第5話 ③
夕食後、いつものように縁側で本を読んでいると、慈炎がお盆をもって現れた。
「雨留、柿食う?」
「うん、食べる!ありがとう」
お盆を挟んで慈炎が縁側の隣に腰掛ける。
「鹿目は?」
食後のデザートはいつも三人で食べることが多い。慈炎だけなのは珍しいな。
「明日のパンがなかったから牛乳と一緒に買ってくるって今出てった」
「……そっか」
二人きりだとわかると急にドキドキしてしまう。
いやいや、もう諦めるんだから意識なんてしちゃだめだ!!
でも意識しないのをどうすればいいのか、検討もつかない。
「うま!!」
そんな私の気持ちも知らずに慈炎は呑気に大きな口で柿を頬張る。
「うまいよ。雨留も食ってみ」
笑顔で柿の刺さったフォークを慈炎が差し出してくれる。
もう、だからその笑顔が反則なんだよ……
わたしの顔、赤くならないで……
「ありがと……」
わたしは顔を隠すために少し俯きながらフォークを受け取る。
一口かじった柿は甘くて、トロリと少し柔らかくなっていてすごくおいしかった。
「甘いね」
「うん。また鹿目が近所のおばちゃんに貰ったらしいぜ。
あんな無表情のくせに、ほんと人たらしだよなー、あいつ」
「さすがだね」
ふたりでクスクス笑いあう。
「でも以外だったなー。
もちろんオレから離れられないってのもあるけど、こっちきてから鹿目誰にも手、出してないんだよなー」
「地獄にいたころは違ったの?」
「うん。女とっかえひっかえで、いつも違う子連れてた」
「え?想像つかない」
「あいつも年相応に荒れてたからな。一応いいとこのボンボンだからさ。親との軋轢とか色々あったみたいだし」
「そっかぁ……」
わたしの知らない昔のふたりはどんなだったんだろう。
「慈炎は?慈炎はどんなだったの?ここに来る前」
「オレ?オレは恋とかよくわかんなかったし……。今と変わんねーよ。毎日友達とふざけてばっかだった。ただ、地獄だとオレはやっぱ‘‘閻魔の息子‘‘だからさ。だから、こっちのほうが"ただの自分"ではいられてるかもな」
ただ一人の閻魔の息子っていう立場は、きっと良くも悪くも特別な存在だ。慈炎は少し寂しそうな横顔で、これまでの色々な過去の出来事を思い出しているのかもしれない。
「見てみたかったなぁ。地獄での二人を」
「一緒に来るか?今度の正月。報告がてら一度帰ろうと思ってんだけど」
「え、いいの?わたしも行って……」
「うん、全然いいだろ」
「行きたい!!」
「おう、じゃあ約束な」
「うん!」
慈炎が育った場所に行けるんだと思うと嬉しかった。あと半年の間に、一つでも多く思い出を残したかった。
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