ。


「では、軽くひと蹴り」


 そう言って至近距離から蹴り上げられた!

 お、俺の、大切な玉に激痛が走り、呼吸できず、うずくまろうとする体は固定され身動きできず……。


 天井が眩しい。


「大丈夫ですか?」

「加減はしたつもりなんですが、本当に痛みに弱いようですね」


 ふたりが上から俺を覗き込んでる。

 どうやら少しだけ気を失っていたらしい。


「今日はこのくらいにしておきましょう。明日からは痛みに弱い、向後君向けの訓練をしましょう」


 痛いのは無しで。


 体を起こされて中条さんの肩を借りて自室へと戻る。

 実に情けないと思うも、普通は耐えられないと思うぞ。急所って言うくらいなんだから。

 肩を貸してくれてる中条さんだけど、見ると無表情だ。


「あの」

「なんですか?」

「情けない奴、とか思いました?」

「思ってません」


 部屋に辿り着くとベッドに寝かされた。


「思っていた以上に痛いのが苦手なようですね」

「だから言ったじゃないですか」

「ただ、暴漢は目的のために手段を選びませんから」


 そう。だからこそ、訓練が必要なんだろう。

 暫し天井を見ていると、だから、なんでジャージの下を脱がしてる!


「あ、ちょっと、何してるんです?」

「問題ないか視診と触診を」

「いや、だから、あの」


 勢いよく脱がされると、パンツも脱がされ丸出しにされてるし!

 でだよ、中条さんの指先が優しく患部をまさぐってるし。ねえ、ヤバいってば。


「問題なさそうですね。しっかり機能していますし。あとはきちんと出れば」


 いやーん! 犯されてるし。でも、心地いいから、つい任せてしまう俺って。


「正常に機能しますね。これなら大丈夫でしょう。後遺症とか無いはずですし」


 そもそもサポーターで守られてるから、痛みはあっても潰れていない。だから問題ないはずだと言ってる。

 とは言え、鍛えにくい部分だけに、攻撃を受けないようにするのがいいと。


「それも教えてもらえると思いますよ」

「そうして欲しい」


 ちなみに、痛みを感じる理由でよくあるのは、サポーターの位置がずれたりして、きちんと守れていない場合だそうだ。今回は羽交い絞めにした際にずれたらしい。だから効果が不十分だったと。

 とりあえず金的は今回限りだから、痛いのもこれでお仕舞だそうだ。


「いい経験になったと思います」

「こんな経験は要らない」

「もうやらないので安心してください」


 そう言って、まだ丸出しの股間を漁る中条さんだった。

 あの、それをされると。


「また元気になってますね。これならまた出せそうですね」

「嬉しいけど勘弁して」

「またタメ口になってますよ」

「あ」


 今回は構わないとか言ってる。


「せっかくなので、童貞喪失はどうですか?」


 なんてすばらしい提案、とか思う俺ってやっぱアホだ。

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