第5話 ④

 学祭当日、前半が店番のわたしたちは、着替えて教室で準備を進めていた。男子は力仕事に駆り出されているから、学祭が始まるまでの教室の準備は女子の仕事だった。

教室は黒、紫、オレンジの三色の飾りとかぼちゃやガイコツで飾られていて、カーテンを引いているためどこかほの暗く、いかにもハロウィンという感じに仕上がっていた。


「雨留、魔女なのになんか神々しいんだけど……」


「そ、そうかな……」


 千咲ちゃんがキラキラした目でわたしを見る。神という言葉にわたしはドギマギしてしまう。

黒く長いローブとマントにトンガリ帽子、トレードマークのほうきは、日和ちゃんの案で紐で背中に斜め掛けにした。


「千咲ちゃんもかわいい」


 千咲ちゃんはアリスに扮していて、エプロン付きの水色のドレスも大きな赤いリボンもよく似合っていた。いつもはお団子にしている栗色の髪をおろして巻いているのもかわいかった。


「いいな。背が小さいの憧れる」


「逆だよ!!わたしはずっとちびっこだから雨留みたく大きいの憧れるよ!

背の順で一番前で手を腰に当てる屈辱をわたしは一生忘れないよ!!」


 わたしが??となっていると、わたしの髪を整えてくれていた日和ちゃんが後ろから話題に入ってくる。


「あはは!小学校の前ならえってやつねー、懐かしー」


「そうだよ!わたしも手ピシッて前ならえしたかったよ」


「ちっこい千咲はかわいいよ!」


「もーちっこい言うな!」


 笑いながら千咲ちゃんを撫でる真似をする日和ちゃんは、黒猫の仮装をしていた。猫の耳と尻尾が付いたミニスカートに編み上げブーツの衣装は、黒目がちなクリっと丸い目の日和ちゃんによく似合っていた。


「そういえば男子たち遅いね」


「ほんとだね。でもまぁ、準備万端だし先初めてたらいいよね」


「そだね」


同じ店番の子たちの言葉に時計を見ると、今はもう9時25分。あと5分で学祭が始まる。


「鹿目くん、なんの仮装だろう。雨留、慈炎くんも楽しみだね」


 日和ちゃんがこそっとわたしに耳打ちする。


「うん」


 何の仮装をするかはお互い秘密にしているので、わたしは慈炎が何の仮装をするか知らない。はやく会いたいな。


「あ、来た!男子早くー!始まっちゃうよー」


ドアから黒いカーテン越しに千咲ちゃんが外を覗きながら叫ぶ。


「おー、悪りー」


あ、慈炎の声……

一言ですぐわかっちゃうな……


 がやがやしながら男子たちが入ってくる中、思わず慈炎を探してしまう。


「似合う!!」


 女子たちが集まったのは鹿目のところ。鹿目は白いひらひらのシャツに黒いズボン、襟の高い黒いマントを羽織り吸血鬼に扮していた。つけ牙をつけていて、口の端に血糊までつけていてすごくリアルだ。


慈炎は……

あ、いた……


 男友達と談笑してる横顔を見つける。慈炎は前に一緒に見た映画みたいな、海賊の仮装をしていた。船長のハット、ゆったりとした白いシャツにブーツにインした同じくゆったりしたパンツ。腰に巻いた赤い目地の荒い布に、小さなナイフを差している。いつもは束ねている長い髪も今日は下ろしていて、なんだか本当に映画の中の人みたいだ。

見惚れていると、慈炎が視線に気づいたのかこちらを向く。


パチリと目が合うと、笑顔で慈炎が走り寄ってきた。


「雨留は魔女が!すっげー似合ってる!」


「っ、あ、ありがとう。慈炎もカッコいいよ。前見た映画の人みたいだね」


「おー、カッコよかったから真似した!」


「慈炎は悪人面だからめっちゃハマってるよな」


近くにいた慈炎と仲良しの男の子がガシッと慈炎の肩に手を回す。


「悪人面言うな!」


しかめ面で言い返して笑い合っている二人を見て笑っていると、学祭の始まりを告げる放送が流れる。


「あ、始まったね!行かなきゃ!」


「あ、待って!雨留!」


 接客をするために入口の方に向かおうとした私の手を慈炎が掴み、わたしの耳元に顔を寄せる。


「後半、2人で一緒に回らね?」


「え?」


見上げると、耳まで真っ赤にした慈炎の顔があった。


「っ、日和ちゃんたちと一緒に回ろって約束してたから、一回、聞いてみる……」


「おう……」


 多分、わたしの顔も同じくらい真っ赤だ。心臓も飛び出しそうなくらい早く脈打ってる。わたしはそのあとずっと上の空で、運ぶ途中何度もお盆を取り落としそうになってしまった。

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