第5話 ②
「では、うちのクラスの出し物はハロウィンカフェに決定します」
パチパチと教室に拍手が響く。
10月を少し過ぎたころ、学内は月末に行われる学祭を前に、どこか浮足立っていた。それはわたしたちのクラスも例外ではなくて、みんなどこかそわそわとしていた。
「めっっっちゃ楽しみ!!みんななんの仮装する!??」
「小悪魔的な?あ、黒猫とかもかわいい!
雨留は髪長いし背もあるから魔女とかも似合いそうだね!」
「ほうき持ったり??」
「ほうき持ったらお盆運べないよ!!」
「あ、そっか」
いつもの屋上でお昼を食べながら、話題は当然学祭のこと。
「でもさ、一番楽しみなのは後夜祭だよね」
「後夜祭??」
「うん。フォークダンスがあるんだよ!好きな子と手をつなぐチャンス!」
ピースしながら笑う日和ちゃんはすごくかわいい。でも、わたしが思い出すのはあのプールの帰りの鹿目の言葉。
『いつかはお別れしなくてはいけない方なので、深入りしないように、とは思っています』
鹿目は来年の4月にはここにはいない。そしていつかは地獄に帰ってしまう。
近づかないようにしているのは鹿目の優しさで間違いないんだけど、日和ちゃんのこの笑顔を見ると、どうしても切なくなってしまう。
「いいなー。別校だとこういうとき寂しーな」
「でも学祭は来てくれるんでしょ。一緒に回れるしめっちゃいいじゃん」
「へへ、まーね」
「幸せか!!」
日和ちゃんが千咲ちゃんを肘で小突いて、千咲ちゃんがわたしのほうに倒れてくる。
「雨留も慈炎くんと踊れるといいねぇ」
わたしの肩にもたれたまんま、千咲ちゃんがにんまり笑う。
「うん!」
わたしは大きくうなずく。
考えてもしょうがない。あと少し、この時間を楽しむって決めたんだから、神に戻る前に、ふつうの女の子として今は過ごそう。
わたしはきゃ、きゃ、と楽しそうなふたりの笑顔を、この時間ごと目の奥に焼き付けた。
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