第4話 ⑧

「そうだったの」


「嘘をついて、ごめんなさい……」


「……雨留、天界に帰ってきたら?」


「え?でも、まだわたし、水神として何をすべきか、まだまったく分かってなくて……」


「人間界にいても、きっとずっとわからないと思うよ」


「え?」


「雨留、今まで人間の中で過ごしてきて、何をすべきか少しでも分かった?」


わたしは少し考え、ふるふると首を振る。


「近くから見ていても、わたしたちがすべきことは見えないんだよ。実際前のお前の失敗も、1人の人間だけを見過ぎたから起きたミスだろう?

神が天界にいるのには、それなりに意味があるんだ。俯瞰して人間の世界や自然を見て、やるべきことがはじめて分かるんだよ」


「じゃあ、なんでお父さまは……」


「ふふ、父上はお前を1番心配し、気にかけていたからね。どうにかして部屋から出て欲しかったんだと思うよ」


あの厳しい態度も、言葉も、全部わたしのためだったんだ……。


「もしやるべきことが分からないなら、私の下で働くといいよ。雨留の力があれば、出来ることはたくさんあるからね」


「お兄さま……」


ありがたい申し出なんだろう。でも、わたしはすぐに「うん」と言うことができなかった。俯いてしまった私の頭をお兄さまが優しく撫でる。


「急ぐことはないよ。一度考えてみるといい」


「はい……」


「父上は、お見合いを考えているみたいだったけどね」


「へ?お、お見合い!?」


予想外な言葉に、わたしは素っ頓狂な声を上げてしまう。


「子を成すのも女神の大事な仕事だから、わたしはそれもありだと思うけどね」


「や、嫌だ!!!」


思いのほか強い声が出た。


「……、もしかして、今日の2人のどちらかが好きなのかい?」


お兄さまの青い瞳が厳しく光る。


「やめた方がいい」


「なん、で……?」


「地獄の食べ物を食べたら、もう天界には二度と帰ってこれないからだ。彼らはいずれ地獄へ帰るんだろう?

今うまくいったとしても、2人に未来はないよ」


「……っ、だ、大丈夫、だよ……。

恋人同士とかじゃないし、何もないから……」


そうだ。恋人どころかわたしは自分の気持ちに確信すら持てていない。きっと今ならまだ引き返せる……。

そう思うのに、なんでこんなに悲しいんだろう……。


 上の空でお兄さまを見送り、お風呂の中でも、ベッドに入ってからも、お兄さまの言葉がグルグルと頭の中を回って、わたしはその日なかなか眠ることができなかった。

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