第5章 ⑧

 あっという間に学祭は終わってしまい、先生の話も上の空で聞いて、片付けが終わるとそのまま後夜祭の時間になっていた。


 薄暗くなった校庭でキャンプファイヤーを囲んで、出し物がどんどん進む。

さっきの慈炎の言葉がずっと頭の中をぐるぐる回って出し物に全然集中できなくて、みんなの笑い声がすごく遠くに聞こえた。

 帰らないでって言われて、すごく嬉しかった。未来がないのは分かっているけど、離れたくない。一緒にいたい……。


 すっかり日が暮れてあたりが真っ暗になるころ、最後のフォークダンスの時間になる。少し割れた音でテープレコーダーから陽気な音楽が流れだすと、体育の授業の最後に少し練習しただけの拙いステップで、みんなが一斉に踊りだす。

 慈炎はわたしの5こ向こうだから、きっとすぐに順番が回ってくる。そう思うだけで体が熱くなる。くるりと回るたびに慈炎の長い髪が流れるのを目で追っていた。


あと3、2,……、1…………


 手が触れて目が合う。

慈炎が少し照れくさそうに笑った。


やっぱり好きだな。離れたくないよ……

伝えることができないこの気持ちが、この手の温度と一緒に伝わればいいのに……


『好き、好き……。慈炎が好き…………』


ぎゅっと目を閉じ強く念じて慈炎を見上げると、慈炎が驚いた顔でわたしを見ていた。


わたし、声に出てた!?


 焦って離れそうになった手を慈炎がぎゅっと握る。顔に熱がどんどん集まって真っ赤になってしまう。恥ずかしくて逸らしたいのに慈炎の澄んだ瞳から目が逸らせなくて、わたしはもう泣きそうになってしまった。

それでもフォークダンスはお構いなしに進んでいく。


「これ終わったあと、雨留が帽子忘れた教室で待ってる……」


一分にも満たない永遠みたいな時間が終わるとき、慈炎が耳元で囁いた。暗いし、自分のしでかしてしまったかもしれないことにいっぱいいっぱいで気づいていなかったけど、このとき慈炎の耳は真っ赤に染まっていた。













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